今回はペースメーカやICD/CRTD等に搭載されている上室性頻拍性不整脈が発⽣した場合に不要な脈の上昇を防⽌するための機能である「ModeSwitch」について書かせて頂きます。 ModeSwitchとは、その名の通り「ModeをSwitchingする」事です。この場合の"ModeのSwitching"とは⼼房TrackingMode(DDD、DDDRなど)から⼼房⾮TrackingMode(DDI、DDIRなど)へとSwitchし、病的に上昇した心房の活動電位に対してそれをInhibitすることで不要な脈の上昇を防⽌するための機能を指します。そんな⼤切な機能である「ModeSwitch」ですが、設定次第では「本当に⼤丈夫︖︖」と思わせる場⾯があります。今回はそんな事例を紹介させて頂きます。まずは以下の⼼電図をご覧ください。
これは当センターの症例において定期のペースメーカ外来時にArrythmiaLogとして記録されていた⼼電図で、FallBack30秒後に自動的に記録されたものです。この時の動きをよく⾒ると・・・ 作動モードはDDIRで間違いありません。ということはペースメーカは「上室性不整脈が発⽣したと判断して⼼房⾮トラッキングモードに変更している」ということになります。 でもよく⾒てみると・・・ 明らかに上室性頻拍性不整脈ではありません。しかし上室性不整脈じゃないのにFallBack︖︖︖ いや、これはFallBack30秒後のEGMです。しかもこの時のEGMは FallBack基準が満たされていない・・・ ということは「この記録以前に不整脈になってた可能性が⾼い」ということになります。つまり⼀過性に⼼房細動になりFallBackしたもののSwitchBack基準を満たせていないために、SinusRythmに復帰しているにも関わらず⼼房⾮同期ペーシングを⾏っているという解釈ができます。そしてその結果、房室乖離を強制的に作ってしまっている。なんでこんな事が起こってしまうのでしょうか。それはFallBack基準とSwitchBack基準が別々に設けられているからです。 特に今回の症例では、Sinus復帰後の速い心房リズムがSwitchBackを邪魔しています。速いSinusRythmによって、⾃⼰の⼼房波がPVARP内に⼊ってしまい(AR)、その前の⼼房センス(As)もしくは⼼房ペーシング(Ap)からのSensor指⽰Rateによって⼼房ペーシングが⾏われております。こうなるとSwitchBack基準である連続した5拍〜9拍の⼼房ペーシング、もしくは7拍のUpperRate以下の⼼房センシングという基準が満たせません・・・。さらにタイミングや設定(NCAPのON/OFF)によっては⼼房受功期ペーシングとなって⼼房細動を誘発してしまう可能性があるのではないでしょうか・・・。 ⼼房細動による不必要な作動を抑⽌するための機能が⼼房細動を誘発する可能性がある・・・。 あまり注⽬されていないけど、これって意外とあるのかもしれません。ではこの作動を防⽌するためにはどうすればよいのでしょう。まず大前提としてNCAPはONにしておくべきです。これを踏まえてその他の設定を考えてみると・・・
これらは医師が総合的に判断して結論を出す事です。しかしさすがの医師もこれらの情報が無ければ治療の選択肢の幅が限られてしまいます。これを読んで下さっている皆様は少なからずペースメーカやICD 等の業務に関わりを持たれている循環器系の医師、臨床工学技士や臨床検査技師、看護師さんが多いと思います。ModeSwitchや TARP、UpperRateの設定はいかがしていますでしょうか。 通常、ModeSwitchは「ON」か「OFF」。PVARPはVA Conductionの有無、そしてUpperTrackingRateは⾃⼰脈の増加の程度との兼ね合いで Wenckebach Intervalをどのくらいに設定するかぐらいで考えているのと思います。 でもこれらはあくまで手術時の初回設定に過ぎません。基本となる機能は正常動作をしていて当然です。近年はネットワークを用いて自宅等の離れた場所にいてもペースメーカ等のデバイスの情報が確認できるようになっています。当センターでも活用はしていますが、すべての患者さんへの導入は行っておりません。患者さんの希望や生活スタイル、基礎疾患等を考慮し質の高い医療の提供に役立つと判断した症例に限り、しっかりとしたご説明(メリットやデメリット等)をお話しした上で導入しています。当センターへ転院された方の中にはその機能自体の理解が出来ておらず「よく分からない機械がベッドの近くにあるんです・・・」という方もおみえになります。「ModeSwitch履歴がある」→「⼼房細動もたまに出るのかな」 「抗凝固療法を⾏っている」 → 「Pafもあるのかな」 で終わらせるのではなく、広い視野で管理を行いより多くの有用な情報を医師に提供し、最終的に患者さんに還元できる知識と技術を付けるべく今後も精進したいと考えています。
臨床工学部
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