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研究目的 Research Interest
はじめに
アルツハイマー病は本邦でもっとも多い老人性認知症で、予防・治療法開発が急務である。 アルツハイマー病の病理学的特徴として、老人斑の形成と神経原線維変化が挙げられる。 分子基盤研究部では、アルツハイマー病の病理学的特徴の一つ神経原線維変化に注目し、 認知機能障害の進行阻止を目指した認知症治療薬の開発に取り組んでいる。
これまでの研究
神経原線維変化の主要な構成成分は、過剰なリン酸化修飾を受けたタウタンパク質の凝集体である。 これまでの研究から脳老化因子、老人斑の主要構成成分であるβアミロイドがGSK-3βと呼ばれるタウタンパク質のリン酸化酵素を活性化する。 活性化したGSK-3βによって過剰にリン酸化されたタウは本来存在すべき微小管からはずれ細胞質で互いに重合を開始する。 可溶性のタウオリゴマーがβシート構造を持つと顆粒状タウオリゴマーと呼ばれる約40分子のタウで形成される不溶性の凝集体となる。 この顆粒状タウ凝集体が結合することで神経原線維変化を構成するタウ線維となることが明らかになってきた。
タウ凝集阻害剤の開発
さらに、動物モデルの検討から過剰にリン酸化したタウの出現に伴いシナプス消失が起こること、 顆粒状タウ凝集体は神経脱落を引き起こすことを見いだした。また、シナプス消失、神経脱落に伴う脳機能障害は認知症を引き起こす。 そこで、私達はタウ凝集を阻害することで脳機能障害を阻止できるのではないかと予測をたて、 タウ凝集阻害剤を探索した結果、タウ凝集阻害効果を持つ化合物X1の発見に成功した。 そして、動物モデルにおいて化合物X1による脳機能障害抑制効果が確認されたため、現在臨床試験の準備が行われている。

シナプスでのタウの機能
また、タウ遺伝子欠失マウスモデルの解析から、タウの新しい生理機能が見いだされた。 このマウスでは長期抑圧 (LTD) が消失している。長期抑圧は記憶・学習に重要であると考えられているヘブ型のシナプス可塑性の一つで、 このマウスでは長期抑圧の異常に加え、老齢期の認知機能が消失している。 このシナプスでタウが担う新たな機能は脳老化を理解する上で鍵になる発見であり、さらにタウ凝集以外を標的とした認知症治療薬開発に繋がる研究である。
おわりに
以上で説明したにように、私達は分子から個体レベル、基礎研究からトランスレーショナル研究へと進めている。 そして、これらのアプローチから脳老化、認知症の原因を解き明かし、そのメカニズムを元に治療薬開発を行うことを目的にしている。



