病院レター第4号 2006年9月12日
包括第3内科医長 中島一光
図1 加齢と内臓機能の低下
加齢に伴う内臓機能の低下は、
臓器ごとにかなりの差がある。
最大換気量は、ほぼ直線的に低下する。
(Shock Bourliere F:Report of Canadian Conferene
of Aging.1966;23-36より改変)
誰でも年をとるにつれて体の働きが鈍くなり、若いときのようには立ち振る舞いができなくなってくるものです。加齢と共に低下していく内蔵機能の程度は、それぞれの臓器ごとにかなりの差があることがわかっています。なかでも最も速く低下していくものの一つが肺の機能です(図1)。さらに人によってはタバコ喫煙により、この肺機能の低下に拍車がかかります。COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)が発症、進行するからです。
最近COPDと呼ばれるようになった慢性閉塞性肺疾患は、従来肺気腫とか慢性気管支炎とか呼ばれてきたもののうち、気道閉塞による呼吸機能障害を伴うもののことをいいます。これはほとんど“タバコ病”といっても過言ではありません。タバコの消費増加におくれること約20年ほどでCOPDの死亡率も追随して上昇しており(図2)、タバコ喫煙対策の遅れている日本では、今後ますます多くの高齢者がCOPDに罹患すると予測されています。一部の喫煙者が、自らを“愛煙家”と称し、「タバコは大人の嗜好品であり、国が規制するべきではない」などという悠長なことは、もはや言っていられない状況が来ています。国民の健康を第一に考えるなら、真剣にタバコ喫煙にストップをかけていかなければならないでしょう。断煙に対する啓蒙と支援が極めて重要となってきました。
このような状況を背景に、当院の呼吸器科では国立療養所中部病院の時代から特殊外来として“ 息切れ外来” を立ち上げ、COPDの主症状である“息切れ”をより早い段階で鑑別診断し、積極的な断煙指導によって病状進行をくい止めながら、患者教育や“包括的呼吸リハビリテーション”を行ってきました。包括的呼吸リハビリの最大の特徴は、一人の患者に対して、医師、歯科医師、理学療法士、看護師、薬剤師、栄養士などが各々の立場からそれぞれ問題点を提起し、それを全員で共有し議論することです。すでに2001年10月以来合計106名の患者のリハビリテーションに取り組み、大変な好評を頂いております。COPD以外にも肺結核後遺症や間質性肺炎なども症例に応じて対応しております(図3、4)。
これまで肺気腫は治すこともできず、酸素吸入以外に有効な治療法もない、と思われて来ましたが、最近は抗コリン剤の吸入療法が登場し、その有用性には目を見張るものがあります。今COPDの治療は大きく変わりつつあります。当院呼吸器科としましては、引き続きCOPDの早期発見、断煙支援、患者教育、包括的呼吸リハビリテーション、吸入薬を中心とした薬物療法などを積極的に推進して参りますので、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
長寿医療センター病院レター第4号をお届けいたします。
長寿医療センターでは、診療科の充実を図り、全国の高齢者医療の先端を進むとともに地域医療の発展にも力を入れています。高齢者にとって、呼吸困難はたいへん辛いものです。この号では、当院の特殊外来のひとつである「息切れ外来と呼吸リハビリテーション」について呼吸器科の中島先生に解説していただいています。お心当たりのある患者さまがいらっしゃいましたら、紹介をご考慮下さい。
今後、病診連携をさらに緊密なものといたしまして、地域の高齢者医療の充実に取り組んでまいります。よろしくお願いいたします。
病院長 太田壽城