本文へ移動

研究所

Menu

すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~

ホーム > 研究所 > すこやかな高齢期をめざして > 「自分を好き」と思う気持ちを大切に

「自分を好き」と思う気持ちを大切に

老化疫学研究部 Department of Epidemiology of Aging

加齢とともに、若い時には簡単にできたことが少し難しくなってきます。例えば、電球一つをかえるにしても、脚立に上り、バランスをとって交換する、という若いときには簡単であったことが、難しくなることがあります。このように、これまでは何でもなかったことが、簡単にはできなくなる、という体験は喪失感をともないます。そして、時には子どもや知り合いの顔色をうかがいながら頼まざるを得なくなると、「迷惑ばかりかけているなぁ…」と自信を失い、落ち込んだりします。こうした自分だけが取り残されたような感覚や、これから自分のことは自分でできなくなるのか、といった将来への不安、生きにくさの感覚には、「自尊感情」が関わっていると考えられます。「自尊感情」とは、“自分を好き”という気持ちや“自分を大事にしたい”という気持ちを表し、「人びとが精神的に健康に生きていくために大切な心の土台」とも言われています。自分に対して愛情を持って安らかな気持ちで過ごすためには必要不可欠なものです。

それでは、人は人生のピークを過ぎると、どんどんと自分を好きという気持ちを失っていくのでしょうか?

NILS-LSAの12年間にわたる調査により、自尊感情が加齢とともにどのように変化するかを検討しました。NILS-LSAの研究では、男性も女性もともに、中年期には自尊感情は上昇傾向にあり、高齢期に入ると安定することが示されました。つまり、高齢期という様々な出来事や体験において喪失を実感することが多くなる世代でも、自尊感情は安定的に維持されていることがわかります。高齢社会において、大変希望に満ちた結果ではないでしょうか?


左の図は、男性40代から90代の年代別に自尊感情の変化を示したもの。右の図は、女性の男性40代から90代の年代別に自尊感情の変化を示したもの。

 

しかし、そうは言ってもとても自信なんて持てない、という状況に直面している方々もいるでしょう。実際に自信が持てず落ち込みがちな時の具体的な対処にはどのようなものがあるのか、について少し述べたいと思います。たとえば、同じストレスを感じる状況に置かれても「しんどい…」と感じる人もいれば「チャンスだ!」と意気込む人もいます。これは、物事の受け止め方の違いが影響すると考えられます。

 

この個人による違いの背景には、人それぞれの「自動思考」という考え方のクセがあります。例えば、先にあげた例では、子どもや知り合いに「迷惑ばかりかけているなあ…」と考えて自分は落ち込んでしまう時でも、頼まれた子どもや知り合いは、「迷惑」と思っていなかったり、すっかり忘れている、なんてことも多々あったりします(逆に、頼まれごとをされることによって「役割」ができて相手は喜ぶこともあるかもしません(トピックスNo.2「何もしなくていい生活は幸せか」参照)。最近、ちょっとネガティブな思考に陥っているな、気持ちが沈みがちだな、という時には、違う側面から物事を考え直してみると良いかもしれません。また、どうしても落ち込んでしまう時、専門家に相談して、自分の考え方のクセをとらえ直すのも有効です。

 

ネガティブな思考に陥って自信を失いがちな時、ちょっと違った側面から物事をとらえてみましょう

 

<コラム担当:富田真紀子>

*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています*
富田真紀子,西田裕紀子,丹下智香子,森山雅子,大塚礼,安藤富士子,下方浩史:
地域在住中高年者の加齢による心理的変化(その2)自尊感情の12年間の縦断的変化.
日本老年社会科学学会,2015

このトピックスに関連する記事もぜひご覧ください。