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「女性の骨盤底脆弱性」の矯正 - 高齢女性にやさしい骨盤内臓器脱手術-

病院レター第9号 2007年7月12日

婦人科医師 西川美名子

 膀胱、子宮、直腸などの骨盤内臓器は、複数の筋肉から構成された骨盤底筋群によって支えられています。 筋群のうちの主な筋肉である肛門挙筋が直腸や膣、尿道を恥骨の方へ強く引き寄せることにより、腹圧が直腸に乗りかかる形となり、骨盤底の正常なハンモック構造が形成されているのです。 出産や加齢により骨盤底筋(主に肛門挙筋)が緩むと、腹圧が骨盤内臓器を直接会陰に向けて押し下げる形になるため、下垂を起こして骨盤内臓器が膣内・膣外に脱出するようになります。前膣壁から膀胱が脱出するものを膀胱瘤、後膣壁から直腸が脱出するものを直腸瘤、ダグラス窩から小腸が脱出するものを小腸瘤といいます。子宮脱は子宮の支持靭帯(基靭帯、仙骨子宮靭帯など)の弾性喪失によって起こります。これらの骨盤内臓器脱は、臓器の脱出感、尿失禁、排尿困難、排便障害、性交障害、炎症、性器出血などの症状を伴引き起こし、多くの患者さまはたいへん辛いと感じるようになります。また、高齢の患者さまですと「年のせいだからしょうがない」とか「生命に影響はない」と言われることもあります。骨盤底の解剖を無視した経膣的子宮摘出術が行われると、術後に 膀胱や直腸が脱出したりすることがあります。また、適切なサイズのペッサリーリングを挿入しないと、リングが膣壁内に食い込んで炎症や肉芽形成などが生じ、抜去できなくなってしまうこともしばしばあります。当院の婦人科では、子宮脱であっても子宮を摘出しないマンチェスター手術を行い成果をあげています。

図1 骨盤底筋の構造

1. 骨盤内臓器脱の臨床

1) 骨盤内臓器脱の症状

図2 手術患者の年齢分布と骨盤内臓器脱の種類

 子宮脱の患者さまがよく訴えられる悩みは、膣から何かが落ちたような感じ、ピンポン玉のようなものがはさまった感じ、尿の勢いがなくポタポタと出るといった悩みです。初期には、咳やくしゃみで尿失禁がある場合もみられます。直腸瘤では、立ち上がった時の不快感、便が出そうで出ない感じ、便失禁があります。

2) 年齢分布と診断

 平成16年5月から平成19年5月までの間に、当院婦人科において、骨盤内臓器脱(子宮脱:35例、膀胱瘤:20例、直腸瘤:8例)の手術を受けられた患者さま63人を対象とした解析をお示しします。図2に示しますように、年齢とともに脱垂は子宮から、膀胱、直腸へと進展していくのがわかります。手術を受けられる方は60代の方が多いのですが、お元気な方であれば、70代、80代でも手術を行っています。御高齢でも、日々の生活に支障があるなら、年齢はあまり問題になりません。

3) 手術時間

 手術は40分前後で終了でき(図3)、出血量もわずかです(図4)。

図3 骨盤内臓器脱手術時間

図4 骨盤内臓器脱手術での出血量

2.骨盤内臓器脱に対する手術成績

 硬膜外麻酔と脊髄麻酔下に手術を行っています。子宮脱に対しては、子宮を摘出しないマンチェスター手術を、膀胱瘤には膀胱底形成術 + 前膣壁形成術、直腸瘤には後膣壁形成術を施行しています。また、全例に会陰形成術をあわせて行っています。再発は2例(3%)に見られ、1例は糖尿病を合併症に持つ症例で、創離開が原因で生じた再発、もう1例は子宮脱手術の半年後に脊椎圧迫骨折を起こしコルセットを着用していた症例で、長期間にわたる腹圧によって再発しました。

3.おわりに

 骨盤内臓器脱は、骨盤底筋や靭帯の緩みによって膣内に子宮、膀胱、直腸、小腸が脱出する一種のヘルニアと考えられます。加齢は一つの原因ですが、当院で手術された方は全例が分娩の経験者でした。適切な治療法があるにも関わらず、骨盤内臓器脱に悩む女性が適切に対処されておりません。当院には「女性いきいき外来」も開設されており、こうした女性のみなさまの悩みに答える診療を行っていきたいと考えております。


長寿医療センター病院レター第9号をお届けいたします。

 長寿医療センターでは、診療科の充実を図り、全国の高齢者医療の先端を進むとともに地域医療の発展にも力を入れています。今後、病診連携をさらに緊密なものといたしまして、地域の高齢者医療の充実に取り組んでまいります。この号では婦人科の西川美名子医師に、高齢女性の骨盤内臓器脱の外科治療について解説してもらいました。女性のQoLを著しく障害する疾患であるにも関わらず、骨盤内臓器脱の一般的な知識が行き渡っていないように感じられます。骨盤内臓器脱を訴えられる高齢女性が悶々と悩まないですむよう、是非、ご紹介いただけたらと思います。
 今回のレターが先生の診療のお役に立てれば、望外の喜びでございます。よろしくお願いいたします。

病院長 太田壽城