研究紹介
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磁気刺激療法の様子
摂食嚥下障害に対する最もエビデンスの高い訓練はシャキア訓練と呼ばれる仰臥位で行う舌骨上筋群の筋力トレーニングですが、運動負荷が大きいため体力のない高齢者では行うのは困難です。代わりにオトガイ下の舌骨上筋群の電気刺激治療も行われていてその有効性も証明されていますが、オトガイ下の電気刺激では疼痛が生じやすいために強い電気刺激はできませんでした。われわれは、電気刺激ではなく末梢磁気刺激によって舌骨上筋群の筋力強化を行う方法を考案しました。磁気刺激療法は電気刺激療法に比べて疼痛が非常に少ないのが特徴です。また、磁気刺激は電極を必要とせず、磁気刺激に用いるコイルは皮膚に接触させる必要がないため、髭があっても問題なく刺激が可能です。5,400発の磁気刺激が正味6分で終了するなど、訓練も短時間で行えます。本人の努力は必ずしも必要でないため、高次脳機能障害や認知症があっても適用可能なことが多く、多くの摂食嚥下障害患者さんに用いることができます。
舌骨上筋群の末梢磁気刺激に用いる機器(PathleaderTM, IFG社)
摂食嚥下障害を持つ患者には自己で食事を十分に摂取できない者も多く、介護者による食事介助が行われます。近年の系統的レビューによると、食事介助技術を上達させることで食事摂取量が増えること、患者および介助者双方にとって満足度が向上すること、有害事象が生じないことが明らかになっています(Howson FFA, et al. J Nutr Health Aging. 2017)。栄養不良が多い摂食嚥下障害患者にとって食事介助は栄養サポートの一面がある上に、生活の質向上も期待できます。さらに、介助するスタッフのやり甲斐や動機付けにも寄与できる可能性があります。
しかしながら、食事介助技術を評価できる指標は国内外からまだ報告されたものはなく、食事介助技術を向上させ患者に貢献するためには食事介助技術を評価するための指標の開発が肝要です。さらに、食事介助技術評価指標が開発されれば今まであいまいに指導されてきた食事介助法をより具体的に詳細に言語化できる可能性があり、メディカルスタッフの教育にも資することができます。われわれは食事介助技術を評価する指標を開発しました。
当院の回復期リハビリテーション病棟患者に対する歯科的対応の流れ
脳血管疾患や骨折後のリハビリテーションを実施する回復期リハビリテーション病棟に入院している高齢患者は入院原因疾患の影響によって心と体の機能が低下しています。そのため普段通りの歯磨きが出来なくなったり口腔内への意識が遠のいてしまい、う蝕や歯周病が進行しやすい口腔内環境となっていると考えられてます。口腔内環境が悪化していると食べたり飲んだりする口の機能に影響を及ぼし、十分な栄養摂取が出来なくなり、結果的にリハビリテーションの効果が弱まる可能性があります。そこで本研究では、回復期リハビリテーション病棟入院中の高齢患者を対象として口腔内の現状把握を行い、入院時の口腔内環境が栄養摂取量や骨格筋量に及ぼす影響について調査しています。また、入院時の口腔内のチェック(アセスメント)、退院後も口腔内環境を維持できるような退院支援に積極的に歯科が協働する体制を構築することで、地域連携・医科歯科連携のモデルケースとなることを中長期的な目標としています。
図1 膀胱粘膜血流測定の実際
軟性膀胱鏡で膀胱内観察後、内視鏡操作チャンネルからレーザー
ドブラ血流計を挿入し、膀胱右壁、後三角部、膀胱左壁の
粘膜血流を測定し平均化
膀胱内生理食塩水注入は200ml
地域に住む高齢者の約20~40%が尿失禁に悩んでいます。特にフレイル(虚弱)の高齢者では尿失禁の割合が高く、尿失禁のある高齢者はフレイルになりやすいことが知られています。我々は、フレイルと尿失禁に共通するリスク因子が存在すると考えています。そして、そのリスク因子を特定し、改善することで尿失禁の改善に寄与できるかどうかを調査しています。
年を取ると、頻尿や尿失禁、排尿困難などの下部尿路症状が増えます。特に高齢者では、骨盤内の血流が悪くなることがこれらの症状と関係していると言われています。しかし、簡単に骨盤内の血流を測定する方法はまだ確立されていません。この研究では、高齢者の膀胱の血流を測定し、骨盤内の血流と下部尿路症状の関係を明らかにすることを目指しています。これにより、新しい診断や治療方法の開発につなげたいと考えています。
グリーンライトレーザーXPSシステムによる光選択的前立腺蒸散術
前立腺肥大症や尿閉のリスクは加齢とともに増加します。尿閉の対処法としては、尿道カテー テル留置、間欠導尿、薬物療法、手術療法があり、それぞれに問題点があります。当科では手術療法として従来の前立腺を切除する術式(TUR-P)に比べて術中の出血量が少なく術後の尿道カテーテル留置期間が短いなど低侵襲術式のPVPが導入されています。本研究においては、 PVPが高齢者尿閉患者においても若年者同様に、安全かつ有効であるかについて検討を行います。これにより、高齢者医療における尿閉治療の選択肢を広げ、患者およびその家族のQOL向上に貢献することが期待されます。
前立腺癌は高齢男性に多くみられ、その罹患率は増加しています。特に、前立腺癌患者の86.1%が65歳以上であり、治療後の生存期間が長いことが特徴です。ADTは前立腺癌治療の一環として、男性ホルモンの抑制を目的としていますが、その全身への影響は広範囲であり、ホットフラッシュや骨密度の低下、メタボリック症候群、心血管系の合併症などが報告されています。本研究では、ADTを受ける高齢男性患者においてフレイル・サルコペニアを早期に検出できる指標や、介入すべき項目を明らかにすることを目標としています。これにより高齢前立腺癌患者の治療戦略において、フレイル・サルコペニアへの進展を考慮した新しい治療体系への確立への寄与が期待されます。
私たちが食べたものは、栄養分が消化吸収された後、残りが大腸で水分吸収されて最終的に便となって排泄されます。高齢になると、腸の動きが悪くなるなどの理由で便秘症の罹患する方が増加していきます。
便秘は、腹部不快感による食欲低下をもたらすなど生活の質に影響を及ぼしますが、それ以外に大腸癌や心血管系疾患のリスクが高くなり、生命予後が悪くなるとの報告があります
高齢化社会を迎え、便秘症の有訴率も高くなり、便秘症診療はますます重要になっています。
松浦俊博、山田理、⼩栁礼恵、⽵内さやか
消化管機能研究室では、医師、看護師、理学療法士による「排便サポートチーム」を結成し、認知症病棟の便秘症患者に対応しています。
高齢者や認知症患者では、排便困難、残便感などの症状を上手く訴えることができないため便秘症が見過ごされてしまう傾向にあります。これに対して腹部超音波装置を使用し、便秘の有無を客観的に評価して、その後、医師・看護師・リハビリ療法士などの多職種でカンファレンスにより治療方針を決定し便秘症の改善に効果を上げています。
皮膚は全身を覆う臓器のため多彩な疾患があります。摂食・排泄に関連する皮膚疾患も多く、皮膚科診療で摂食・排泄の課題が解決することもあります。
摂食嚥下困難の理由 |
疾患の本態 |
疾患 |
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口の中が痛い |
粘膜と皮膚が一元的に侵され摂食が困難になる炎症性疾患 |
天疱瘡、後天性表皮水疱症、扁平苔癬、円盤状エリテマトーデス、スティーブンスジョンソン症候群、三叉神経3枝領域帯状疱疹、単純疱疹、腸性肢端皮膚炎、ベーチェット病、ウイルス性発疹症、口角炎 |
口が開けにくい |
真皮結合組織病変 |
強皮症 |
口の周りが腫れぼったい |
口腔周囲の浮腫 |
血管浮腫 |
口や口の周りのできもの |
腫瘍 |
有棘細胞癌、基底細胞癌 |
排泄との関連 |
疾患の本態 |
疾患 |
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排尿・排便時時に痛い |
皮膚・粘膜にできる潰瘍性病変 |
梅毒、単純疱疹、帯状疱疹、外陰部皮膚腫瘍(乳房外パジェット病等)、ベーチェット病 |
失禁によって発症 |
失禁によって皮膚が一時的な排泄路 |
カンジダ性間擦疹、刺激性接触皮膚炎 |
皮膚疾患が原因で排尿障害 |
皮膚と排尿障害 |
帯状疱疹(仙尾骨領域) |