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「間質性肺炎」は肺炎とは異なる別の病気です

病院レター第97号 2022年3月1日

呼吸器内科部長 西村浩一

「しつこいせきが続く」「すぐ息が切れる」などの症状があり、レントゲンをとったら、影が見つかり、「間質性肺炎」といわれたが、自分も肺炎になったのかしらと疑問に思われる人もあるかもしれません。通常「肺炎」とは、細菌やウイルスに感染して肺の中に炎症をおこす病気で、もっとも多い症状は発熱です。「間質性肺炎」は、「肺炎」とは異なる病気です。また、間質性肺炎とは、これに含まれる一連の病気のグループの総称であり、間質性肺炎のグループの中には、難病も含まれており、正確な診断とその診断に基づく治療が必要です。
今回は、この間質性肺炎について一緒に考えてみましょう。

1.間質性肺炎とは?

 「間質性肺炎」は、肺の壁(厳密には顕微鏡で識別できる肺胞壁)が肥厚して硬くなる病気の総称で、別名「肺線維症」とも呼ばれます。間質性肺炎には、急性型と慢性型があります。レントゲンや肺機能検査でもなかなか診断できないことも多いのですが、実はけっして珍しい病気ではなく、50歳代から70歳代に多い病気で、発症のピークは60歳代です。

 その多くは原因不明ですが、関節リウマチや強皮症などの膠原病の肺の病気としておきることもあります。せきや息切れが多い症状で、中には無症状だが検診でレントゲンの異常として発見されることもあります。さまざまな病気が含まれますが、半数以上を占めるもっとも多い病気が、難病にも指定されている特発性肺線維症です。正確な病名の診断のためには、呼吸器内視鏡や場合によっては外科的肺生検などの検査を進めることが必要となります。

2.特発性肺線維症について

 特発性肺線維症は慢性の進行性の難病で、病気を引き起こす要因はよくわかっていません。「レントゲンで両方の肺全体に影が広がっている(びまん性病変)」、「肺のCTが蜂の巣の断面のようになる(蜂巣肺)」などの特徴が見られます。聴診器では、しばしば特徴的な肺雑音が聴取されます。「手の指の爪がふくらんで太鼓のばちのようになる(ばち指)」という症状が出る人もいますが、病気との因果関係は不明です。特発性肺線維症は、診断が確定した場合は、特定疾患(難病)の指定を受けます。たとえば、肝臓が固くなる肝硬変と同じ種類の病気だと考えれば分かりやすく、欧米では肺移植の対象になります。慢性の場合、5年から10年くらいで生命にかかわるほどに進行することがあります。

図.特発性肺線維症の胸部CT所見

図.肺標本のX線写真

蜂の巣に似た外観は「蜂巣肺」と呼ばれ特発性肺線維症の代表的な所見と考えられ、診断の有力な根拠のひとつと考えられるようになった。肺標本に示された小嚢胞の集合像はCTによく描出されている。

 特発性肺線維症は、進行性の予後不良疾患として考えなければなりません。長らく治療薬剤はなかったのですが、10余年前から抗線維化薬が治療に認可され、現在では早期に診断がつけば早く治療を始めることができるようになりました。現在2種類の抗線維化薬がありますが、いずれも高価なため、指定難病の審査をパスして医療費負担制度を利用して治療を受けられることを推奨します。公的な審査をパスするためには、正確な診断が求められるため、専門の呼吸器内科で十分な検査を実施し、その結果に基づいて指定難病の審査を申請する必要があります。

 間質性肺炎は、歴史的に病理診断医の診断によって、すなわち顕微鏡で(ある程度の大きさを持つ)肺の標本を観察して診断する組織診断のパターンに基づいて分類されてきました。以前は、原因が不明で、かつ肺組織が通常型間質性肺炎(Usual interstitial pneumonia:UIP)のパターンを示す場合に特発性肺線維症と診断することが正しいとされていましたが、そのためには、外科的肺生検、すなわち全身麻酔で胸腔鏡を用いて、ある程度の大きさの標本を採取することが必要とされていました。しかし、現在では、外科的肺生検を実施しなくても、前述のCTでの蜂巣肺などの典型的所見が明らかとされれば、特発性肺線維症と診断してよいと考えられるようになりました。

3.特発性肺線維症以外の間質性肺炎について

間質性肺炎という病気のグループには、特発性肺線維症以外にもいくつかの病気が含まれます。表に、それらの病名を示しています。これらは、病気の頻度としても稀で、診断も容易ではありません。正しく診断されますと、特定疾患(難病)の指定を受けることができますが、そのためには、呼吸器外科に入院して全身麻酔での外科的肺生検を受け、病理診断で確定診断される必要があります。なかには、ステロイド薬や免疫抑制薬の投与で劇的に改善して、長期に完全寛解を維持し、病気が治癒したと判断されるケースも増えています。侵襲を伴う検査は誰もが敬遠しがちですが、期待できる利益とリスクの可能性について、主治医と十分に相談して方針を選択してください。

表.間質性肺炎グループに含まれる特発性肺線維症以外の病名
非特異的間質性肺炎 NSIP nonspecific interstitial pneumonia
特発性器質化肺炎 COP cryptogenic organizing pneumonia
剥離型間質性肺炎 DIP desquamative interstitial pneumonia
呼吸細気管支炎
関連性間質性肺炎
RB-ILD respiratory bronchiolitis
- associated interstitial lung disease
リンパ球性間質性肺炎 LIP lymphocytic interstitial pneumonia
急性間質性肺炎 AIP acute interstitial pneumonia
上葉優位型肺線維症
(胸膜肺実質繊維弾性症)
PPFE pleuroparenchymal fibroelastosis

4.日常生活での注意点などは?

 間質性肺炎かどうかを見分けるスクリーニングの方法としては、胸部レントゲン撮影がもっとも推奨されます。肺癌の早期発見のためにも、少なくとも1年に1度は健康診断を受けて、胸部のレントゲンをとってください。異常が発見されて医療機関の受診を勧められた場合には、異常を指摘された時および過去3年間のフィルムを持参して呼吸器専門医療機関を受診してください。「鉱山や炭鉱で働いたことがある」「鉱物の粉塵が多い職場(たとえば墓石の研磨作業、建設現場やはつりなど)で働いたことがある」などの職業歴があれば、報告してください。膠原病の病歴がある人は、その申告も忘れずに。もっとも多い症状は、8週間以上せきが続いていたり、少しの坂道や階段の上り下りなど軽い動作で息が切れたりする症状です。

 予防法や日常生活での注意点をしばしば尋ねられますが、原因が不明な場合が多いですから予防は難しいです。「規則正しい生活をする」「感染症に注意」「定期的に健康診断を受ける」などは、呼吸器の他の病気の予防にもなると思います。「禁煙」も望ましいです。間質性肺炎だけでなく、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの肺の病気にも有効です。

参考資料

  1. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究」班 特発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会編集 「特発性肺線維症の治療ガイドライン2017」 南江堂
  2. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編集 「特発性間質性肺炎診断と治療の手引き(改訂第3版)」 南江堂
  3. Nishimura K (Guest Editor) “Interstitial Pneumonia and Related Diseases”Seminars in Ultrasound, CT, and MRI. February 2014(Vol.35, No.1)

長寿医療研究センター病院レター第97号をお届けいたします。

 今回は呼吸器系の主要な疾患の一つである「間質性肺炎」、とりわけ難病に指定されている「特発性間質性肺炎」についてとりあげていただきました。特質性間質性肺炎の有病率は10万人対10人で頻度の高い疾患ではありませんが、緩徐に進行して呼吸不全に陥ったり、急性増悪をおこしたりと予後のけっしてよくない疾患です。
 治療に関しては、以前は肺移植というハードルの高い治療法しか選択肢がない状況でしたが、筆者が記載しているように、肺の繊維化を抑制する薬剤が開発され市販されるようになりました。また間質性肺炎の活動性をチェックできる血液バイオマーカーも検査できるようになってきており、他の領域と同じようにこの疾患においても早期発見の重要性が高まってきています。
 今回ご紹介したような長期にわたる疾患では、支援のための医療制度の紹介やリハビリテーションといった支える医療も重要です。長寿医療研究センターでは他の領域もふくめた多様な難病・難治疾患にも対応しています。
ご相談いただければ幸いです。

病院長 鷲見幸彦