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血管内治療の進歩

病院レター第11号 2007年11月30日

第2手術室医長(血管外科) 藤城健

 血管外科では動脈、静脈、リンパ管の病気の診断、治療を行っています。もちろん治療は観血手術に限らず、内服治療、運動療法(リハビリ)、血管内治療などを行っています。なかでも近年血管内治療の進歩は目覚しく血管外科における役割は年々大きくなっています。ここでは血管内治療の進歩について紹介させていただきます。

1. 閉塞性動脈硬化症に対する血管内治療

 動脈閉塞病変に対する経皮的血管形成術は、1964年Dotterらの報告に始まり、1974年に2重管のバルンが開発され世界に普及しました。また1980年代には各種のステントが開発され、再狭窄率の低下に寄与しています。日本では1997年腸骨動脈病変に対するステントが保険適応となってから急速に普及しました。
 この分野での発展は冠動脈病変に対するPCI(PTCA、ステント)の発展を追いかける形で進んでいるといえます。ステントやガイドワイヤーの進歩、血管内エコーの導入などです。当初は腸骨動脈の狭窄病変が血管内治療の良い適応とされていましたが、腸骨動脈の閉塞性病変、浅大腿動脈病変、下腿動脈病変へと適応が拡大しました。また、当初は放射線科医、血管外科医が中心に行っていましたが、2000年頃から循環器医が手がけることが多くなりました。各施設、各科により適応や方針がばらばらな状態がみられるようになったため、欧米の各学会が集まり治療方針を統一するための指針としてTransAtlantic Inter-Society Consensus(TASC)が作られました(2000年)。これにより手術が優先されるべき病変、血管内治療が優先されるべき病変が明示されました。これは2007年に改訂されTASC IIとなりました。図1、2に大動脈腸骨動脈病変と大腿膝窩動脈病変のTASC分類を示します。
 現状では大動脈腸骨動脈病変では手術と血管内治療の成績はほぼ同等で、手術(いわゆるYグラフト)の侵襲の大きさを考慮すると手術を選択することはまれになっています。大腿膝窩動脈病変ではまだ若干手術のほうが成績がよいのですが血管内治療が行われる割合はここ数年急速に増しています。今後も薬剤溶出ステントなどデバイスの進歩により血管内治療の成績は向上すると見られ、この傾向は続くと思われます。
 当科でも血管外科開設当初から閉塞性動脈硬化症に対する血管内治療は積極的に行っています。通常3日間の入院で、前日に入院、当日は血管造影検査を行いその場で病変を判断し血管内治療を行い、翌日退院としています。図3に当科で行った血管内治療前後の血管造影写真を示します。

図2 大腿膝窩動脈病変のTASC分類

図1 大動脈腸骨動脈病変のTASC分類

  • Type A:
    血管内治療が第一選択
  • Type B:
    血管内治療が望ましい
  • Type C:
    手術が望ましい
  • Type D:
    手術が第一選択

図3. 右総腸骨動脈閉塞症例のPTA前(左)、後(右)のDSA写真

2.大動脈瘤に対する血管内治療

 大動脈瘤に対する血管内治療は1991年Parodiらにより始めて臨床応用されました。大径のメタリックステントの表面に人工血管の布を被せたいわゆるステントグラフトを血管内から留置する方法です。この方法の弱点は人工血管と大動脈の間の密着が確実には得られないという点です。すきまから動脈瘤内に血流がもれれば(エンドリーク)、破裂の予防になりません。また人工血管がずれてしまったり、折れてしまったりというトラブルも多発しました。原則的には現在もこの方法は変わっていませんが、デバイスには大きな改善が得られ、成績も向上しました。ただし前記の問題点が解決されたわけではなく、確実性では開腹手術がなお優れています。図4にステントグラフトの模式図を示します。

図4 腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内装術

 本法は欧米ではかなり広く普及していますが、日本では企業製のステントグラフトの認可がおりず、各施設の手作りグラフトを用いて細々と行われていました。2007年ようやく待望の認可がおり、現在は施設と適応に厳しい限定がありますが、今後日本でも広まっていくのは間違いありません。現在の適応は開腹手術に耐えられないハイリスク患者で、腎動脈から瘤の間に1.5cmの正常部分があること、腎動脈下の屈曲が60°以下であること、両側の腸骨動脈瘤がないことなどです。当地域では名古屋大学がいち早く施設の認定を得ています。
 当科ではこのような患者様に対してはステントグラフトの選択肢につき詳しくご説明し、希望されれば名古屋大学血管外科に紹介しています。また従来からの開腹による大動脈瘤手術は当院で対応しています。

3.その他の血管内治療

 動脈疾患では急性動脈閉塞に対するカテーテル血栓溶解療法や血栓吸引療法、静脈疾患では静脈瘤に対する硬化療法、深部静脈血栓症、肺塞栓症に対する下大静脈フィルターなどがあります。いずれも当科で対応可能です。
 血管の病気で困っているが手術はいやだという方も多いと思います。当科では外来初診患者で手術にいたる方は1割にも達しません。そのような方もぜひご紹介いただきますようよろしくお願い申し上げます。


長寿医療センター病院レター第11号をお届けいたします。

 長寿医療センターでは、診療科の充実を図り、全国の高齢者医療の先端を進むとともに地域医療の発展にも力を入れています。今後、病診連携をさらに緊密なものといたしまして、地域の高齢者医療の充実に取り組んでまいります。この号では血管外科の藤城医長に、血管内治療の進歩について解説してもらいました。 お困りの患者さまがいらっしゃいましたなら、是非、ご紹介下さいますようお願いいたします。
 今回のレターが先生の診療のお役に立てれば、望外の喜びでございます。

病院長 太田壽城