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呼吸器科診療の方向性:COPDの治療 -薬物治療は吸入薬で-

病院レター第46号 2013年9月25日

呼吸機能診療科 医長 西村浩一

はじめに、ご挨拶をかねて

 当院における呼吸器科診療は、前任者の退職後、数か月間の専任の診療科長不在の期間が続きました。1月に私が着任し、また、4月から2名のスタッフを迎えましたので、2013年になって3名の医師が交代し、新たなメンバーで呼吸器内科診療に取り組むことになりました。わが国における医師不足や偏在は広く知られる事実ですが、呼吸器内科の領域でも、その傾向が顕著です。このような医療状況の中で、今回新たな呼吸器診療の拠点を目指しての再出発としたいと希望しています。
 呼吸器内科診療では、生命が危険にさらされる重症患者やターミナルケアの対象となる患者も多く、必然的に重症患者の頻度が高いのが現実です。しかし、実際には、信頼を得ている呼吸器専門施設は極めて限られたものでしかありません。地域の住民や医療施設から、また他の診療科から見ても、役に立つ、さらに信頼できる呼吸器内科診療が目標です。当院では、ほとんどの医療設備がそろっていますが、ハイテク設備より医師の能力の方が呼吸器内科診療には重要です。さらに、この地に、科学的な呼吸器内科診療が根付くように後輩の育成にも取り組みたいと考えています。

COPDとは

 今回は、呼吸器疾患の中でも、COPDという病気を紹介したいと考えます。COPDとは、chronic obstructive pulmonary diseaseの略語で、日本語に訳すと慢性閉塞性肺疾患となります。以前には、肺気腫や慢性気管支炎という病名も使用されてきましたが、様々な病名が使用されるのは好ましくないため、わが国でも、この病気をCOPD (シーオーピーディ)という病名で統一して呼ぶように勧められています。
 この病気は、長期間の喫煙が唯一明確な原因で、過去数十年間における高い喫煙率を背景にして増加しており、2020年には世界の死亡原因の第3位になると予想され、わが国でも今後爆発的な患者数の増加が懸念されています。欧米では、COPDによる高い有病率と死亡率に対する対策として、多くの診療ガイドラインが登場しています。わが国で行われた疫学研究(NICE study)でも、無症状に近いCOPDの症例が既に多数潜在していることが明らかとされました。

 その診断はシンプルです。労作時息切れが存在し、十分な喫煙歴があれば、簡易肺機能検査を実施し、FEV1/FVC(1秒率)が低下(70%以下)していればCOPDと診断できます。この閉塞性障害が確認されなければ、COPDの診断は成立しません。したがって、簡易肺機能検査なしでは、COPDは診断できないことになります。臨床症状は、息切れ、喀痰、咳嗽、喘鳴、発作的な呼吸困難などであり、症状からは喘息とは区別できません。このようにCOPDは、肺機能検査(スパイロ検査)で1秒率または1秒量が低下することで診断されますが、COPDが正しく診断されておらず見逃されているという批判があり、これは簡単な肺機能検査がきちんと実施されていないからと考えられています。

薬物治療は吸入薬で

 COPDの治療は、禁煙、薬物治療、呼吸リハビリテーション、呼吸不全を合併した場合の長期酸素療法に要約されます。薬物治療は、吸入療法が主体であり、吸入手技の習得が必要であるため、呼吸器科の外来では繰り返してその指導が実施されます。COPDの治療に、内服薬はほとんど使用されません。しかし、COPD患者の多くは、これらの吸入薬による治療により劇的な症状の改善を経験することができるでしょう。

 薬物治療は、気管支拡張薬による気流制限の改善が第1選択薬となり、長時間作動性抗コリン薬およびβ2刺激薬が中心的役割を占めています。しかし、長時間作動性気管支拡張薬は乾燥粉末吸入薬として薬剤ごとに異なった装置(デバイス)で吸入しなければならないため、患者の理解は容易でなく、繰り返して薬剤吸入手技についての指導と再診時の患者自身による吸入手技の確認などがきわめて重要です。当院においても、医師、看護師、薬剤師によって、繰り返して、吸入指導を行っています。外来診療では、院外の調剤薬局において処方されるため、地元の薬剤師会の皆さんの協力を得て、吸入手技の指導をより確実なものにするためのプロジェクトを開始したばかりです。
 β2刺激薬には経口薬もありますが、投与量が微量で副作用が少ないため、現在では吸入治療が主体で、経口薬は推奨されていません。長時間作動性貼付薬(ホクナリン)がわが国では使用されていますが、エビデンスは限定的です。唯一の経口気管支拡張薬であるテオフィリン製剤(キサンチン誘導体)の効果は上記の吸入薬の効果と比較するとかなり劣ります。去痰薬がしばしば投与されていますが、欧米の診療ガイドラインには、その投与はすすめられないと、また、鎮咳薬の定期的な投与は禁忌であると記載されています。したがって、COPDの患者に対して、内服薬の投与は、合併症に対する投薬を除くと、ほとんど適応がないといっても過言ではありません。
 喘息の第1選択薬である吸入ステロイド薬は、多くの臨床試験と結果をめぐっての議論の結果、COPD安定期においても、急性増悪の頻度の減少、健康関連QOLの改善などの効果を有するとする見解が有力です。気流制限で定義される重症度が重症であるほど効果が認められており、また悪化を繰り返す症例にすすめられます。わが国でも、長時間作動性β2刺激薬と吸入ステロイド薬の合剤にCOPDの適応が認可されています。このように、COPDの薬物治療の選択肢が拡大し、欧米では、長時間作動性抗コリン薬およびβ2刺激薬、吸入ステロイド薬の3種類の薬剤を吸入するTripple Therpyが主流になりつつあります。

 “わが国での呼吸器科診療の近代化、いうなれば経験的診療から科学的診療への改革は、われわれの世代の呼吸器内科医に課せられた責務である”とうのが、私の主張ですが、COPD治療において経口薬中心の投薬から吸入薬中心の薬物治療への転換は、その代表的な現実と実感されます。


長寿医療研究センター病院レター第46号をお届けいたします。

 COPDは機能低下を起こす隠れた疾患で、最近ようやく注目度が高まってきました。
 喘息治療に関しては、テオフィリンなど本邦と欧米での評価が分かれる治療もあり、今後専門家による説明が求められる分野です。
 薬物療法と並んで、呼吸器リハビリテーションの生活機能やQOLへの効果が期待されるなど高齢者の診療で、チーム医療の発展も期待されます

院長 鳥羽研二