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C型肝炎治療に関する最近の話題

病院レター第61号 2016年3月15日

消化機能診療部長
松浦俊博

 高齢者診療においては、心肺腎機能などの臓器的な加齢による機能低下、認知機構の低下などの様々の要因によって治療に制約があり、また、治療後の合併症の多さとその後のADLや認知機能のますますの低下がさらに診療を難しく、複雑なものとしています。高齢者医療では、ガイドラインに基づいた標準治療はもとより、それ以外にADL(日常生活活動)とQOL(生活の質)の温存および向上を第一に考慮した治療”、いわゆる広い意味での姑息的緩和治療も治療選択肢の一つとして考えて診療する必要があると思われます。当院消化器科では、この両者の立場から考え、常勤医が3人、非常勤医(週1回)が1人と少ないスタッフで日夜診療、臨床研究をこなしています。
 ところで、近年の医学の進歩は急速で、つい数年前の標準治療がすでに古いものとなっている事例も少なくありません。近年、消化器領域で新しい治療法が導入されて、ガイドライン治療が2~3年前のものと比べてすっかり変わってしまった疾患にC型肝炎があります。特に、従来のインターフェロンの使用が難しかった高齢C型肝炎患者にとりましては朗報です。効果も安全性も画期的な治療法ですが、注意点もありますのでご紹介させていただきます。

1.C型肝炎の治療の変遷

 C型肝炎は、1980年代までは輸血後に肝障害が起きる血清肝炎と知られ、非A非B肝炎と呼ばれていました。1989年に、この肝炎の起因となるウイルスの遺伝子が同定されてRNAウイルスであることが判明してC型肝炎と名付けられましたが、治療法は強力ミノファーゲンCの経静脈的投与を中心とした肝庇護療法が行われ、その効果は乏しく感染後10~20年たつと肝硬変に移行してさらには肝癌を合併する非常に難治の肝疾患でした。現在でも、日本には120~150万人のC型肝炎罹患者がいるものと推定されています。
 1990年代に入り、免疫賦活によりウイルス排除を期待したインターフェロン単独療法が開発され脚光を浴びましたが、連日注24週から48週投与が必要なこと、副作用が多いことが難点でした。発熱、倦怠感などの症状は必発で、白血球を中心とした汎血球減少、うつ病や糖尿病を合併する症例もあり特に高齢者への適応は非常に困難でした。また、その効果も、特に日本人に多いとされるゲノタイプ1型への効果は20~30%と非常に低いものでした。その後、インターフェロンの有効時間を延長させて一週間に一回投与を可能としたペグインターフェロンの導入、さらには2000年代に入りC型肝炎に抗ウイルス作用を示したリバビリン(レベトールorコペガシス)との併用療法が確立して、ゲノタイプ1型と2型の高ウイルス量(HCV-RNAリアルタイムPCR法、>5.0logIU/ml)にはペグインターフェロン/リバビリン併用療法(それぞれ48~72週、24週投与)、低ウイルス量にはペグインターフェロン単独24週投与が推奨されました。ペグインターフェロンは一週間に一回投与のため、比較的副作用が少なくゲノタイプ2型には90%程度のウイルス学的著効(SVR;sustained virological response=治療終了後6ヶ月間HCV-RNA陰性を保つこと)、ゲノタイプ1型へも約50%のSVRを満たすようになりました。しかし、65歳以上の高齢者ではSVR率が30%程度、さらに70歳以
上では20%以下と低いものでした。ペグインターフェロンになり副作用の程度が低くはなりましたが、やはり高齢者には耐用性が低く中止や減量となるのみならず、年齢的な免疫能低下により投与完遂例でもSVRが低いとのデータで、高齢者への適応は慎重投与とせざるをえませんでした。

2.現在のC型肝炎の治療法

 この状況を変えたのがここ数年で開発された直接作用型抗ウイルス薬(Direct acting Antiviral Agents:DAA)で、これによりC型肝炎治療は画期的な変革を遂げました。C型肝炎ウイルスは肝細胞内でまず自身のRNAからタンパク質を作成してそれを切断して複製し増殖していきます。その増殖過程を抑えるべく、まず切断酵素(NS3/4Aプロテアーゼ)を阻害する作用のあるテラプレビル(テラビック)が開発されました。この薬剤は非常に重篤な皮膚障害を起こしましたが、すぐに改良型のシメプレビル(ソブリアード)やバニプレビル(バニペップ)がでて、これらとペグインターフェロン/リバビリンとの3剤併用療法がゲノタイプ1型に対してSVR24(SVRが治療後24週続くこと)が60%近いとの好成績をだしました。2013年には標準治療となりましたが依然インターフェロンを使用することには変わりなく、やはり高齢者には適応が難しいと考えられました。

表1

  Genotype 1 Genotype 2
高ウイルス量
HCV-RNA
≧5 log copies/ml
シメプレビルあるいは
 テラプレビル、バニプレビル
 +Peg-IFNα-2b
 +リバビリン24週
Peg-IFNα-2b
 +リバビリン24週
低ウイルス量 Peg-IFNα-2a(24〜48週)
あるいは
従来型IFN単独24週
Peg-IFNα-2a(24〜48週)
あるいは
従来型IFN単独24週

 一般社団法人日本肝臓学会編『C型肝炎治療ガイドライン』2013年11月第2版 参照

2014年9月にC型肝炎ウイルス(HCV)の複製に必須の蛋白である非構造蛋白5A(NS5A)の機能を阻害するHCV NS5A複合体阻害剤であるダクラタスビル(ダクルインザ)が登場して、前述のプロテアーゼ阻害剤であるアスナプレビル(スンベプラ)と併用する、ついにインターフェロンなしのインターフェロンフリーのC型肝炎治療の時代となりました。

表2

Genotype 1 Genotype 2
遺伝子変異検査(Y93&L31)
腎機能検査
  1. ソフォスビル/リバビリン
  2. ペグインターフェロン/リバビリン
  1. ソフォスブビル+レディパスビル合剤
    (腎障害なし、GFR<30は禁忌)
    パリタブレビル+リトナビル
    +オムビタスビル合剤
    Y93変異なし)
  2. ダクラタスビル/アスナプレビル
    Y93&L31変異なし)
  3. ソブリアードorバニペップ
    +ペグインターフェロン/リバビリン

一般社団法人日本肝臓学会編『C型肝炎治療ガイドライン』2015年12月第4.1版 参照

この2剤のゲノタイプ1型の治療成績は80%以上との画期的なものであり、さらに24週間の内服のみで外来治療が可能なこと、副作用は発疹や肝障害などのみと少ないことで、高齢者にも使いやすい薬となりました。欠点は、ゲノタイプ1aやC型肝炎遺伝子のY93とL31に変異があると効果が乏しく、耐性株変異を惹起する可能性があることでしたが、それを補うように2015年5月にはギリアド社から、核酸型ポリメラーゼ(NS5B)阻害剤であるソフォスブビル(ソバルディ)が発売されました。耐性がおきにくいとされプロテアーゼ阻害剤のレディパスビルとの合剤であるハーボニーは先行薬剤の半分の12週間の内服でゲノタイプ1型すべてに対して実に95%以上のSVR24の成績であり、リバビリン(レベトール)+ソフォスブビル(ソバルディ)ゲノタイプ2型には100%近い成績でした。GFR<30の腎障害には禁忌ですが、11月にゲノタイプ1型患者に対してアッヴィ社よりハーボニーと同等の効果をもち腎障害患者にも使用可能なパリタブレビル(NS3/4A阻害)+リトナビル(プロテアーゼ阻害剤)+オムビタスビル(NS5A阻害)合剤(ヴィキラックス)が発売されました。これらの内服薬には代償性肝硬変(Child–Pugh分類A)にも安全性が確認されて適応があります。C型肝炎の治療推奨ガイドラインは2014年の夏以降3ヶ月ごとに追加、変更と非常に急速な変革ですが(2013年11月(表1)と2015年12月(表2)における日本肝臓学会の治療指針をまとめ、その相違を比較しました)、C型肝炎という疾患は、発見されてから四半世紀をへてついに「外来治療で治る時代に突入した」といえます。特に、インターフェロンの使用が難しく効果も期待できなかった高齢C型肝炎患者においては、比較的安全に使用できますし、罹患期間が長くなっていて発癌リスクが高いと想定されますので早期に治療を開始することが望ましいと思われます。ただし、Child–Pugh分類BとCの肝硬変には使用できないことと高度の腎障害患者には治療薬が限定されることが要注意事項です。また、プロトンポンプ阻害薬、抗けいれん薬、Ca拮抗剤、緩下剤など併用禁忌や注意となっている薬剤もあります。治療する前に、すべての内服薬の把握、肝予備機能と腎機能の評価、C型肝炎の遺伝子変異の検査をきちんと行って、どの治療法を選択するかを決定することが非常に重要ですし、耐性株の問題もありますので定期的な肝機能検査とウイルス量測定による治療効果判定(SVRの時期、期間など)を行う必要があります。また、抗ウイルス剤にはインターフェロンとは異なり肝癌発症リスクを抑制するというエビデンスはないため、肝硬変患者では肝癌発症リスクは残るので、これまでと同様に慎重な経過観察が必要です。

3.おわりに

近年、我が国の高齢化は加速度的に早くなり、現在では65歳以上の高齢者の全人口に占める割合は25%を超え、この増加傾向はさらに勢いを増すものと想定されています。ますます、今後は高齢者医療が重要となっていくと思われます。当長寿医療研究センターではこのミッションを解決すべく日々精進をつとめています。今後もどうぞ宜しくお願いいたします。

参考文献

  • コンセンサス肝疾患2007;坪内博仁監修、(株)日本メディカルセンター
  • 一般社団法人日本肝臓学会編『C型肝炎治療ガイドライン』2013年11月 第2版
  • 一般社団法人日本肝臓学会編『C型肝炎治療ガイドライン』2015年12月第4.1版

長寿医療研究センター病院レター第61号をお届けいたします。

 松浦先生によるC型肝炎治療の変遷を読みますと、急速で劇的な医学の進歩には目を見張るばかりです。まだまったく未知の新型肝炎としてC型が登場したと耳にしたのは、私が大学に在籍していた頃で、それが紹介されたように直接作用型抗ウイルス薬の内服だけで高い治癒率を得るまでになるとは想像もつきませんでした。しかも、副作用も少なくなり、高齢者に対しても高度の腎障害以外には使いやすくなったという朗報です。ただ、高い薬なので高齢者には経済的負担という心配はあります。手元の計算では、最も高価なハーボニーで総額673万円、最新のヴィキラックスで450万円にもなりますが、治療費助成があるので、患者さんの自己負担は収入により月額1万円か2万円ということのようです。幸い3ヶ月で内服終了となるので、経済的余裕のない高齢者でも何とかなりそうな金額です。そのままで肝硬変や肝癌が発症した場合の医療費と比較すれば相当に安上がりと思われます。

病院長 原田敦