認知症臨床研究・治験ネットワーク|国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
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国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 認知症臨床研究・治験ネットワーク
認知症の検査

認知症の検査は他の疾患と同様に、問診による現病歴、既往歴、服薬歴、教育歴、家族構成を得た後に、記憶障害などの中核症状の評価、行動 ・ 心理症状などの周辺症状 ( BPSD; Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia; 記憶障害以外の行動面、心理面に現れる症状のことを中核症状に対して周辺症状といいます ) の評価を行います。

その後、一般身体所見、神経学的所見をとり、他の疾患との鑑別のため血液検査や画像検査を行います。

神経心理検査

認知症の症状は記憶 ・ 認知障害、徘徊などの行動障害、日常生活機能の低下などさまざまであり、どの症状を評価するかによっても用いられる評価尺度は異なります。 認知症のスクリーニングや診断の補助として用いる場合、認知症の主症状である認知機能を評価することが必要となります。

日本において高齢者の認知機能をスクリーニングする場合、MMSE ( Mini-Mental State Examination ) や 改定長谷川式簡易知能評価スケールHDS-R ( Revised version of Hasegawa’s Dementia Scale ) が最もよく用いられている検査法です。 物の名前や単語の説明などの課題を中心に認知機能の異常を大まかに評価することができ、いずれも実施時間は10 ~ 15分ほどであり、短時間での評価が可能です。

① MMSE ( Mini-Mental State Examination )

MMSEは時間の見当識、場所の見当識、3単語の即時再生と遅延再生、計算、物品呼称、文章復唱の7項目の言語性課題と3段階の口頭命令、書字命令、文章書字、図形模写の4項目の動作性課題を加えた計11項目から構成される30点満点の認知機能検査です。 得点が低いほど認知機能障害を有する可能性が高く、一般にカットオフ値 は 23/24 ( 23点以下は認知症疑い ) とされます。

『 カットオフ値 』とは ・・・ 認知機能の障害の程度が加齢によるものか病気によるものかを判断する際の基準となる値

② 改定長谷川式簡易知能評価スケールHDS-R ( Revised version of Hasegawa’s Dementia Scale )

HDS-Rは、年齢、時間の見当識、場所の見当識、単語の再生と遅延再生、計算、数字の逆唱、物品の視覚銘記、言語の流暢性の9項目から構成される30点満点の認知機能検査です。 得点が低いほど認知機能障害を有する可能性が高く、一般にカットオフ値は 20/21 ( 20点以下は認知症疑い ) とされます。 HDS-Rは簡便性などに配慮し、あえて動作性課題を除外しています。また、MMSEと同項目である遅延再生において、ヒントによる手がかり再生も部分点として与えられるなど、MMSEとの相違点があります。

神経心理検査は被検者の体調や心理状態が大きく影響します、また、MMSEは教育年数による影響を受けることが知られています。 こうしたことから、心理検査のカットオフ値はあくまでも目安であり、医師による問診や画像検査を総合して診断名が決定されます。

画像検査

認知症の原因疾患を特定するために画像検査は必須です。 脳の形の変化をみるCT、MRI ( 磁気共鳴画像 ) と働きの異常を見つける SPECT ( 脳の血流をみる )、PET ( 脳の代謝をみる ) が主な検査です。

画像検査機器|MRI|SPECT|PET
機器 特徴
MRI
  • 脳の形の変化を見る。
  • CTに比べより小さな異常の検出に優れている。
  • CT、MRIの異常→アルツハイマー病の場合、脳全体の萎縮と、側頭葉の内側の萎縮がある。側頭葉内側には記憶に重要な役割をはたしている海馬が含まれている。ただし、初期には異常が見られない。
  • 脳血管性認知症では出血や梗塞巣が複数カ所あり、大脳白質病変が多くの場合見られる。
SPECT
  • 脳の血流を見る。
  • 脳神経の活動状態を画像化することができる。
  • アルツハイマー病では脳全体の血流低下で、側頭、頭頂部の低下が著名。
  • 脳血管性認知症では脳の様々なところで低下が見られたり、多発性あるいは広い範囲での血流低下が見られるのが典型的。
PET
  • 脳の代謝を見る。
  • 脳神経の活動状態を画像化することができる。
  • SPECTより解像度が高く、情報量も多いが、検査ができる施設が少ない。(保険診療外)
  • アルツハイマー病では側頭、頭頂葉を中心とした代謝の低下が、脳血管性認知症では多発性の低下が多くの場合見られる。

参考文献
高齢者の生活機能の総合的評価 2010 鳥羽研二 新興医学出版社
認知症テキストブック 2008 日本認知症学会 中外医学者