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すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~

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緑茶と記憶をつかさどる海馬の関連 【認知症予防】

老化疫学研究部 Department of Epidemiology of Aging

日本人にとって緑茶は、一日に何杯も習慣的に飲むことが多い飲み物です。トピックスNo.46「緑茶にする?コーヒーにする?~認知機能との関連性~」では一日数杯程度の習慣的な緑茶の摂取が認知機能の保持に有効である可能性を示す研究成果をご紹介しました。今回は、記憶と深く関わる脳の領域である海馬に着目し、緑茶摂取と海馬体積(注1)の関連についての研究成果をご紹介します。

(注1)海馬は記憶能力と関連し、一般的に加齢とともに萎縮することが知られています。NILS-LSAでは頭部MRI3次元画像を用いて、脳の海馬の体積を算出しています

大脳、小脳、海馬の位置を示したイラスト。

画像提供:佐藤末摘 / PIXTA(ピクスタ)

NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)第6次調査に参加された地域住民1,693名を対象として、緑茶の摂取量と、第6次調査および、約2年後に行われた第7次調査で測定した脳の海馬体積との関連性を縦断的に検討しました。

その結果、緑茶をほとんど飲んでいないグループに比べ、一日あたりの緑茶の摂取量が1杯(100ml)増えるごとに、海馬の年間萎縮率が減少することがわかりました。つまり、緑茶の摂取量が多いほど海馬が萎縮しにくいという結果でした()。

1日あたりの緑茶の摂取量を0杯、1杯、2杯、3杯、4杯、5杯のグループにわけ、それぞれのグループの年間海馬萎縮率を比較したグラフ。緑茶1杯はおよそ100ml。

注)解析には一般線型モデルを用い、一日あたりの緑茶の摂取量0杯を基準群(=1)とした時の年間海馬萎縮率を求めた【調整要因: 性、年齢、APOE遺伝子型、既往歴(脳血管疾患、心臓病、高血圧症、脂質異常症、糖尿病)、喫煙状態、飲酒量、総身体活動量、教育歴、抑うつ症状、魚・野菜・果物の摂取量、総エネルギー摂取量】

図:緑茶の摂取は海馬萎縮を抑制する可能性がある

​緑茶にはお茶特有の苦み成分のもととなるカテキンなどのポリフェノールが豊富に含まれ、抗酸化作用や抗炎症作用(注2)があります。動物実験では緑茶カテキンの摂取が海馬の神経細胞の増殖を促進し、生存率を高めること、老化に伴う酸化的損傷や脳の萎縮を抑制する可能性が報告されています。また、お茶の主なアミノ酸であるテアニンは、ストレスによる脳萎縮を抑制することも分かっています。さらに、ヒトを対象とした研究では、カテキンの摂取がエピソード記憶(注3)の維持に効果があることが報告されています。今回の研究結果は、習慣的に緑茶を飲むことが、海馬の萎縮に対する抑制効果を通じてエピソード記憶の維持に効果的である可能性を示しています。

(注2)抗酸化作用や抗炎症作用:生体の酸化ストレスや炎症を抑える作用
(注3)エピソード記憶:個人が経験した出来事に関する記憶

緑茶のカテキンは80度以上の熱い湯でじっくりと淹れるほうが溶出されるため、より効率よく摂取できます。寒い時期には、温かい緑茶を1日数杯程度、美味しく飲んで健やかに過ごしましょう。

一日数杯程度の習慣的な緑茶の摂取で脳老化を予防しましょう。

 <コラム担当:張 姝, 大塚 礼>

*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています*
Zhang S, Otsuka R, Nishita Y, Nakamura A, Kato T, Iwata K, Tange C, Tomida M, Ando F, Shimokata H, Arai H.

Green tea consumption is associated with annual changes in hippocampal volumes: A longitudinal study in community-dwelling middle-aged and older Japanese individuals.

Arch Gerontol Geriatr. 2021 Sep-Oct;96:104454.