今更と言われればそれまでですが、今回は血液ガス分析を行う上で必要な検体の取り扱いについて記載させて頂きます。当センターでは、臨床検査部以外の⾎液ガス分析装置の管理・運⽤は臨床⼯学部が担当しております。
⾎液ガス分析の検体(血液)は採⾎から測定まで迅速に⾏わないといけません。ですので常に使⽤できる状態を保っている事、またその値が正確である事(キャリブレーションがしっかりされている事)が⾮常に重要となってきます。臨床⼯学部では、万が一の不具合があった場合も可能な限り限りダウンタイムを少なくすべく臨床工学部内にさまざまな状態監視モニターが設置してあります。
各現場が機器の不具合に気づくのは大体が使用するタイミング・・・。特に血液ガス分析においては検体を取ってから不具合に気付いた場合、復帰するまでの待ち時間や環境によって値が変化しやすいため常に完全な状態でスタンバイしておく必要があります。それを実現するための一つの方法がリアルタイムモニタリングとなります。こうする事で不具合があった場合も現場が気づくまでの間に修繕が可能となります。
今回は、そんな⾎液ガス分析についての「今と昔」を書かせて頂きたいと思います。検体が出たらすぐに測定する。特に⾎液ガス分析の場合はこれが基本というのは上でも書かせて頂きました。もしすぐに測定出来ない場合は氷保管?? たまに耳にする指⽰の⼀つです。これって本当に正しいのでしょうか・・・。これは⾎液成分の代謝に伴う酸素消費と⼆酸化炭素産⽣を考慮したものだと思います。ここでちょっと化学の復習をしてみると・・・。気体の溶解度は⼀定温度で1気圧の気体が溶媒1mlに溶ける体積を標準状態に換算して表します。この溶解度は温度によって変化し、温度が⾼くなるほど溶解度が下がる。ということは温度が下がると溶解度が上がり、よりたくさんの気体を溶け込ませる事ができるということになります。イメージ的には、お湯を沸騰させた時、中から泡が出てくる、つまり溶解度が低下し気体が放出されている。ラウールの法則︓これは溶液中の多量溶媒については成り⽴ちますが、少量溶媒においては成り⽴たない事が多いです。しかし、この場合でも溶質の蒸気圧p、モル分率をXとすると、p=KHX(KHは⽐例定数)が成り⽴ちます。これが「ヘンリーの法則」です。この法則に従う溶液が理想希薄溶液です。そしてもう⼀つ、ヘモグロビンの酸素運搬能⼒・・・みなさんご存知の通り、⾎液中の酸素は溶解酸素(ヘンリーの法則(酸素の溶解率は1mmHgあたり0.0031ml))と結合酸素(ヘモグロビン1gに対して1.34mlの酸素が結合)に分かれています。そしてヘモグロビンは溶解酸素の約60倍もの酸素輸送能⼒を持っています。これらの内容を念頭に、今回の⾎液ガスの検体について考えてみると・・・
ということは⾎液成分の代謝に注意をしてそれを抑えるために氷⽔保管をするのは外気の影響を受けないガラス容器に限り言える事です。しかし現在のシリンジはプラスチックです。プラスチックには酸素透過性があり、時間の経過により⼤気中の酸素と平衡になります。この酸素透過性は⾎球成分の代謝と⽐べると⼤きな変化があるとされています。つまり現在の環境において血液ガス分析の検体の取り扱いに大切なことは・・・
という訳で、現在は⾎液ガスの検体保存に氷は必要ないという事が分かります。「今更こんなネタ」と思われた⽅、申し訳ありません・・・でもこんなのってあんまり気にせず臨床をやってる事が多いと思います。知っていれば判断できる事も知らなければそれで終わり。私たち臨床⼯学部は⽇々知る事に対して貪欲を⽬指します。
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