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脊柱管狭窄症と脊椎骨折に対する低侵襲手術

病院レター第8号 2007年3月2日

機能回復診療部長(整形外科)
原田敦

 良きにつけ、悪きに付け、団塊世代の大量退職がマスコミに取り上げられたり、普段の会話で話題に上ることが多くなっています。これまでは少子高齢化社会の序奏であり、今から本当の幕が上がりつつあることを告げているようです。団塊世代が象徴する退職年代以降の高齢者の消費動向や政治的志向は景気や政局に大きく影響すると考えられます。また、その健康状況は日本の医療を左右すると予想されますので、私ども医療関係者にとっても深く関心を持たざるを得ないところです。団塊世代以降高齢者の現在の健康状況のうち整形外科で扱う疾患について、平成17年度の厚生労働省の資料を次のようにまとめることが可能です。
 筋骨格系及び結合組織の疾患のうち、男性では60~70歳代において脊椎障害が、女性では60~80歳代において脊椎障害や関節症、70~80歳代においてはさらに骨粗鬆症が主要疾患である。
 この結果から、脊椎障害は、両性にわたって分析・抽出された高齢期の運動器疾患の代表と考えられます。しかしながら、脊椎障害は整形外科医以外の医師にはあまりなじみがない疾患群かもしれません。具体的な疾患名を挙げますと、椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、後縦靱帯・黄色靱帯骨化症、脊椎骨折などです。若い年代に多いのは椎間板ヘルニアで中高年になると脊柱管狭窄症が増加します。脊椎骨折も若い年代では高エネルギー外傷でしか生じませんが、高齢期には外傷なしで起こります。今回の長寿医療センター病院レターでは、これらのうちから脊柱管狭窄症と骨粗鬆症性脊椎骨折に対する当院整形外科の最近の手術を紹介し、合わせて整形外科全体の説明をさせていただきます。

1.脊柱管狭窄症とは

 脊柱管狭窄症は、昨年初めにタレントの「みのもんた」さんが手術の翌週には仕事復帰したことで患者さんにもだいぶ知られるようになりました。いかめしげな病名も「みのもんたさんと同じ」などと言うと患者さまの理解が得られるようになり、説明が楽になりました。以前のように長期間我慢した末に一大決心で手術を受ける患者は減り、逆に有効なら早めにやってくれという方が増える傾向は前から少しずつありましたが、最近はそれが加速しているようです。
 さて、この疾患は、脊柱管が加齢と共に慢性的・進行性に容積が縮小して中に納まっている脊髄・馬尾・神経根が圧迫障害を呈するようになった病態で、腰椎に発生することが最も多く、その倍は腰部脊柱管狭窄症などと呼ばれています。ここでは、この腰の疾患についての簡単な説明と最近の当院での治療状況を述べます。

図1 脊柱管狭窄症の術前MRI

第4腰椎と第5腰椎の間で椎間板突出(赤い矢印)と黄色靱帯肥厚
(黄色の矢印)による狭窄がみられる

 腰部脊柱管狭窄症は、最初は痛みが臀部から下肢にかけての神経痛やしびれとして発症します。間欠性跛行が教科書的な症候ですが、それに限らず、脊柱管の内圧が高まるような姿勢、動作でそれらの症状が悪化し、その逆で軽快するという特徴を有します。重症化すると馬尾・神経根の麻痺に至り、麻痺が高度になると治療による回復は望めなくなってしまいます。治療にはまず以下のような保存治療を原則とします。
 保存治療は、痛みに対して非ステロイド性消炎鎮痛剤、プロスタグランディンE1製剤による神経血流改善、物理療法、筋力強化訓練を行いますが、それらが奏功しない場合は、狭窄部位をMRI(図1)で確認の上、圧迫神経根への神経ブロックが有効です。それでも痛みが軽減しない、あるいは麻痺が進むという場合は手術適応と判断して圧迫部位の除圧を行っています。

2.脊柱管狭窄症に対する低侵襲手術

図2 脊柱管狭窄症の術後CT

左側から骨削除して顕微鏡下に
両側の除圧(矢印)がなされている。
小皮切で片側だけから行うので侵襲は
内視鏡手術と同等である。

 手術では、神経圧迫要因となっている関節突起骨増殖、肥厚黄色靱帯、合併椎間板ヘルニアなどを確実に切除(以下、除圧と呼びます)すれば、喉に刺さっている棘を抜くようなものなので、症状軽快がかなりの確度で得られます。脊椎手術も最小侵襲化の波が進んでおり、除圧をできるだけ小さい手術創で行い、筋肉の支配神経・血管への侵襲も最小限にするという考え方で行います。内視鏡手術は、椎間板ヘルニアに対しては昨年4月から保険で認められましたが、脊柱管狭窄症にはまだ認められていません。当院では、手術用顕微鏡を使用して狭窄が1椎間であれば皮膚切開は3cmとし、一側から両側除圧を行う(図2)ようにしています。このような方法を用いることにより、手術時間は1椎間一側からの両側除圧で60分未満、出血量80ml未満となり、患者様は手術翌日から歩行して2週間以内に退院されるようになりました。このように低侵襲で復帰も早いので、比較的お元気な80歳代の患者さまが、痛みがとれて、自立を守れるよう、積極的に手術を希望されるケースが増加中です。

3.骨粗鬆症性脊椎骨折の低侵襲手術

図3 脊椎骨折治癒不全に対する椎体形成術

骨粗鬆症性脊椎骨折が正常に治癒せずに骨癒合不全部が空洞(赤い矢印)
となっている。経皮的に空洞部に骨セメント(黄色の矢印)が注入されると
即時的に疼痛が軽減する。

 私どもの試算では、50才以上の脊椎骨折は年間約103万人に新規発生していると考えられています。通常は安静、コルセットなどによる外固定とADL訓練の組み合わせで3~4ヶ月で元の日常生活に回復しますが、中に骨折治癒不全に陥っていつまでも疼痛が続く例もあります。保存治療に抵抗して耐え難い疼痛が持続する症例の発生率は我が国の直近の報告では17%とされており、決して少ない事例ではありません。昔からこのような症例が存在することは分かっていましたが、脊髄麻痺が生じてはじめて治療対象となり、その方法も大侵襲手術が行われることがほとんどでした。痛みが強くても脊髄麻痺までには至らない患者さまたちは治療らしい治療はなされず、ご本人や家族の方もあきらめの境地になっていたと思われます。
 骨折治癒がうまくいかなかった骨粗鬆症性脊椎骨折例に椎体形成術と呼ばれる低侵襲手術が登場しつつあります。骨癒合に失敗した部分は骨が吸収されて空洞になっており、体動でぐらぐら動いています。その空洞に経皮的に骨髄針を刺入して骨セメントを充填し、数分の硬化後からは痛みが嘘のように改善します(図3)。手術時間20分前後、出血はほとんどありません。当院の基準では、骨折したばかりの症例は適応外で、治癒不全に陥って椎体にぐらぐらする空洞ができている場合に限って、この方法に対する説明を行い、同意を頂いた患者さまに対して、5年前からこの手術を行っております。

4.整形外科全体の体制と診療内容

※平成19年当時

  • 整形外科医師:
    原田、松井康素医長、奥泉宏泰医長、竹村真里枝医師、若尾典充医師の5名です。
  • 脊椎・脊髄疾患:日本脊椎・脊髄病学会指導医である原田と奥泉が担当し、脊柱管狭窄症から後縦靱帯骨化症、脊椎骨折まで専門的に診療しています。若尾もこの分野志望です。
  • 股関節・膝関節疾患、肩関節疾患:松井が担当しています。変形性関節症や関節リウマチに対する人工関節からスポーツ外傷に対する靱帯再建まで幅広く対応しています。肩疾患の関節鏡治療も松井が長年取り組んでいる分野です。
  • 骨折:全員で対応しています。特に骨粗鬆症性骨折、なかでも大腿骨頚部骨折は増える一方で全員の主要研究対象疾患に位置付けております。
  • 骨粗鬆症外来:原田、奥泉、竹村が担当しています。

長寿医療センター病院レター第7号をお届けいたします。

 長寿医療センターでは、診療科の充実を図り、全国の高齢者医療の先端を進むとともに地域医療の発展にも力を入れています。今後、病診連携をさらに緊密なものといたしまして、地域の高齢者医療の充実に取り組んでまいります。この号では整形外科の原田敦先生に、脊椎間狭窄症と脊椎骨折に対して当院で行っている新しい治療について解説していただきました。
 今回のレターが先生の診療のお役に立てれば、望外の喜びでございます。よろしくお願いいたします。

病院長 太田壽城