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出血傾向 —血友病を中心に—

病院レター第30号 2011年2月4日

輸血管理室医長(血液内科)
勝見章

 出血や血栓は診療科を問わず広く見られる臨床症状です。出血性疾患は止血機構の何処に異常があるかにより、

  1. 血管壁の異常、
  2. 血小板の異常、
  3. 血液凝固蛋白の異常、
  4. 線溶の異常、
  5. 複合異常

の5種類に分けられます。それぞれに先天性と後天性の疾患がありますが、後者のほうが圧倒的に多いことが知られています(表1)。
 今回は出血性疾患のうち、先天性、後天性血友病について御紹介致します。

表1 出血性素因の成因による分類(文献1より)
1. 血管壁の異常 単純性紫斑、老人性紫斑、アレルギー性紫斑病、Schonlein-Henoch紫斑病、ステロイド紫斑病、Cushing症候群、Ehlers-Danlos 症候群など
2. 血小板の異常
  1. 減少症:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、薬剤性血小板減少症、血栓性血小板減少症(TTP)、急性白血病、骨髄異形成症候群、Ehlers-Danlos 症候群など
  2. 機能異常:薬剤性血小板機能異常症、多発性骨髄腫、尿毒症、血小板無力症、Bernard-Soulier 症候群など
3. 血液凝固の異常 ビタミンK欠乏症、抗凝固薬服用、血友病A、血友病B、von Willebrand 病、その他の先天性凝固因子欠乏症など
4. 線溶の異常 前立腺手術、t-PAやウロキナーゼ投与、先天性α2-プラスミノーゲンインヒビター欠乏症、先天性PAI-1欠乏症など
5. 複合異常 肝疾患、DICなど

 文献1. 齋藤英彦 臨床血栓止血学オーバービュー 血栓止血誌 18(6):550-554,2007

1.先天性血友病

 血友病はX連鎖劣性遺伝性の先天性凝固障害で、第VIII因子活性(FVIII:C)の低下する血友病Aと第IX因子活性(FIX:C)の低下する血友病Bがあります。このため血友病患者は通常男性であり、女性血友病は極めて稀です。それぞれ第VIII因子遺伝子(F8)、第IX因子遺伝子(F9)の点変異、欠失、挿入等が多数報告されています。一般に血友病の診断はその出血症状と家族歴、FVIII(FIX):Cの低下で可能であり、遺伝子診断まで必要となることはありません。

検査所見

 プロトロンビン時間(PT)は正常で、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)は延長します。確定診断は血友病AではFVIII:Cが40%未満に低下し、かつvon Willebrand 因子(VWF)のリストセチンコファクター活性(VWF:RCo)および抗原量(VWF:Ag)が正常であることでなされます。血友病BではFIX:Cが40%未満に低下していることで診断されます。複数回の測定で上記因子の活性低下があり、かつ家族歴があることが診断の決め手となります。ただし家族歴のない孤発例も30%程度存在します。

出血症状

 血友病の臨床的重症度はFVIII(FIX):Cと良く相関し、<1%は重症、1~5%は中等症、5%以上は軽症に分類されます。重症型では乳幼児期の四肢、臀部を中心とした皮下出血、成長と共に活動的になるにつれ、足関節などに関節内出血を起こし、それらを契機に医療機関を受診して診断されることが多いです。軽症例では日常生活での出血傾向はほとんど見られないため、成人になってから手術前のスクリーニング検査や、抜歯、術後の止血困難により診断されることも珍しくありません。
 特に関節内出血や筋肉内出血に代表される深部出血が先天性血友病の特徴ですが、いずれの出血も打撲などの誘因がなくとも自然発症することがあります。

1.関節内出血

 歩行を始める幼児期から出現し始めます。好発部位は足、膝、肘関節です。関節の疼痛、腫脹、熱感、可動域制限などから診断されますが、症状を伝えることの難しい乳幼児期には診断が困難です。関節内出血は同一の関節に繰り返し発症することが多く(このような関節をtarget jointと呼びます)、これにより軟骨組織の破壊などを生じ、血友病性関節症を引き起こすことがあります。血友病性関節症により患者のADLが制限されるため、関節内出血を繰り返さないように止血管理していくことが治療の大きな柱になります。

2.筋肉内出血

 頻度が高いのは大腿筋、大殿筋、腸腰筋などであり、著明な貧血をきたすこともあります。診断には単純CTが有用です。

3.頭蓋内出血

 乳幼児期が好発と言われています。頭痛、嘔吐や元気がないなどの症状が感冒と紛らわしい上、訴えがあいまいであることも多く診断が難しいことも多いですが致死的出血となりうるため慎重な対応が必要となります。また再発が多い点にも注意が必要です。
その他消化管出血、血尿、口腔内出血、鼻出血、皮下出血などが比較的多い症状です。

治療法

1.補充療法

 第VIII(IX)因子製剤による補充療法が基本です。日常的な補充療法の最大の目的は関節内出血をコントロールすることにより、血友病性関節症の進行を防ぐことで、そのためには出血後早期に適切な量の凝固因子製剤を輸注することが重要です。第Ⅷ因子製剤の半減期はおよそ8〜12時間、第Ⅸ因子製剤はおよそ12〜24時間であることを参考にして投与間隔や投与期間を決めます。
副作用としてアレルギー症状を呈する症例があるため、特に初めての輸注時には注意が必要です。
アレルギー症状は特に血友病Bにおいて頻度が高く、症状もはげしい場合が多いことが知られています。
 補充療法は出血を生じたときに輸注するオンデマンド療法の他、週に2,3回定期的に製剤の輸注を行う定期補充療法や出血リスクの高いイベントの前に輸注する予備的補充療法があります。

2.酢酸デスモプレシン(デスモプレシン注®)

 軽症や中等症の患者にはデスモプレシンが適応になります。デスモプレシンは血管内皮細胞からのVWFを放出させる作用があり、同時に第Ⅷ因子の血中濃度を通常2~3倍程度上昇させます。注意すべきこととして、第Ⅷ因子の上昇レベルは個人差が大きいため、事前に投与試験を行ってAPTTなどを指標に反応性を確認しておくことと、連日投与により効果が減弱していくため、経過中に十分な効果がないと判断された際には、すばやく補充療法など他の止血手段に切り替えることが重要です。また水貯留作用などのデスモプレシンの副作用にも注意する必要があります。

3.対症療法

 出血を起こした部位に関してはRest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)のRICEを実践することにより早期の回復を図ります。ただし、長期間に渡る過度の安静や保護は筋力低下を引き起こし、再出血のリスクを増すことになります。痛みに対しては非ステロイド系消炎鎮痛剤などを使用して対応します。

インヒビター保有症例について

 凝固因子製剤の投与を行うことにより、血友病Aでは約30%、血友病Bでは約3%程度に同種抗体(インヒビター)が生じ、凝固因子製剤が無効になることがあります。インヒビターは凝固因子製剤による治療開始後、50日くらいの比較的早期の間に出現することが多いため特に補充療法開始後しばらくはインヒビターの発生に注意し、数ヶ月に一度程度は採血によりインヒビターのチェックを行います。インヒビターを消失させる治療としては、免疫寛容導入療法がありますが、ここでは詳述しません。インヒビター例の止血管理には第Ⅷ因子、第IX因子を必要とせずに止血効果を得られるバイパス製剤が使われます。バイパス製剤には血漿由来活性型プロトロンビン複合体製剤(aPCC)(ファイバ®:バクスター)と遺伝子組み換え活性型凝固第Ⅶ因子製剤(ノボセブン®:ノボノルディスクファーマ)があり、症例により使い分けます。またインヒビターの力価が5BU未満と低い場合には、大量の第Ⅷ因子製剤(血友病Bでは第Ⅸ因子製剤)を投与する中和療法も選択肢としてあげられます。

2.後天性血友病

 比較的まれな疾患であり、年間人口100万人当たり一人の発症率であると言われています。悪性疾患や膠原病が基礎疾患に見られることがあり、高齢者に多いのが特徴です。

臨床症状

 先天性血友病と比較して出血傾向は強い場合が多く、また関節内出血は稀で皮下出血、筋肉内出血、消化管出血が比較的多いのが特徴です。

検査

 先天性血友病のインヒビター症例と同じく、APTTの延長とFVIII:Cの低下が見られ、FVIII因子インヒビター(抗第VIII因子抗体)が陽性となります。正常血漿と被験者血漿を様々な比率で混合し、APTTの短縮を検討する補正試験が診断に必須です。凝固因子欠乏であればAPTTは短縮(補正)され、インヒビターであればAPTTは短縮しません(補正されない)。一般に高齢に加え悪性疾患、膠原病が基礎疾患として存在する可能性があり、これらの検索が必要な場合があります。

治療

 治療はインヒビターの消失を図る免疫抑制療法と出血を止める止血療法があります。免疫抑制療法はプレドニゾロン1mg/kgを内服投与するのが一般的であり、年齢などに応じて調節を行います。プレドニゾロン単剤での寛解率は約50%です。止血治療には先天性血友病のインヒビター症例と同じく、バイパス製剤を利用します。

予後

 死亡率は約25%です。そのうち免疫抑制療法に伴う肺炎や敗血症などの感染症による死因が40%程度を占め、出血による死因と同程度に多いのが特徴です。

3. おわりに

 以上先天性、後天性血友病につきご紹介させて頂きました。大切なのは詳細な病歴と家族歴の聴取であることは言うまでもありません。また実際に出血傾向を呈する患者さんのうちほとんどが後天性疾患であり、病態生理に基づいた鑑別診断が必要です。お困りの際は当科にご相談下さい。


長寿医療研究センター病院レター第30号をお届けいたします。

 血が止まりにくいことは、日常そんなにまれなことではありません。目に見える皮膚や歯茎の出血なら本人が驚いて受診することがあっても、内臓や関節内出血では症状がなく、気がつきにくいこともあります。血友病はあまりなじみのある病気とまでは言えませんが、病気の原因や治療方法が整ってきている分野です。出血傾向が気になる患者さんには受診を勧めてあげて下さい。

院長 鳥羽研二