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超高齢化社会を迎えた日本における眼科の役割

病院レター第44号 2013年6月25日

眼科医長 福岡秀記

 この原稿を書いている2013年の時点で、現在の我が国の高齢化した社会をどのような表現をしたら正しいのかとふと疑問に感じました。

  1. 高齢化社会
  2. 高齢社会
  3. 超高齢化社会

どれが正しいのだろう?いずれも良く聞く言葉でどれも同じ程度の状態だろうと感じていました。しかし詳しく調べると65歳以上の人口が総人口に占める割合を高齢化率と呼び高齢化率により分類されていました。(図1)

図1. 高齢化率による分類(高齢化率:65歳以上の人口の総人口に占める割合)

 日本では1970年において既に高齢化社会に、1995年に高齢社会に、2007年に超高齢化社会の状態になり現在は超高齢化社会の状態です。分類には存在しま
せんが仮に28〜35%を超高齢社会、35%〜を超超高齢化社会と分類するならば2015-2020年の間に超高齢社会に2050年には超超高齢化社会になると予想されています。
 我が国は、以上の様に超超高齢化社会へむかっていく現在進行形の状態ですので、高齢者がますます増加し加齢による感覚器機能低下を来すためその中の一部である眼科の役割は大きくなって来ています。日常生活から得る情報の大部分は視覚とされ最近の脳研究では約70-80%もの脳細胞が視覚機能と関係していると推測されています。視力障害の状態は、アメリカでの基準では良い方の矯正視力が0.5未満なら視覚障害、0.1以下の場合は失明状態との定義となっています。
 眼疾患を主要なものに列挙しますと白内障、緑内障、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、ドライアイ、近視、角膜内皮障害、眼瞼下垂などになります。これら一部の概要と当院外来での対応と研究の一部について説明したいと思います。

白内障

図2. 50セントユーロの硬貨の厚みが白内障手術創の大きさとほぼ同じであり,
小さな手術創であることが分かる

 白内障は主に加齢現象で引き起こされる水晶体の混濁が原因となります。初期には眼がかすむ、まぶしい等の症状が出現し、進行により視力が徐々に低下します。年齢分布は50歳代で37~54%、60歳代で66~83%、70歳代84~97%、80歳以上で100%と報告されていますので我が国の高齢化により爆発的に患者が増える事が予想されます。以前の白内障手術は傷口も大きく2時間程度かかる手術でしたが、近年においては眼の中に移植する人工レンズや手術機械の進歩により2.4mmの切開(50セントユーロの硬貨の厚みほど)から30分程度の手術で施行可能になっております。(図2)手術前に乱視が強く術後も乱視が強く残る事が予想される症例に対してはTORIC IOL(乱視矯正眼内レンズ)を積極的に使用し良好な成績を納めております。
 最近では(軽症~重症の)認知症患者の紹介も増加傾向にあり、入院中には認知症専門の先生にもついていただき手術の安全性も考え全身麻酔下での手術を施行しております。特に白内障が高度で失明状態にある場合は劇的に認知症が改善する症例を多く経験しております。
 目がかすむ、まぶしい、見えにくいなどの症状がありましたら白内障を疑いご紹介いただけましたら幸いです。

緑内障

図3. 典型的な早期緑内障の眼底光干渉断層像(神経節細胞複合体mode)
感覚網膜10層のなかで網膜神経線維(NFL)、神経節細胞層(GCL)、
内網状層(IPL)の3層からなる神経節細胞複合体と呼ぶ。
矢印:網膜神経節複合体層が薄いことが分かる。(左:正常 右:初期緑内障)

 緑内障は我が国における失明原因の常に上位を占めており、社会的に重要な眼疾患です。緑内障疫学調査では、40歳以上の日本人における緑内障の有病率は推定5.0%でした。その中の内訳では正常眼圧緑内障が本邦では大半を占め眼圧が正常でも油断出来ないという結果でした。その際、緑内障の新規発見率も89%と非常に高く未治療の緑内障患者が多数存在することが推定されています。これを現時点での知多半島在住50歳以上人口32万人に適用すると実に1万4000人の方が診断されておらず未治療な疾患という事になります。緑内障は、初期・中期とも自覚症状が無いことが多く視神経・視野障害は未治療では進行性、非可逆的であるため健診等での早期発見早期治療が非常に重要な疾患となります。
 緑内障の診断は、医師の診察や視野検査などで総合的に行われるものですが最近の診断機器の進歩により緑内障の極初期からの変化がとらえられる可能性が示唆されております。当院では眼底光干渉断層撮影像を特殊な解析を行う事で網膜神経節細胞複合体厚(図3)と呼ばれる緑内障で特異的に薄くなる部位の検出が可能になってきております。その他の眼底疾患がある場合は解析が不可能な場合がありますが、当院ではこの解析結果も見ていただきながらわかりやすく説明しております。
 緑内障をより早期にまたその病期に合わせた視野検査が可能なように4種類の異なる検査機器を導入しております。

  1. FDTスクリーナー(Frequency Doubling Technology)
  2. 微小視野測定装置(MP1)
  3. ハンフリー視野計(HFA)
  4. ゴールドマン視野計(図4)

ですが、それぞれ特徴があり様々な状態の患者でも対応可能となっております。

図4. 様々な視野検査機器があり緑内障の病期などで使い分けています。

 治療に関してですが、正常眼圧緑内障においても眼圧を下げる治療法が唯一エビデンスのある治療法となります。当院では、点眼治療に変わるものとして選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)を患者のコンプライアンスなどを考慮した上で治療に活用しております。特に点眼を極端に拒否される方やご高齢で自己点眼出来ない方、認知症のある方などに良い適応があると考えております。

図5. 加齢黄斑変性の眼底写真、黄斑部に出血が存在する

加齢黄斑変性症

 加齢黄斑変性症は黄斑部に発生する脈絡膜新生血管とその増殖変化を本体とする疾患です。網膜下へ発育した新生血管からの出血や滲出によって網膜下出血、網膜色素上皮剥離や網膜剥離を呈し結果として萎縮や瘢痕形成し不可逆的な状態になります。(図5)
 初期には変視症(物が歪んで見える)、中心暗点(中心部が見えない)という症状がありますが片眼のみの病変の場合他眼で欠けている視野を補うため気づかず遮蔽する事ではじめて気づくこともしばしばあります。検査にはアムスラーチャートと呼ばれる格子の書かれた紙を使用します。黄斑部の病変であるため進行により急激な視力低下を来し生活に支障を来します。
 この疾患の有病率は最近の疫学研究により50歳以上の日本人の1.4%の方が治療適応のある患者であることが分かってきました。現時点での知多半島在住50歳以上人口24万人に適用すると約3300人の方が加齢黄斑変性症である可能性があります。近年まで視力維持も難しい疾患でしたが2009年より抗血管新生薬療法が適応となり眼球内への注射により視力が維持され、逆に視力が改善する症例もみられる治療法となりました。当院では日帰り手術で対応しております。変視症、中心暗点などの症状の患者がおられましたら是非ご紹介ください。

最後に研究:瞬目解析装置について

 まぶたの動きは、中枢神経によって制御されていますが、まぶたの動きと中枢神経疾患の関係については、あまり研究が進んでいません。中枢神経疾患の治療には、早期発見が重要でまぶたの動きから中枢神経疾患を早期に見つけるための手がかりになる検査の発見が急務です。当院ではパーキンソン病の患者のご協力をいただいて、瞬目解析装置を用いた研究をおこなっております。瞬目解析についてですが、計測器の顎台に顎をのせて前を向き、正面の弱い光を見つめていただきます。その様子を高速度カメラを用いて計測し、専用のソフトで解析します。まだ研究は途中ですが、パーキンソン病の患者では瞬目に特徴的な動きが出現することなどがわかってきています。今後も症例数を増やしてより正確な解析を行いたいと思っております。神経内科の患者で眼科受診を考えておられる方がおられましたら是非ご紹介ください。検査の説明と同意書記入の後、検査は5分ほどです非侵襲的ですので、通常の診察とあわせて受診していただくことが可能です。


長寿医療研究センター病院レター第44号をお届けいたします。

 感覚器は、以前は「マイナー」な診療科として内蔵器官より軽視されてきた傾向にある。
 年配のかたは「眼医者」などという現在では死語になっている言葉も使っていたはずだ。
 糖尿病だけでなく、全身の慢性疾患と眼の関わりが次第にあきらかになり、反対に視力とうつなどの中枢性疾患との関わりも最近のトピックスとなってきている。
 感覚器と全身疾患の悪循環を断ち切る一歩として、視力障害を正しく鑑別して、早期治療に結びつける眼科の最近の診療体制を中心に解説してもらった。

院長 鳥羽研二