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高齢者の視覚障害者の増加

病院レター第13号 2008年3月14日

感覚器再生科医長 上野盛夫

 急速な高齢化の進行により、我が国における視覚障害の疫学像は著しく変化しています。平成17年に厚生労働省難治性疾患克服研究事業「視覚系疾患調査研究班」より15年ぶりに視覚障害の原因ついて信頼性の高い全国規模の調査の結果が報告されました。
 身体障害者手帳(視覚障害)の交付を受けた2034名を対象とした調査で、52%の方が70歳以上でした。15年前の調査では70歳以上は視覚障害者の38%でしたので高齢視覚障害者の増加が明らかになりました。

表1 視覚障害の原因疾患・順位

  2004年順位 1989年順位
緑内障 1位 (21%) 3位 (15%)
糖尿病網膜症 2位 (19%) 1位 (18%)
網膜色素変性症 3位 (13%) 4位 (12%)
黄斑変性 4位 (9%) ランク外 (5%)
高度近視 5位 (8%) 5位 (11%)
白内障 ランク外 (3%) 2位 (16%)

 視覚障害の原因疾患の内訳では、2004年と1989年を比較すると、高齢者に特徴的な緑内障と黄斑変性が増加しています(表1)。白内障は減少していますが、有病率が減少したわけではなく、この15年間に白内障手術の術式がめざましく進歩し、安全かつ確実な手術により治療できる疾患となったためです。

表2 年齢別原因疾患

  原因疾患
~59歳 網膜色素変性症(24%),糖尿病網膜症(23%)
60歳~74歳 糖尿病網膜症(27%),緑内障(17%),
網膜色素変性症(14%)
75歳~ 緑内障(33%),黄斑変性(16%)

 原因疾患を年齢別にみますと、60歳~74歳では糖尿病網膜症が顕著に多く、75歳以上の後期高齢者では緑内障だけで1/3を占め、第二位の黄斑変性までで視覚障害者の半数を占めています(表2)。
 このように長寿社会の到来で、視覚障害の対策をたてるにあたって、年齢の観点が非常に重要となってきています。次に、当センター眼科診療の一部をご紹介します。

1. 白内障診療

 白内障は加齢変化による水晶体の混濁で、視力低下・明所での羞明、近視化などの症状を呈します。初期には点眼などの薬物治療が有効ですが、進行すると手術が必要となります。手術技術の進歩により現在では良好な視力が回復できるようになりました。平均寿命が延長し、高齢者が現役として活躍することの多い現代社会では白内障手術の進歩は大きな福音となっています。当院では入院による白内障手術を行っており、入院期間は片眼手術の場合は約4日間,両眼手術の場合は約1週間です。現在の標準的な術式を用いて手術を行っています。点眼麻酔および浸潤麻酔のもとで、3mm以下の切開創より水晶体を超音波にて乳化破砕・吸引除去し、同じ創口より軟質アクリル性の眼内レンズを専用インジェクターで挿入する方法です。入院・手術の際にはかかりつけの先生方にその時点での全身状態や投薬内容などについて情報提供をお願いしておりますのでよろしくお願いいたします。

2. 黄斑変性をターゲットとした新しい眼科診療機器

 近年、網膜の器質的および機能的異常を詳細に記録する装置が開発されました。黄斑変性の診断や治療効果の判定に非常に有用です.本センターでもそれらの機器を導入いたしましたのでご紹介いたします.

(1)光干渉断層計 (OPTICAL COHERENCE TOMOGRAPHY, OCT)

 OCTは波長820nmの近赤外線ビームを発射して眼底各組織からの反射の強弱・時間の遅延を検出し、コンピューターで処理することでCT等と同様の二次元断層画像をカラーイメージで描出する装置です。この装置により、接触することなく、生体下における網膜や視神経乳頭の断層像を非侵襲的に捉え10ミクロン以下の高解像度で抽出することが可能となりました。従来からの一般的な眼底検査法では、検眼鏡的に眼底を表面から観察し、主として眼底の状態を二次元的に評価していました。OCTにより眼底の3次元構造の詳細な把握が可能となり、黄斑変性などの黄斑疾患の診療にその威力を発揮しています(図1)。

図1. 漿液性網膜色素上皮剥離を伴う加齢黄斑変性

(2)微小視野測定装置(MICROPERIMETER)

図2. 加齢黄斑変性眼底の局所網膜感度

 自動トラッキングシステムを内蔵した網膜感度測定装置で、固視微動を補正した状態で正確に網膜のある一点での網膜感度閾値を測定することが可能です。またカラー眼底写真上の正確な位置に網膜感度を表示することが出来ます(図2)。さらに眼底画像上で前回と同じデータからリファレンスをとるだけで前回と全く同じ検査を施行出来ますので,網膜機能の経過観察に極めて有用です。

3.最後に

 私たちが外界から得る情報の約8割は視覚情報ですので、視覚障害が高齢者のQOLやADLの低下に直結していることは言うまでもありません。当センター眼科では白内障手術のようにすでに確立されている医療を安全かつ確実に行い、また難治疾患を克服するため最新の診療を取り入れて,「活動的な85歳」の実現へ貢献してゆきたいと考えております。これからもご支援のほどよろしくお願いいたします。


長寿医療センター病院レター第13号をお届けいたします。

 長寿医療センターでは、診療科の充実を図り、全国の高齢者医療の先端を進むとともに地域医療の発展にも力を入れています。今月は、高齢者の方の視覚障害について眼科の上野先生に解説していただきました。お心当たりのある患者さまがいらっしゃいましたら、ご紹介下さいますようお願いいたします。
 今後、病診連携をさらに緊密なものといたしまして、地域の高齢者医療の充実に取り組んでまいります。
 ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

病院長 太田壽城