本文へ移動

病院

文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

 

外来診療・時間外診療・救急外来 電話:0562-46-2311

ホーム > 病院 > 医療関係者の方へ > 病院レター > 「もの忘れセンター」がオープン!

「もの忘れセンター」がオープン!

病院レター第29号 2010年12月28日

もの忘れ外来部長 櫻井孝

 2010年9月、国立長寿医療研究センターにもの忘れセンター(外来部門)がオープンしました。国内外でも最大級の「もの忘れセンター」です。認知症を患う高齢者は全国にすでに300万人を超えていると推計されており、認知症はまさに「ありふれた病気」の一つです。認知症高齢者が当たり前の医療を、家の近くで安心して受けられる医療体制の整備が急がれています。私どもの「もの忘れセンター」は、もの忘れの予防から終末期まで切れ目ないサービスを提供できる医療を実現し、そのモデルとして全国に発信するために作られました。近隣の医療機関とも密接に連携し、認知症にやさしい地域作りを目指します。

1.もの忘れセンターの理念

もの忘れセンターの外観(手前の三角形の建物)

 全国に約800余あるという「もの忘れ外来」を受診される高齢者、またそのご家族は一体どのような期待を抱かれて病院の門をくぐられるのでしょうか?

  1. これ以上もの忘れが進行しないようにしてほしい、
  2. 怒りっぽい、被害妄想が強い、夜寝ないなどの困った症状を治してほしい、
  3. 細かな作業が難しくなった、服がうまく着れない、道に迷うことがあるなどの生活障害を改善してほしい
  4. もの忘れ以外にも、転倒、誤嚥、失禁などが最近起こってきて困っている、
  5. いつも見守りが必要で介護に疲れたので、なんとかしてほしい、
  6. 家の近くで質の良い介護サービスを利用したいがどこに相談したらよいか分からない、
  7. 急に体調が悪くなったときにすぐに対応してほしい、

など様々です。私どもの「もの忘れセンター」の理念は、これらのご希望にこたえられる医療を行うことにほかなりません。

2.もの忘れセンターの全体構想

認知症の初診について

 外来部門が9月からオープンし順調に診療を行っています。13人の外来担当医が週に19枠の外来を担当し、1週間で20名(年間1000名以上)の新患患者の診療を行っています。オープン後は予約待ちが長いことが問題でしたが、地域連携枠(週3-4枠)を新設いたしましたので、近隣の先生方はぜひご利用ください。また2011年1月からは、進行された認知症患者さんに検査のみ(頭部MRIと認知・生活機能の評価)の予約(火曜日)も始めます。2次性認知症の除外、介護保険の意見書のための資料としてもお役立て下さい。
 診療は完全予約制で、外来窓口、予約センターへの電話(0562-46-2311 内線2314、7637)で受け付けています。今後とも地域に根差した「もの忘れセンター」として努力してまいります。

スタッフの紹介

 外来は鳥羽研二院長(老年科)以下13名の医師が担当いたします。副院長の加知輝彦(神経内科)、櫻井孝(老年科) 、鷲見幸彦(神経内科)、遠藤英俊(老年科)、伊藤健吾(放射線科)、服部英幸(精神神経科)、三浦久幸(老年科)、新畑豊(神経内科)、武田章敬(神経内科)、佐竹昭介(老年科)、文堂昌彦(脳神経外科)、加藤隆志(放射線科)、洪英在(老年科)、小長谷陽子(神経内科)です。
 高齢者では多くの疾患を併せもっておられることが多く、認知症も例外ではありません。私どものもの忘れセンターでは、循環器、整形外科、転倒、骨粗鬆症、リハビリテーションの専門家が同じもの忘れセンターで一緒に診察しております。

 また私どもの認知症診療は、来院時より多職種から成るチーム医療を行っており、認知症看護認定看護師(藤崎あかり)、心理士3名(三浦利奈、高橋慶子、大山易志)、言語聴覚士(田中誠也)、精神社会福祉士(梅田愛)が専属で配置されています。恵まれた人的環境で、最先端の機器をつかった認知症の治療で患者さんをトータルにサポートいたします。

 初診に来院される患者さんの流れ

 初診患者さんは診察予約時間の約1時間まえに来院していただきます。診断のためには介護者からの情報が重要であり、ご家族などとご一緒に来院していただくことを伝えています。では、新患患者さんが初診に来られた日の行程にそって診察の流れを説明します。まず受付をしていただき、身長・体重・血圧を測定し、高齢者総合機能評価(認知機能、うつ傾向、ADL、栄養状態、老年症候群、介護者の状況など)、と歩行バランスの検査を受けていただきます。高齢者では認知症に限らず多くの疾病が合併していることが多く、これらを見逃さず診療するためです。検査が終わりますと、中待合で少しお休みいただき、その後診察室にご案内いたします(診察室1~5)。

3.0T MRI

アミロイドイメージング

 診察室では、問診、身体診察、神経診察を行い、次回の検査・診察の予約をします(1時間程度)。再び受付にお戻りいただき検査日程を確認し、そのあと血液検査、レントゲン検査を受けて、初診日の診療行程はすべて終了となります。はじめは緊張されている御様子ですが、多くのかたは御納得の御様子で帰宅されています。
 もの忘れの鑑別診断のために、通常、頭部MRI、脳血流シンチ(SPECT),詳しい神経心理検査を行います。他にも最新の診断機器、MRI (1.5T 2台),MRI (3.0T 1台), SPECT, FDG-PET, アミロイドイメージング、NIRS(光トポグラフィー)、磁気刺激装置、重心動揺計、体組成計、握力計などを活用しております。

すべての初診患者さんの診断はカンファレンスで決定されます!

 認知症の診断技術は急速に進歩していますが、なお診断に苦慮するものも多数あります。また初めアルツハイマー型認知症と診断していた症例が、経過の中でレビー小体型認知症の症状が前面にでてくるなど、途中で診断名が変更されることもあります。診断医によって多少診断のばらつきもあることも事実です。そこでもの忘れセンターではすべての初診患者さんの初診時診断は、すべてのスタッフが参加して行われるカンファレンスで決定します。毎週1回、約20名の患者さんについて数時間をかけて討論しますが、鳥羽院長とて例外ではなく、自分の担当症例をプレゼンされ、多くの専門家が意見を述べる雰囲気で進めております。多くの専門家が集まり診断を決定しますので、今後とも「もの忘れセンターとしての診断精度」は維持されます。

共通カンファレンス

 このカンファレンスは院内でオープンとしており、認知症の勉強のために当該スタッフのみならず、研修医、研究者、看護師、栄養士、放射線技師など多くの職種が参加しています。認知症の研修には最適の場となっています。

再診の流れ

 カンファレンスを通過して診断がついた症例は、初診を担当した医師が再診外来で検査結果の説明をさせていただきます。そのうえで治療方針を説明し、必要であれば薬物療法が始まります。私どものもの忘れセンターには認知症の中でも、血管障害、特定の変性疾患、正常圧水頭症、予防、リハビリ等に、より高い専門性を有する医師がおり、症例に応じて再診医が変更となることもあります。原則的に、薬物の安全な使用・効果、コンプライアンスを確認してから、紹介いただいた先生、またはかかりつけの医師にその後の治療をお願いすることになりますが、もの忘れセンターでも一年ごとに定期的なフォローアップをすることにしております。
 アルツハイマー型認知症の薬物として現在は塩酸ドネペジル(アリセプト)のみですが、2011年からは複数の薬剤が認可されると聞いております。認知症の進行を根本的に抑制できる薬剤が開発され、現在の高血圧や糖尿病治療のように、多彩な薬物から選択できる時代も、そう遠くはないように予想されます。また認知症の治療は薬物のみではなく、食事療法、運動療法、認知リハビリテーションなど先端的な試みも進んでおります。現在のエビデンスレベルに基づいた指導は勿論行っていますが、さらに研究的な視点からも新たな治療戦略を提案いたします。

3. もの忘れセンター機能拡充について

 2011年4月の入院部門オープンを目指して準備が急ピッチで進んでいます。肺炎や循環器、消化器疾患などの様々な身体疾患を合併した認知症高齢者の入院にはいつも困られていると思います。国立長寿医療研究センター病院の臓器別診療科とも連動して、これらの患者さんの入院加療を行います。また幻覚、妄想などの精神症状を伴う認知症の治療にも対応できる病床も整備されます。
 私どもは地域医療に根差したもの忘れセンターを作りあげるために、今後とも努力いたしますのでよろしく御指導、御鞭撻お願い申し上げます。


長寿医療研究センター病院レター第29号をお届けいたします。

 もの忘れセンターでは、病気の診断と、投薬といった旧来の診療の幅から、大きく踏みだし、未来を先取りした医療を目指します。
 病めるものにおける生活の質(QOL)は、苦痛となる症状にもっとも左右されますが、これが緩和されても、日常生活活動度の制約は質の低下につながり、心の健康度や社会的つながりが、別の要素として、QOLに大きな影響を与える因子となります。
 もの忘れセンターでは、多職種協働医療によって、病める人と家族に安らぎを与え、ここにきてよかったという認知症医療を目指すものです。
 日本だけでなく、世界の手本となるように設立したセンターですのでいちど是非ご覧下さい。

院長 鳥羽研二