本文へ移動

病院

文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

 

外来診療・時間外診療・救急外来 電話:0562-46-2311

ホーム > 病院 > 医療関係者の方へ > 病院レター > 広範な皮膚炎症である紅皮症の病態とその原疾患

広範な皮膚炎症である紅皮症の病態とその原疾患

病院レター第24号 2010年1月29日

先端薬物療法科医長(皮膚科)
磯貝善蔵

 皮膚は生体と外界を隔てる巨大な臓器でその重量は成人では体重の16%を占めます。皮膚には外界からの様々な刺激から生体を保護するとともに、内的な異常を外に発信する役割があります。そのため広範な皮膚炎症である紅皮症は全身的にも大きな影響をあたえます。国立長寿医療センターでは高齢者の炎症性皮膚疾患に対して専門的かつ総合的な診療を実践することで、患者さんの苦痛を緩和することを目標としています。

1.紅皮症(こうひしょう)とは

 紅皮症とは単一疾患ではなく全身の皮膚が潮紅(ちょうこう)と落屑(らくせつ)を呈する状態で各種の皮膚疾患から続発する症候群と定義されています。皮膚表層の表皮が持続的な炎症をおこしてフケが多量に落ちる状態のことです。紅皮症は発熱や悪寒、脱水の鑑別診断のひとつとして、また高齢者に発症する全身性炎症性疾患のひとつとして挙げられると思います。

2.紅皮症の病態

図1 紅皮症の病態

図1に一般的な紅皮症の病態を示します。重要な点は広範な皮膚の炎症に続いて血管の拡張がおこり、発熱や悪寒、脱水などの症状を引き起こす可能性があることです。皮膚の血管の持続的拡張によって体温調節機能が失われ、発熱や悪寒をおこします。血管拡張のために循環血液量が増加して既存の心疾患の悪化になることもあります。さらに皮膚毛細血管の透過性が亢進するために、浮腫がおこります。もうひとつの病態は大量の落屑(らくせつ)です。これは皮膚の表皮に炎症が波及して角化が正常に行われないで角層がどんどん剥がれ落ちることです。角層は蛋白質のケラチンから構成されますので、毎日大量の落屑があることは大量の蛋白質の喪失になり、低栄養になります。免疫反応がおこり表在リンパ節腫脹をしばしば伴います。これらが絡み合って紅皮症の病態を形作っています。
 高齢者では紅皮症の頻度が高いのですが、要因として、加齢に伴う皮脂の減少とそれに伴うバリア機能の低下や、外界の様々な物質が皮膚から侵入する機会の増加があげられています。体温調節は交感神経によって支配されている皮膚血管の収縮によってもたらされていますが、加齢によって血管収縮の機能低下がおこります。また悪性腫瘍の合併による免疫学的な影響もあるといわれています。

3.紅皮症の原疾患

 上述したように紅皮症は様々な皮膚疾患から続発する症候群です。様々な原疾患が不十分な治療、全身ステロイドの影響、加齢、薬剤などの複数誘因によって紅皮症化します。下記に紅皮症の分類と2005年から2009年までの国立長寿医療センターにおける原疾患別の頻度を示します。国立長寿医療センターの紅皮症患者さんの平均年齢は75歳、男女比は2:1でした。

  原疾患 症例数 診断のポイント 当院での代表的な治療
湿疹性紅皮症 湿疹 4 除外診断、
不適切な治療
外用ステロイド
乾癬性紅皮症 乾癬 6 爪病変、乾癬病変、
関節痛
紫外線、チガソン、
シクロスポリン
薬剤性紅皮症 薬疹 2 薬剤投与の病歴 薬剤中止、
内服ステロイド
腫瘍性紅皮症 皮膚T細胞リンパ腫 3 病理組織検査 紫外線、
外用ステロイド

4.紅皮症をおこす皮膚の炎症性疾患

湿疹性紅皮症

 湿疹はありふれた皮膚疾患なので、湿疹全体からみると紅皮症化する割合は多くありません。しかし時に高齢男性に湿疹性紅皮症はみられます(図2A)。基本的には副腎皮質ステロイドの外用治療となりますが社会的要因で外用剤が実際に外用されていないことも多くあります。時に疥癬による同様な病変があるので注意が必要です。

図2

乾癬(psoriasis)(かんせん)

 乾癬は比較的頻度の高い慢性の皮膚炎症性疾患でりん屑を伴うことから炎症性角化症と呼ばれます。通常は尋常性乾癬と呼ぶ皮膚限局性の疾患です。皮膚病変は白色のりん屑を伴った少し盛り上がった発疹であることが普通です(図2B)。小範囲の尋常性乾癬は全身症状を伴いません。しかし全身に病変が拡大して乾癬性紅皮症という状態になると、発熱や脱水などの症状を伴います。また乾癬の5-10%に関節炎を合併し、乾癬性関節炎と呼ばれます。関節炎は通常指などの末梢関節に発生することが多いのですが、しばしば仙腸関節や胸鎖関節にも病変がおこることもあります。治療は慢性疾患であるので、まず疾患に関する十分な教育をして悪化因子を除去していきます。軽症であれば、ステロイドや活性化ビタミンD3の外用剤でコントロールできます。しかし中等症や重症の場合はこれらの局所療法に加えて、紫外線治療、ビタミンA誘導体(チガソン)内服、免疫抑制剤内服(シクロスポリン)などが治療に必要になることがあります。いずれも高齢者では全身合併症や社会的背景を重視して治療をしています。

紅皮症型薬疹

 高齢者は複数の慢性疾患を抱え服薬している薬剤が多い傾向があります。そのため薬疹を起こしやすいといえます。さらに様々な既往症の治療に薬物が用いられているために、既に感作されていることがあります。紅皮症型の薬疹は比較的長期に投与されている薬剤によって発症することが多いといわれています。そのため、原因薬剤の同定が難しく、さらに多剤服用のために何を中止にするかの判断が難しい場合が少なくありません。そもそも薬疹であるかどうかが判断しにくい場合もあります。高齢者の薬疹の対応として原因薬と系統の異なる代替薬がしばしば必要になります。当センターでは皮膚科専門的診療と包括的診療を組み合わせて薬疹の重症化を防ぐ診療をしています。

皮膚T細胞リンパ腫

 皮膚に「リンパ腫」ができると話すと患者さん、時に医療関係者にも驚かれますが、外界に接しており外来抗原から生体を保護する皮膚は巨大なリンパ臓器でもあります。ゆえに皮膚T細胞リンパ腫は稀な疾患ではありません。浸潤の強い発疹から皮膚T細胞リンパ腫を疑います。(図2C)診断には病理組織検査が必要で、皮膚の表皮に腫瘍性のTリンパ球が炎症を伴わずに浸潤する像を確認します。皮膚T細胞リンパ腫の中でも主要なものが、菌状息肉症(きんじょうそくにくしょう)とセザリー症候群です。これらの疾患はリンパ腫の一般的なイメージとは異なり、炎症性で痒みを伴う発疹を呈します。通常は緩除に進行します。また、頻度は高くないとしても高齢者の紅皮症の原因疾患になることがあります。菌状息肉症に対する多剤化学療法は生命予後やADLを改善させないことが明らかになっており、症状や合併症に応じて外用治療、紫外線治療、インターフェロンなどを組み合わせた治療が行われます。

5.紅皮症の治療

 紅皮症患者は高齢者が多く、治療に際しては皮膚症状に対する専門的治療と高齢者包括診療の両者が必要となります。さらに高齢者の紅皮症治療においては病態と合併症を考慮した包括的な診療が必要です。例えば全身の皮膚症状はある程度の時間をかけて改善させることを心がけます。なぜなら皮膚病変の急激な変化は末梢の循環状態を急激に変化させ、時に心不全や肺水腫をおこすからです。
 意外かもしれませんが、実際の紅皮症診療では発熱や悪感の全身症状がステロイド剤の外用で改善します。外用ステロイドの持つ抗炎症作用や血管収縮能によるものですが、中止時にリバウンドもあり適当な併用治療を考慮する必要があります。
 さらに軽快後においても外用剤による症状のコントロールが必要とされることから、病院外での外用剤のコンプライアンスを確認することが重要です。なぜなら、外用剤を適切に外用することは内服薬と違った社会的配慮が必要だからです。つまり、背中などは自分で外用できないことが多く、介護者によって外用される必要があるからです。

6.老年医学における紅皮症

 このように紅皮症とその原疾患の診療は専門的な診療と包括的診療が程よくミックスされることが必要とされています。国立長寿医療センターにおいて高齢者の炎症性皮膚疾患の統合的な診療は必要性が高く、かつ重要です。


新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
長寿医療センター病院レター第24号をお届けいたします。

 長寿医療センターでは、診療科の充実を図り、全国の高齢者医療の先端を進むとともに地域医療の発展にも力を入れています。今後、病診連携をさらに緊密にして、地域の高齢者医療の充実に取り組んでまいります。この号では皮膚科の磯貝医長に、紅皮症について解説していただきました。
 今回のレターが先生の診療のお役に立てれば、望外の喜びでございます。よろしくお願いいたします。

副院長 加知輝彦