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骨粗鬆症の薬物治療update  ―骨粗鬆症外来をご活用下さい―

病院レター第36号 2012年2月14日

骨粗鬆症科医長
臨床研究推進部長
細井孝之

 骨粗鬆症の薬物療法における目的は骨粗鬆症性骨折の予防であり、骨折によるADLQOLの低下を防ぐことです。このため、薬物治療は骨密度の低下以外の骨折リスクについても考慮して開始することが薦められています。このたび「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」が改訂され、2011年版 (文献1) が発行されました(図1)。今回の改訂では、既存脆弱性骨折の意義の見直しや骨量減少者における骨折リスク上昇因子についてさまざまな検討が加えられました。また、新しい骨粗鬆症治療薬についてのエビデンステーブルも整備されました。今回のニュースレターでは、とくに薬物治療の開始基準などについてご紹介します。なお、筆者は今回の改訂にあたり、事務局長を担当しておりました。

図1: 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
2011年度版

1.これまでの経緯

 骨粗鬆症の定義は1990年代の「低骨量と骨組織の微小構造の破綻によって特徴づけられる疾患」(文献2) から、「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」(文献3)へと変遷しました。この背景には新規骨折の発症要因として骨密度とは独立したものが確認されてきたことや、骨吸収阻害剤によって骨折リスクが低下する場合に、骨量増加の寄与度が比較的少なかったことなどがあげられます。一方、骨強度決定因子として骨量が占める役割が大きなものであることには変わりなく、骨量測定値は骨粗鬆症の診断においてなくてはならない臨床的パラメーターです(図2)。

図2

 疫学的調査を含めた臨床研究によって得られたエビデンスをもとに、骨密度とは独立した骨粗鬆症による骨折の危険因子が抽出され「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版(以下ガイドライン2006年版)における薬物療法開始基準にも反映されました。
 2011年版(文献1)の作成にあたって、さらに既存脆弱性骨折の意義の見直しや骨量減少者における骨折リスク上昇因子についてWHOが開発した骨折確率算定式であるFRAX®の利用方法も含めて検討が加えられました。

2. 薬物治療の対象とは

骨粗鬆症薬物治療の目的は骨折発生の予防し、QOLの維持・向上をめざすところにあります。骨粗鬆症の治療薬はこの目的に沿った薬剤の開発が行われてきました。骨粗鬆症の診断基準をこのような薬物治療対象者の選定に用いることは当然考えられることですが、骨脆弱性を規定する要因として、骨量の低下に加えてそれ以外の因子も考慮すべきであるということをふまえ、骨粗鬆症の診断と治療ガイドライン2006年版では、診断基準とは別個に薬物治療開始基準が設けられ、今回の改訂ではこの点についてさらに検討が加えられました。

表.原発性骨粗鬆症の診断基準 (2000年改訂版)

 わが国で用いられている診断基準は1996年の日本骨代謝学会診断基準をもとに作成された原発性骨粗鬆症の診断基準2000年改訂版です(表)(文献4)。この診断基準は、横断的調査と縦断的調査をもとに行われたROC解析によって求めたものであり、骨粗鬆症性骨折、特に椎体骨折のリスクが高まる骨量の閾値を示しています。その値が若年成人女性平均値(young adult mean, YAM)の70%で、腰椎については国際的な基準値であるTスコアでの-2.5SDにほぼ一致します。また、この診断基準では「脆弱性骨折」を有する場合にはYAM80%で診断するように規定されています。ここでいう脆弱性骨折とは、「低骨量を有していて」軽微な外力で発症した骨折であり、あくまでも骨粗鬆症性の骨折を指しています。現在、後でも述べるように、既存骨折を有することは独立した骨折のリスクとしてとらえられており、このことを診断基準にすでに取り込んでいたことは臨床的卓見であったとも言えます。骨量が骨量減少のレベルであったとしても脆弱性骨折をすでに有していることは、骨粗鬆症レベルの骨量である場合と同等かそれ以上の骨折リスクを持つことにより、薬物治療の対象と考えらます。

3. 診療の現場でできる脆弱性骨折のチェックが重要です

 脆弱性骨折を有する場合はそのことによる骨折リスクの上乗せによって骨量減少のレベルでも骨粗鬆症と診断され、薬物治療の対象として考えられることは前項で述べたとおりです。2011年版のガイドラインではこの点についての見直しが行われました。
 脆弱性骨折の部位を問わない場合、それらを有する場合の新規骨折の相対リスクは2倍程度です。一方、椎体骨折がすでに存在する場合の新規椎体骨折の相対リスクは骨量測定値による補正をした上でも3~4倍程度、大腿骨近位部骨折の相対リスクは3~5倍程度となり、骨折部位を問わない場合にくらべてリスクの上昇が大きいことが知られています。脆弱性骨折が大腿骨近位部骨折の場合でも同様なリスクの上昇を認めています。
 これらのことから、閉経後女性および50歳以降の男性においていずれも50歳以降に大腿骨近位部または椎体に脆弱性骨折があった場合には骨量測定の結果を問わず薬物治療を検討することが2011年版ガイドラインでは提案されました。一方、大腿骨近位部骨折および椎体骨折以外の脆弱性骨折(前腕骨遠位端骨折、上腕骨近位部骨折、骨盤骨折、下腿骨折、または肋骨骨折)があった場合には、そのことのみでの判断ではなく、骨量がYAM80%未満である時に薬物治療を検討することが薦められています。なお、大腿骨近位部骨折と椎体骨折以外の骨折として掲げた骨折(5部位)に大腿骨近位部骨折を加えたものは、主要な非脊椎骨折として「non vertebral fracture six:non-vert 6」と呼ばれています。
 これらのことから、日常診療においては、医療面接による四肢の骨折についての情報収集、亀背・円背や身長低下による椎体骨折の疑いとX線写真による確認といった身近なことで脆弱性骨折の有無をチェックすることが大変重要なことであることをご理解下さい。

4.脆弱性骨折以外の危険因子について

図3:原発性骨粗鬆症の薬物療法開始基準
(参考文献4より改変)

 今回のガイドラインでは、既存骨折を持たない骨量減少者については、大腿骨近位部骨折の家族歴を有する場合には薬物治療を検討することとし、過度の飲酒や現在の喫煙について検討する場合はそれらおよび他の危険因子との重なりあいを踏まえた総合的な評価をFRAX®を用いて行うことが提案されています。FRAX®について詳しく述べることは今回できませんが、図3の脚注に注意事項がのっていますのでご確認をお願いします。
 以上の検討結果と次に示すFRAXに関する検討結果をあわせた薬物治療開始の目安をフローチャートに示します(図3)。

図3の脚注:原発性骨粗鬆症の薬物療法開始基準

  1. 脆弱性骨折(大腿骨近位部骨折または椎体骨折)とは、女性では閉経以降、男性では50歳以降に軽微な外力で生じた大腿骨近位部骨折または椎体骨折をさす。
  2. 脆弱性骨折(大腿骨近位部骨折および椎体骨折以外)とは、女性では閉経以降、男性では50歳以降に軽微な外力で生じた、前腕骨遠位端骨折、上腕骨近位部骨折、骨盤骨折、下腿骨折または肋骨骨折をさす。
  3. 測定部位によってはTスコア表記の併記が検討されている。
  4. 75歳未満で適用する。また、50歳台を中心とする世代においてはより低いカットオフ値を用いた場合でも現行の診断基準に基づいて薬物治療が推奨される集団を部分的にしかカバーしないなどの限界も明らかになっている。
  5. この薬物治療開始基準は原発性骨粗鬆症に関するものであるため、FRAXの項目のうち関節リウマチ、糖質ステロイド、続発性骨粗鬆症にあてはまる者には適用されない。すなわち、これらの項目はすべて「なし」である症例に限って適用される。

5. おわりに

 今回はおもに薬物治療の開始基準について説明いたしました。国立長寿医療研究センターの病院では、DXAによる骨密度測定、X線写真による椎体骨折の評価、骨代謝マーカーなどの血液・尿検査による骨代謝状態の把握などによって、骨粗鬆症の診断と治療を進めています。治療方針が決定した場合は、かかりつけ医にその結果をお伝えして治療を継続していただくといった連携も積極的に行っています。50歳以降の男女、特に閉経後女性については骨粗鬆症に関する評価は必須とも言えます。また、糖尿病などの生活習慣病におる骨折リスク管理の点からも、当外来をご活用いただけますようお願い致します。
 受診予約は予約センターで承ります。

参考文献

  1. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編 ライフサイエンス出版 2011年
  2. Consensus Development Conference V, 1993 Diagnosis, prophylaxis and treatment of osteoporosis. Am J Med 90:646-650, 1994
  3. NIH Consensus Development Panel on Osteoporosis Prevention, Diagnosis, and Therapy. JAMA 285:785-795, 2001
  4. 折茂 肇ら 原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)日本骨代謝学会雑誌 18:76-82, 2001 

長寿医療研究センター病院レター第36号をお届けいたします。

 骨粗鬆症は加齢と共に増加する典型的な疾患で、当初は身長短縮以外の自覚症状が乏しいため健康診断で早期に発見して、骨折を予防することが求められています。
 国立長寿医療研究センターでは、骨量、骨強度だけでなく転倒に関する歩行筋肉機能の同時測定が可能であり、「運動器不安定症外来(ロコモ外来)」開設を見据えて、多くの骨粗鬆症の患者さんが利用していただくことを望んでいます。

院長 鳥羽研二