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内視鏡治療の現状について

病院レター第16号 2008年9月19日

第一包括内科 医長(消化器科)
松浦俊博

 消化器科は、当院が中部病院であった平成8年度に内科より分かれて設立された比較的新しい診療科です。当初は、常勤医も2人のみで、外来も週3回しか開けず、内視鏡、腹部超音波、消化管X線などのルチーン検査も限られた曜日にしか行うことができない小規模な科でありました。しかし、平成13年から、常勤医が4人に増えたことにより、現在のように週5日の外来と内視鏡検査日をこなすことができるようになりました。消化器部門は、消化管、肝、胆、膵疾患など多臓器にわたる診療に携わり、その検査手技、診療行為が非常に多彩で、かつ救急患者も多いことから、その仕事量、ニーズに比して依然として少ない人員であることは否めません。ただ、近隣の医療機関の消化器科の医師不足のニュースを聞きますと、恵まれている方かもしれないと考えています。

1.長寿医療としての消化器科

 長寿医療を担うナショナルセンターの診療科として、当科では、今後の高齢社会をふまえて、“外科的手術に頼らない、患者のADL・QOLの温存と向上を第一に考慮した治療”、すなわちinterventional therapy(内視鏡的治療、癌の局所的治療など)を中心とした侵襲性の低い医療の確立と発展を目標に日々診療ならびに研究を行っています。今回は、当院における内視鏡治療の現状についてご紹介いたします。

表1. 平成19年度の内視鏡手術件数

  内視鏡的治療法 件数(例)
上部消化管 粘膜下層剥離法(ESD) 15
内視鏡的止血術 70
内視鏡的食道静脈瘤硬化療法 12
内視鏡的胆管結石砕石術 乳頭切開術(EST)による 17
乳頭拡張(EPBD)による 4
砕石のみ 11
胃痩造設術 42
その他 53
224
下部消化管 粘膜切除術(EMR) 159
内視鏡的止血術 16
その他 9
184

 内視鏡室は、平成11年9月より手術室部門に統合されました。現在は、3人の看護師(1人は内視鏡学会認定技師)が内視鏡室に勤務しています。平成19年度には、上部消化管関連の内視鏡検査は1,704例、下部消化管関連の検査は579例を施行しており、内視鏡件数は年々増加しています。同年度の上部消化管の内視鏡的手術では、早期胃癌に対する粘膜切除術(EMR),総胆管結石に対する十二指腸乳頭切開術(EST)・乳頭拡張術(EPBD)による砕石術、悪性胆道狭窄に対するステント挿入、消化管出血止血術などを224例に、下部消化管の内視鏡手術では大腸ポリープ切除術、大腸早期癌のEMRなどを184例に施行し、総内視鏡手術は408例に達しました(表1)。侵襲性をおさえたこれらの内視鏡的治療は、循環器や呼吸器系に合併症が多い高齢患者に対しても、安全に施行できるメリットがあります。また、入院期間も比較的短く、ADLの低下を最小限に抑えることができることから、今後さらに適応が拡大されて益々症例が増えていくことが予想されます。内視鏡手術のうちでも、特に早期胃癌に対する内視鏡的治療の進歩はめざましく、当院でも力を注いでいます。

図1 ESDのシェーマ
(消化器内視鏡治療のコツとポイントより引用)

2. 早期胃癌に対する内視鏡的治療

 早期胃癌の治療に対しましては、従来EMRの代わりに最近では粘膜下層剥離術(ESD)を中心に行っています。ESDは、癌の粘膜下層を内視鏡的に剥離する方法ですが、従来のEMRでは切除不能と考えられた大きな病変や潰瘍瘢痕をともなう病変に対しても一括切除を可能とした画期的な手技です(図1)。
 胃癌治療ガイドラインによりますと、EMRの適応は、1) リンパ節転移の可能性がほとんどない病変、2) 腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあることとなっています。
 このため具体的には、 ①2cm以下の粘膜(M)癌、②組織型が分化型(tub1tub2pap)、③陥凹病変(0-IIcなど)では潰瘍病変がないことが従来の早期胃癌に対する内視鏡治療の適応となっていました。しかし、大きな癌病変をも一括切除できるESDの開発とこれまでの外科的切除標本を使用した所属リンパ節への転移の有無の検討から、①潰瘍病変を伴わない全ての分化型M癌、②3cm以下の潰瘍を伴う分化型M癌、③3cm以下の潰瘍を伴う分化型粘膜下層(SM1)癌、④2cm以下の潰瘍を伴わない未分化型粘膜癌に関しては、所属リンパ節への転移の頻度が極めて低いために、その適応を拡大することが学会にて検討されています。しかし、未分化型癌に対する内視鏡的治療の妥当性については異論も多く、当院では、①~③に適合する症例をESDの適応としています。図2に、当院にて体中部の大弯前壁よりの0-IIa病変に対して施行されたESD症例を供覧いたします。

図2 ESDの症例

 EMRと比較してのESDのデメリットは、手術時間が長いこと、手技がやや難しいためにその習得に時間がかかること、穿孔などの合併症の頻度がEMRに比してやや高いなどがあげられます。ただ、合併症のために、外科的手術などが困難な高齢患者には、tumor-reductionの意味から、上記の4条件以上にその適応が拡大される可能性があると思われます。

3.おわりに

 今後の高齢化社会を考えますと、消化器疾患の領域では、内視鏡的を使った侵襲の比較的少ない治療を選択することが、さらに増加していくことが予想されます。体力面の低下があり、種々の合併症を有している高齢者に対しても、安全な非侵襲的診断学および治療法を開発し、施行していきたいと考えていますので、どうぞ宜しくお願いいたします。


長寿医療センター病院レター第16号をお届けいたします。

 長寿医療センターでは、 診療科の充実を図り、全国の高齢者医療の先端を進むとともに地域医療の発展にも力を入れています。今月は、 消化器科の松浦医長に当院における内視鏡治療ついて解説してもらいました。
 今後、病診連携をさらに緊密なものといたしまして、地域の高齢者医療の充実に取り組んでまいります。ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

病院長 太田壽城