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総義歯外来

病院レター第23号 2009年11月27日

口腔機能再建科(歯科)医長
角保徳

 我が国は高齢社会を迎え、義歯(入れ歯)を装着している高齢者の数は増加の一途をたどっています。我が国で使用されている義歯は2000年で3,170万個、2020年には4,820万個に達するであろうと推計され、高齢者歯科医療の中で義歯治療は重要な分野を占めています。要介護高齢者の歯科受診時の最も多い主訴が義歯の不適合です。
 しっかり噛めておいしく食事ができることは人間の生活の中での喜びであり大切な要素です。歯を失ってしまった高齢者の方に食べる楽しみを再び提供するためには、よく噛める義歯が必要です。義歯は「噛む」という機能の他にも、嚥下の補助、義歯装着により口元の感じが良くなったり、発音がしやすくなるといった効果もあります。しかし、大変残念ですが、義歯を使用している総ての人が必ずしも現在の総義歯治療に満足されていない現状があります。
 近年、健康の維持向上は人々の最も関心の高い分野となっており、中でも噛むことに対する高齢者のかたがたの思いは切実となっています。適切な義歯の装着によりしっかり噛めるというだけでなく、良好な栄養状態の維持、全身の健康の維持、QOL(生活の質)の維持・向上が得られるというわけです。
 国立長寿医療センター病院先端医療・機能回復診療部口腔機能再建科では、高齢者における義歯(特に総義歯)の需要に応えるべく専門外来として総義歯外来を開設し、皆さまの総義歯治療・管理のお手伝いをさせていただいています。

1.総義歯外来の考え方

 要介護高齢者では、総義歯に不便を感じても身体的理由により来院が困難となったり、長時間の治療や通院回数の多い場合など歯科を受診することが苦痛となってしまいます。このため適合状態が良く、調整回数も少ない総義歯が必要であると考えています。総義歯外来では、義歯の精度をよくするだけでなく、高齢者の身体的問題や社会的問題を考慮した義歯作成を目指しています。
 総義歯の患者は,歯の喪失により生じた咬合(噛み合わせ)の崩壊により、長期間のうちに顎関節、顎骨、咀嚼筋、顎堤、歯肉粘膜、顎位に変化を生じていることが多いので、単に義歯を作るのではなく、適切な咬合状態を作成するためのリハビリテーションの視点が重要となります。当センターの総義歯治療では、旧義歯(今まで使用していた義歯)を活用した義歯作成の新規方法を用いて総義歯を作成し、皆さまにより良く咬める、食べられる義歯を提供する努力をしています。基本的には健康保険の範囲内で良く噛める義歯の作成を目指していますが、より高度な治療(義歯)を希望される方には保険適用外治療による義歯の作成も行っています。

1) 総義歯外来の対象になる患者

  1. 現在総義歯で困っている人
  2. 難しい義歯・難症例義歯と言われ、何回作ってもうまくいかない人
  3. 上下顎全体的に残存歯が少なくなり、よく噛めなくて困っている人
  4. 健康の源である噛む事を真剣に考え、これから食べることを存分に楽しみたい人
    ただし、どんなに歯科医師が努力しても、顎堤や粘膜の状態により十分咬めない義歯しかできない患者さんもみえますので、その点はご了解下さい。

2) 総義歯外来の日程

 水曜日と金曜日の午前中で、角医長が担当します。

3) 総義歯作成方法

 従来の作成方法では型採りを含め4~8回の来院で義歯が完成しますが、症例の難易度によりばらつきが大きく、安定した成功率が得られませんでした。義歯が上手く合わない理由の一つとして、静的印象(1回で型を採る:スナップ印象)を用いて義歯の非機能時の型採りを行っていたため、実際に使用している機能時に不具合が生じるためでした。義歯は機能時と非機能時でその安定性に差があります。そこで、総義歯外来では、旧義歯を修正、裏打ちを行い治療用義歯として使用します。治療用義歯を使用することで、従来の静的印象ではなく、口腔内で義歯が機能しているときの型採りが可能となります。高度な義歯治療であるハイドロキャストシステムという方法を応用し、2週間かけて徐々に固まる印象材を用いて動く顎の筋・粘膜の型を日常生活の中で採取し、義歯を作成しています。治療用義歯を2週間使用している間に、印象材は強く当たるところは逃げて薄くなり、弱く当たるところは厚くなってきます。このようにして、痛みがなく、安定度・装着感がよく、良く噛める義歯形態・機能が徐々にできあがってきます。このリハビリ義歯の形態・機能を特殊な方法で精密複製し本義歯が完成します。この方法により、短時間で通院回数も少なく適合の良い義歯が完成します。本法は旧義歯を使用しているので、新製義歯でも咬み合わせがずれないのも特徴の一つです。咬合が身体的・生理的に適切な状態となるので高血圧が改善したり、肩こりがよくなったりと全身の様々な症状が改善することも少なくありません。

 以下に当科で行っている総義歯の作成方法手順を紹介します。これらの治療により、従来の総義歯治療に比べて飛躍的に成功率が上がり、安定した治療成績を残せるようになりました。

2.義歯装着後の注意

 義歯の出来具合とあわせて、患者様の取り扱い方法も重要です。お口の柔らかい粘膜の上に硬い義歯をはめるのですから、うまく使えるようになるまでには練習が必要です。主な取り扱い注意点について述べます。

図1. 初診時の状態。下顎の顎堤が吸収しています。

図2. 現時使用している義歯。
増歯や修理されており、粘膜の形態に
合わなくなっていました。

図3. 旧義歯の不要な部分を削合し、
義歯の形態を整えます。

図4. リベース材で義歯の内面の裏打ちをします。

図5. リベース材で義歯の内面の裏打ちをし旧義歯
を口腔内に装着します。リベース材は約3分で
固まり、口腔粘膜の大まかな型が採れます。

図6. リベース材で義歯の内面の裏打ちを行った直後
の義歯。粘膜面や義歯の辺縁が修正されました。
余分なところはバリとして残っているので、
後ほど除去します。

3.動的印象(ティッシュコンディショニング)

図7. 機能時の型採り材を内面に塗り
口腔内に装着します。

図8. 機能時の型採り材を内面に塗った義歯を口腔内
に装着し、機能印象を採得します。動的印象材は
約2週間で固まりますが、治療用義歯を2週間使用
している間に、印象材は強く当たるところは逃げて
薄くなり、弱く当たるところは厚くなってきます。
このように粘膜や筋肉の機能時の型が得られます。

4.最終印象

図9.動的印象材を2週間口腔内に装着し、機能印象
を採得した義歯に、仕上げ用印象材を塗布します。

図10. 仕上げ用印象材を塗布した義歯の内面は、
スムースになっています。この状態で1-2日使用し、
精度の高い滑沢な面機能印象を採得します。

図11. 仕上げ用印象材を2日間使用した義歯の
所見。最終的な型が採得されました。この義歯を
技工所に送り、本義歯を完成させます。

5.装着

図12.完成した本義歯。
十分研磨されきれいな義歯です。

図13. 完成した義歯。患者さんに
義歯がみえるように意識して笑ってもらいました。

6.調整

図14. 咬合紙を咬んでもらい、
み合わせのチェックを行います。

図15. 咬合紙で咬み合わせを調整します。ほとんど
均等に当たっています。噛み合わせがずれても
良いように0°の特殊な人工歯を用いています。

1) 義歯の着脱

 総義歯の場合は着脱は簡単ですが,部分義歯の場合は少しコツがいります。義歯を外すときは、歯の生えている方向に金具(クラスプ)を指ですべらせ、外します。装着の場合は、金具(クラスプ)の位置を歯にあわせて,人工歯の部分を歯の生えている方向に押して装着します。慣れるまでは、鏡を見ながら位置を合わせて手で丁寧に着脱してもらいます。無理な力は変形や破損の原因になります。

2) 義歯の使用

3) 洗浄・管理

4) 歯・粘膜の清掃

5) 歯科受診が必要なとき

以下のような問題がある場合はすみやかに歯科受診させてください。

  1. 義歯が歯肉にあたって傷ができている
  2. 食事が摂りにくい
  3. うまくしゃべれない
  4. 食事や会話中に義歯が外れる

 特に歯肉の痛みがでたら、早期に受診させることが大切です。受診するまで義歯の使用を控えて傷を大きくしないようにしてください。

3.定期検診

 3~6か月おきの定期検診をお勧めします。気が付かないうちに、噛み合わせが悪くなったり、歯がすり減ったりすることがあります。良い状態を長く保つために問題がなさそうな場合でも定期的に歯科受診を勧めてあげてください。


長寿医療センター病院レター第23号をお届けいたします。

 国立長寿医療センターでは、 診療科の充実を図り、全国の高齢者医療の先端を進むとともに地域医療の発展にも力を入れています。今月は、歯科・口腔外科の角医長に 総義歯外来について解説してもらいました。

 今後、病診連携をさらに緊密にして、地域の高齢者医療の充実に取り組んでまいります。
 ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

副院長 加知輝彦