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骨粗鬆症性椎体骨折に対する積極的入院保存治療

病院レター第84号 2020年1月20日

整形外科部 脊椎外科医長
松井寛樹


 高齢化社会を迎え、お元気な高齢者を見ることが珍しくない昨今ですが、骨密度の低下により骨粗鬆症を有する高齢者も多く、尻もちや転倒などの軽い衝撃にも関わらず骨折を発症し、それを契機に活動性が著しく低下してしまうことが多々あります。骨粗鬆症性骨折は橈骨遠位端骨折、大腿骨近位部(頚部、転子部)骨折、脊椎椎体骨折が3大骨折と言われており、前述の橈骨、大腿骨骨折に関しては早期に手術治療を行うことによりADL維持を目指すことが推奨されておりますが、脊椎椎体骨折に対してまずは保存治療が優先されます。高齢者脊椎骨折の診療実態に関する全国調査では、入院患者さんの90%以上は保存治療を受けており、治療の原則は「安静と疼痛コントロール」です。当院でもこの原則を順守し、2012年から2016年までの骨粗鬆症性椎体骨折(osteoporotic vertebral fracture: OVF)の入院において、97.9%で保存治療を行っています(図1)。

図1国立長寿医療研究センターにおける骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)の入院治療

最近ではballoon kyphoplasty(BKP:経皮的バルーン椎体形成術)や最小侵襲脊椎安定術(MISt)などの高齢OVF患者にも優しいと考えられる手術方法があり、私も急性期病院勤務時には様々な手術を行って参りましたが、インプラントの脱転や隣接椎体骨折などのトラブルが発生することもあり、さらに治療が難渋するケースもみられ、必ずしも手術治療によってADL維持が図れるとは限りません。そこで今回、当院でのOVFに対する積極的入院保存治療の実際と成績、手術に至る注意すべき病態につき説明します。 

1. OVFの診断と積極的入院保存治療の実際

高齢者脊椎骨折における症状の特徴として、軽微な外傷起点があり腰背部痛の訴えがあれば診断に苦慮しないことが多いですが、外傷起点がはっきりせず、発生時期もはっきりしないため遅れて痛みが増強することもあります。そのため、当院整形外科では高齢者の腰部痛で受診された場合、必ずOVFを念頭に置いて診察しています。診察では多少は歩けていても体動時痛が強い場合、側腹部、鼠径部、臀部にも痛みがある場合、脊柱叩打痛がある場合などは積極的にOVFを疑い、画像で確認します。画像診断は、レントゲンでは変性所見や陳旧性骨折などが混在し判別が難しいことが多く、MRIが最も信頼できる画像評価ですが、すぐに撮影できるとは限りません。そのため当院では、レントゲンの側面像で臥位と座位を撮影し、臥位では圧壊しなくても座位で圧壊する椎体があるかを確認することで簡便に新規の圧迫骨折と判断できることがあります(図2)。

図2L1圧迫骨折レントゲン側面像の臥位、座位

図3当院における高齢者脊椎骨折の初期治療方針

当院では高齢者の腰部痛で受診された場合、図3のフローチャートに示すようにOVFと診断、もしくは疑う場合は可能な限り入院していただき、装具を採型した後、床上安静を行います。床上安静の期間は骨折型により期間を変更しており、椎体後壁に損傷のない安定型骨折は1週間以内、損傷のある不安定型骨折は2~4週間とし床上リハビリを行い、装具装着し徐々に離床を行っていきます。装具についてはエビデンスに乏しく、標準化された外固定方法はないため、全国470施設からのアンケート調査では軟性コルセット使用が43%、硬性コルセット40%、体幹ギプス31%、腰部固定帯28%と非常にばらつきがあります。当院では硬性コルセット70%、軟性コルセット30%の使用状況であり、可能な限り硬性コルセットの使用を推奨しております。軟性、硬性での偽関節や椎体変形発生率は変わらないという報告もありますが、当院ではより安定感のある硬性コルセットにて離床時の除痛が図りやすく、偽関節等のトラブルも少ないと考えております。入院治療における手術治療の割合は2012年~2016年の間でわずか2.1%であり、当院で初期治療を行ったOVFに関しては全例保存治療で改善しております。また、入院中に全身DXA法を用いて骨密度のみではなく四肢筋肉量も測定し、それぞれ患者さんに合った骨粗鬆症治療、リハビリを行っています。また、当院では回復期病棟と地域包括ケア病棟を有しており、これらを活用し社会資源の調整を行いながら退院を目指すことが可能であり、初期治療を十分に行うことと、様々なサポートを介入されることで平均入院期間は26.9日でOVF入院患者の74%が自宅復帰可能でした。

2. OVF治療における骨粗鬆症、サルコペニアの重要性

OVF治療の問題点として、まずは骨粗鬆症の関連が挙げられます。加齢による骨密度の低下は避けられないですが、骨粗鬆症自体の症状が乏しいため、薬物療法などの治療率が非常に低いことが問題となっています。2012年~2016年までに当院で入院加療を行った380例の解析では、骨粗鬆症を有する患者(YAM値≦70%)は47.2%、受傷前の骨粗鬆症治療介入は男女全体で25.8%、女性31.2%、男性12.6%でした。また、受傷後1年で、骨粗鬆症を有する患者は有しない患者と比較し、JOAスコアやBartheal indexが有意に低下しており、骨粗鬆症治療はOVFの治療成績に影響する結果でした。そのため、入院期間に積極的に骨粗鬆症治療薬の導入を行い、継続していただくようにしています。また、近年注目されているサルコペニア(加齢性筋肉減少症)もOVF治療の問題点として挙げられます。サルコペニアは骨粗鬆症と関連し、ADL低下、易転倒性があることが分かっており、当科の研究においてOVF入院患者全体で69.5%がサルコペニアを合併しており、特に男性では82.4%と非常に高率で、男性では短期治療成績が低下しておりました。サルコペニアの治療は現状、確立されたものはありませんが、骨粗鬆症治療のみならず、骨格筋にも着目した治療体系が重要だと考えております。

図4OVF遅延治癒に対するBKP 72歳女性。Th12圧迫骨折にて他院で1.5か月保存治療も腰痛にて自立歩行困難にて当院紹介。BKP施行により腰痛改善し歩行可能となった。

3. 手術治療を考慮する骨折型

当院ではOVFに対し、保存治療を原則に行っていますが手術治療に移行する症例もあります。ここでは手術治療を要する可能性がある骨折につき説明します。

遷延治癒、偽関節

受傷後早期に治療介入し、装具療法を行っても骨折が安定せず、治癒が遷延し、偽関節となり腰痛のため座位や立位保持が難しいことがあります。このような症例は骨折椎体に空洞を形成している場合が多く、荷重により椎体が圧壊し痛みが出てしまいます。遷延治癒や偽関節にて離床が進まない、ADL獲得が難しい場合は経皮的バルーン椎体形成術(Balloon Kyphoplasty: BKP)が有効です。全身麻酔ですが手術時間は30-40分で出血量もほとんどなく、術直後からの除痛効果があり、短期成績としては非常に優れた治療であります(図4)。しかし、隣接椎体骨折の発生率が高く、長期成績も確立されていないため、保存治療に抵抗する場合に限って施行をしています。

遅発性圧壊

椎体後壁に骨折が及ぶ場合、離床で椎体が圧壊することで脊柱管内に骨片が脱出し下肢麻痺や膀胱直腸障害を発生することがあります。このような症例は早急に手術が必要となり、下肢麻痺が急激に進行する場合は緊急手術を要します。 手術は後方除圧固定(図5)や前後方固定術(図6)を行います。手術侵襲は大きくなりますが、麻痺回復やADL獲得を目指すには保存治療では難しいと考えます。

図5OVF遅発性圧壊に対する後方固定 85歳女性。3週間前に転倒、腰痛あり他院受診も骨折なしと言われ帰宅。杖歩行可能であったが、3日前から両下肢麻痺。尿開出現し受診。Th11圧迫骨折後圧壊による遅発性麻痺にて緊急手術(後方固定、椎弓切除、椎体形成)施行も麻痺改善無くADLは車いすとなった。

図6OVF遅発性圧壊に対する前後方固定 74歳女性。Th12圧迫骨折にて他院で保存加療中。10日前から腰痛増強し体動困難、徐々に下肢麻痺進行し歩行困難となり受診。Th12圧迫骨折後圧壊による遅発性進行性麻痺にて手術(前後方固定)施行。麻痺改善傾向あり。

強直性脊椎病変を伴う骨折

図7OVF遅発性圧壊に対する後方固定 70歳男性。自宅で居眠りしていて椅子から転落。背部痛あり当科受診。DISHを伴うTh8剪断性椎体骨折にて手術(後方固定)術後早期離床可能、自立歩行で退院。

強直性脊椎病変(ankylosing spine disorders: ASD)は強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis: AS)や、びまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis: DISH)に代表される前縦靭帯の骨化を中心とした脊椎連続性骨化のある病態であり、骨折を起こすと脊柱が全周性に破綻し脊椎損傷をきたすことが知られています。通常の圧迫骨折と異なり、脊椎不安定性が非常に強いため、通常の保存療法(早期の装具での離床)で骨癒合不全や遅発性麻痺を発症する可能性が高く、手術治療が推奨されます。高齢化に伴い、このような病態は増加傾向でありますが、一般整形外科医でも認知されていないことも多く、通常の保存療法を行うことで、遅発性麻痺を発症してしまうことがあるため注意が必要です。手術は後方固定で原則骨折椎体を挟んで上下3椎体での固定を行います(図7)。

4. おわりに

骨粗鬆症性椎体骨折は高齢化に伴い増加しておりますが、たかが圧迫骨折だからと油断して治療を行うと痛みの遷延や麻痺発症などで高齢者の日常生活における活動性を大きく妨げます。初期に厳密な保存治療を行うことにより治癒がほぼ可能でADLを維持できる可能性が高いため、骨粗鬆性椎体骨折受傷でお困りの患者さんがおられたら、ぜひご紹介ください。

参考文献

  1. A. Harada, et al: Nationwide survey of current medical practices for hospitalized elderly with spine fractures in Japan. J Othsop Sci 15:79-85, 2010
  2. 倉都滋之, 原田 敦, 他: 骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対する外固定治療の現状と課題. Osteoporosis Japan 17: 182-186, 2009
  3. H. Iida, Y. Sakai, H. Matsui: Sarcopenia affect conservative treatment of osteoporotic vertebral fracture. Osteoporosis Sarcopenia Sep; 4(3): 114-117, 2018

長寿医療研究センター病院レター第84号をお届けいたします。

今回は高齢者の脊椎椎体骨折をテーマに整形外科部脊椎外科医長の松井寛樹先生に執筆していただきました。椎体圧迫骨折は頻度の高い疾患で、高齢者に接する全ての診療科、医療者が遭遇する可能性のある疾患です。一方で著者も指摘しているように、新鮮骨折が存在するかどうかは単純Xpだけでは困難なことも多く、MRIまで撮像しないとなかなか診断がつかないという難しさもあります。図3に示されたフローチャートは専門医以外にも役に立つのではないかと思います。ぜひご利用ください。また遅発性圧壊も患者さんの予後を考えると重要な病態です。当センターでは圧迫骨折発症後の予後改善のための取組を進めると同時に、予防に関してもエビデンスを創設していく方針です。今後ともよろしくお願いいたします。

病院長 鷲見幸彦