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新型コロナウイルス感染症のこれから

病院レター第86号 2020年5月20日

感染管理室長 北川雄一

コロナウイルスには、従来から風邪の原因ウイルスとしてヒトに感染する4種類があることが知られていました、その後、重症急性呼吸器症候群(SARS︔2002年)や中東呼吸器症候群(MERS︔2012年)が発見されましたが、今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、人に感染する7番目の新たなウイルスとして、2019年に中国で発見されました。

1.新型コロナウイルス感染症の感染拡大

2019年12月以後、中華人民共和国湖北省武漢市で「原因不明のウイルス性肺炎」が報告され、その後、中国全土に感染が拡大しました。2020年に入り中国以外の国と地域に拡大し、1月31日に世界保健機関(WHO)は、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、3月11日になって、「パンデミック相当」との認識を表明するに至りました。グローバル化した中で、世界的にパンデミックへの対策が不十分であったため、医療のみならず、経済的にも大混乱に陥っています。
2020年4月25日現在185の国と地域に渡り、感染者2,100,143人、死者140,800人となっています。さて、このような蔓延状況は、いつまで続くのでしょうか︖

2.感染が終息する条件

ある集団が抗体を有して免疫を獲得すれば、その感染症の大流行は終息します。これを「集団免疫」といいます。集団免疫の獲得には、感染者が増えて自然に免疫を獲得した人口が増えるか、ワクチンによって免疫を獲得させた人口が増えるかのふたつの方法があります。新興感染症の場合、集団人口のどのくらいの割合が抗体を有すればよいのかは、基本再生産数(R0)により決定されます。R0は、一人の感染者が何人に感染を広げる可能性があるかを表す数字です。この数字が大きければ大きいほど、いわゆる「感染力が強い」状態で、より多くの人が抗体を有していないと感染が拡大し続けることになります。この抗体を有する人の割合を集団免疫レベル(HIL、あるいは集団免疫閾値HIT)といいます。例えば、感染力が強いとされる麻疹のR0は12-18で、HILは92-95%です。エボラ出血熱のR0は1.5-2.5で、HILは33-60%とされています。COVID-19の場合、全体像が明らかでないため、まだR0が確定してはいませんが2.5程度(2-5.7)、HILは60%程度(50-82%)と推定されています。

3.新型コロナウイルス感染症が終息するには

このHILを日本人1億2千万人に当てはめてみると、約7千5百万人が抗体を有していないといけないことになります。現時点ではSARS-CoV-2に対する有効で安全なワクチンはまだ開発途上です。実際に治験と一定の観察期間を経て安全性が確認されるには、まだまだ時間が必要と考えられます。それまでの間は、医療崩壊を防ぎながら、感染者(=抗体保有者)が増えていくのを待つしかないのが真実です。もし、先ほど示したように7千5百万人が感染して抗体を有するには、(中国からの報告データ1)に基づけば、)4.7%・350万人が重篤化し、2.3%・170万人が死亡されることになってしまいます。この中国のデータには、医療崩壊した武漢市が含まれているため、医療崩壊が全くなく、医療アクセスが確保されていれば、重症化率や重篤化率、死亡率は、もうすこし低下するかもしれません。4月15日の厚生労働省専門家チームの報道発表では、85万人が重篤化し、40万人が死亡される可能性を示していました。いずれにせよ、医療崩壊を防がなければ大きな犠牲を払うことになります。
医療崩壊を防ぐために、感染のピークを抑えるという方針を、厚生労働省は「新型コロナウイルス対策の目的」というイラスト(図1)で示しています。このイラストの概要はそのとおりですが、真実とは少し違うと思います(図2)。一つ目に、ピークを抑え込めば抑え込むほど、裾野が長くなり、終息までに時間がかかるということです。これはHILの人数は同じですから、グラフの面積が同じにならないといけないからです。おそらく月単位~年単位の戦いになるでしょう。2つ目に、ピークは一つではないかもしれないということです。おそらく、増加と減少を繰り返しながら、ピークが下がっていくと思われます。また、最初のピークが最大とは限りません。実際、愛知県のエピカーブ(図3)を見てみると、3月上旬の名古屋市南部のデイ・サービスでのクラスターが終息したのちに、複数のピークのある、より大きな山が来ています。

図1 日本での対策の目的

図2 日本での対策の目的(真の姿)

図3 愛知県の状況

4.おわりに

日本でも、感染拡大期を迎えて数か月がたち、外出自粛、活動自粛や不要・不急の医療機関への受診の抑制、長期間処方の実施などが言われる一方で、「自粛疲れ」といったことも言われています。これまで述べたように、COVID-19感染症が終息するには、まだ長い時間と、一定数の犠牲者を要すると予測されます。この地区における医療崩壊を防ぎながらワクチン開発を待つには、当センターを含めた中核医療機関と、近隣の開業医や民間病院の先生方との連携が欠かせないと考えます。今後ともご協力よろしくお願い申し上げます。

参考資料

  1. Wu Z, McGoogan JM. Characteristics of and Important Lessons From the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Outbreak in China: Summary of a Report of 72 314 Cases From the Chinese Center for Disease Control and Prevention. JAMA. 2020;323(13):1239-1242. doi:10.1001/jama.2020.2648このリンクは別ウィンドウで開きます

長寿医療研究センター病院レター第86号をお届けいたします。

今回は予定を変更して、コロナウイルス感染症関連のレターとしました。2月にはクルーズ船へ人員派遣依頼がありました。また名古屋の隣接地域でのクラスター発生があったことから、ハイリスクの患者さんの多い当センターも臨戦態勢で臨んできました。全くの幸運と思いますが、4月30日現在患者さん、職員とも陽性者0が続いています。しかし北川室長も指摘しているように、長期戦をみこした対応が必要になってくると思います。地域の中での病院の役割分担を考える時に、当センターが最も役に立てる機能は何か、何ができるのか、職員全員が知恵を絞っているところです。

病院長 鷲見幸彦