介護現場では人手不足が深刻であり、事務的な負担軽減が急務であることに加え、自治体においても総合事業の開始や介護保険事業所数の増加など、職員の負担は年々増加している。そこで国は令和元年5月に「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」を発表、実地指導の効率性を向上させ、より多くの実地指導を行うことで事業所の質の担保につなげることとし、令和元年度には全国の自治体に対して質問紙調査を行い、全国の自治体における実地指導の実態を把握し、実地指導の効率化に向けた論点整理を行うなどマニュアル化に向けた検討を行っている。
こういった先行研究を参考に、実地指導の頻度ならびに効率化に向けた取組に関する自治体の意見収集に関する全国調査を行うとともに、全国実地指導マニュアル案を作成し、自治体職員ならびに介護保険事業所職員の事務負担を軽減するための方策を検討し、頻度の高い実地指導の実施により、介護保険事業所のサービスの質の向上を目指すこととした。
実地指導の効率化に向けた新たなマニュアルの検討を行うため、有識者、社会福祉法人専務理事、医療法人財団理事長、ならびに自治体職員2名の計5名からなる検討委員会を立ち上げ、年2回程度の委員会を通じ、新たなマニュアル案の検討を行った。
全国調査の質問項目の検討、ならびに新たなマニュアルに掲載する内容について情報収集、意見交換を行うためのワーキング委員会を設置した。委員は自治体職員2名と訪問系サービスの全国展開を行っている株式会社業務推進部長、ならびに小規模の居住系サービスを運営している会社の執行役員部長、計4名である。
なお、1)、2)の委員会を開催するにあたり、新型コロナウイルス感染症対策として、東京駅近くにある広めの会場を利用するとともに、ウェブ会議システムを用い、ハイブリッド形式にて開催した。また、メールを活用した意見収集を行った。
全国の自治体に対し、実地指導の実施頻度の実態と理想とする頻度、新規指定事業所への実地指導の実施頻度の実態と理想とする頻度を把握するとともに、国の社会保障審議会介護保険部会「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」における意見や実地指導の頻度や効率的実施に向けた意見、ならびに実地指導・集団指導に対する新型コロナウイルス感染症対策について収集すべく、質問紙調査を実施した。調査時期は令和3年1月19日(火曜日)から2月22日(月曜日)で、対象は全国の自治体(都道府県、政令市、中核市、一般市町村)である。
実地指導ならびに集団指導の効率的実施を行っている自治体、ならびに先駆的取組を行っている下記の自治体の事例を参考にすべく聞き取り調査を行った。
青森県青森市:集団指導の効果的開催
北海道川上郡標茶町:集団指導と包括ケア会議を活用し、事業所に情報提供
愛知県豊田市:事務受託法人に実地指導を委託
昨年度の調査結果ならびに今年度実施した全国調査の結果を踏まえ、検討委員会ならびにワーキング委員会での議論、検討を基に、事務局にて新しいマニュアル案を作成し、検討委員会ならびにワーキング委員会の委員より意見を収集した。なお、当初は全国の自治体を対象にグループインタビューを予定していたが、新型コロナウイルス感染症対策のため中止した。
質問紙調査の結果、実地指導の実際の頻度はサービス種別に関わらず「6年に1回程度(指定期間内に1回)」と回答した自治体が50%程度であった反面、理想の頻度としては、すべてのサービスにおいて「2から3年に1回程度」と回答した自治体が最も多かった。また、新規指定事業所を対象とした実地指導は、「指定後2から3年以内に実施」と回答した自治体が最も多かった。さらに、国の専門委員会の意見ならびに昨年度までの調査研究で挙がった実地指導の効率的実施に向けた意見については、多くの項目において「大変そう思う」「まあそう思う」という回答であった。また、標準確認項目・標準確認文書を使って実地指導を行っている自治体の割合は61.8%と半数を超え、その効果として確認項目の明確化や、時間短縮、確認する文書の削減を感じている自治体多かった。しかし、実地指導の実施件数の増加や頻度については効果を感じている自治体は少なかった。さらに、新型コロナウイルス感染症への対策として、集団指導については多くの自治体において集合形式の開催を中止し、書類の送付や動画配信等で行ったとのことであった。また、実地指導においても、調査結果にあるように、中止もしくは延期した自治体が3分の1程度あり、訪問数を減らしたり、電話やウェブ会議システムの活用、書類の提出等、様々な工夫をして実施した自治体が多かった。
聞き取り調査として、青森市は毎年3月に集団指導を実施し、法改正や報酬改定等の情報をいち早く届け、事業所が翌年度に備えるよう支援していること、標茶町は人口が7.4千人と全国でも特に小規模な自治体であるが、毎年集団指導・実地指導を定期的に行っている他、2か月に1回開催している包括ケア会議において、必要な情報を提供していること、豊田市は事務受託法人への実地指導の委託を行っており、その流れを確認した。
これらの調査結果、ならびに平成29年度から実施した全国調査、聞き取り調査の結果を元に、実地指導のマニュアル案を作成し、実地指導と集団指導のポイントについて整理をした。今後は実地指導にかける時間や職員数を見直すなどして効率化を図るとともに、標準確認項目・標準確認文書の活用により的を絞った指導を行い、もし不正が疑われるようであれば、監査に切り替え、徹底して確認する、という流れを定着させていくべきであろう。
あわせて、集団指導を活用し、最新情報の提供や優良事例の紹介等を行うことで、事業所の適正な運営を支援することも重要である。集団指導・実地指導は「事業所育成」のために実施するものであり、自治体の指導担当者はそのことを常に留意し、日頃から事業所が適切な運営ができるよう、わかりやすい情報提供を心掛けていくことが重要であろう。
認知症ケアパスの作成は平成24年6月に公表された認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)の1つ目の柱に位置付けられており、平成25年9月に「認知症ケアパス作成のための手引き」が公表されて以降、多くの自治体が取り組んできた。しかし、国立長寿医療研究センターが平成30年度に実施した調査によると、特に人口が1万人以下の小規模市町村を中心に、平成30年度の段階でまだ認知症ケアパスを作成していない自治体があり、その理由として「地域にある社会資源が限られており、必要性を感じない」、「自治体職員の人手不足」等が挙げられている他、作成した自治体からはその効果が多数報告されている反面、「読者(認知症の人やその家族)への周知が難しい」といった課題も報告されている。
今後認知症の人がますます増加していくことから、認知症の診断直後の「空白の期間」に進行予防の取組に参加したり、介護が必要になっても自宅で過ごすことができるよう生活環境を整えるといった「今後の生活にむけた備え」を行うことや、本人を中心に医療と介護が連携していくこと、家族への情報提供と介護負担の軽減、進行した後も専門職等が連携して本人の意思決定を支援するなど必要な情報提供をしていくことが重要であり、認知症ケアパスはまさにその役割を担うツールである。
そこで本事業では、全国の自治体に対し認知症ケアパスの作成・普及に関する悉皆調査を行い、認知症ケアパスを作成していない自治体の課題を洗い出すとともに、認知症ケアパスの普及・活用に成功している優良事例を収集・整理し、認知症ケアパス作成までの流れや既存の認知症ケアパスの点検、更新に向けた新たな手引き(「認知症ケアパス作成・活用促進のための手引き」)を作成することを目的とした。
日本医師会、日本看護協会、日本介護支援専門員協会ならびに、日本認知症本人ワーキング、認知症の人と家族の会からの代表者、ならびに有識者2名からなる検討委員会を立ち上げ、全国調査における質問項目の検討や結果の解釈の他、「認知症ケアパスコンテスト」における選考委員を依頼、意見収集を行った。あわせて認知症ケアパスを先駆的に作成した3自治体の担当者からなるワーキング委員会を立ち上げ、全国調査における質問項目の検討や「認知症ケアパス作成と活用の手引き」に対する意見収集を行った。
なお、委員会を開催するにあたり、新型コロナウイルス感染症対策として広い会場を予約するとともに、ウェブ会議システムを活用したハイブリッド開催とした。さらに、メールを活用し、意見収集を行った。
また、全国に自治体を対象に、認知症ケアパスの作成状況の把握と作成・普及や課題・工夫に関する質問紙調査を実施した。調査期間は令和2年10月20日から12月7日で、調査票は各都道府県にメールにて送付し、政令市ならびに市区町村に転送された。また、調査票の回収はウェブサイトにて行ったが、セキュリティの関係でウェブサイトにアクセスできない場合にはメール、ファックス、郵送での回収も行った。また、回答時に認知症ケアパスの提出を依頼するとともに、認知症ケアパスコンテストへの参加の有無を確認した。
全国調査への回答は1,243件あり、そのうち調査への同意があったのは1,230件であった。そのうち、令和2年10月時点において認知症ケアパスを「作成済み」と回答した自治体は1,086件で、全体の88.3%であった。また、認知症ケアパス作成時に他自治体を参考にしている自治体は631件(55.8%)、認知症の人やその家族の意見を聞き取ったと回答した自治体は321件(28.4%)であった。その反面、認知症ケアパス作成時に多職種での検討の場を設けなかった自治体が340件(30.1%)と約3分の1に達した。さらに認知症ケアパスの読者として「認知症の人」と回答した自治体は、複数回答では975件(86.2%)であったのに対し、単数回答では138件(12.2%)と大幅に少なく、メインの読者として想定されていないことが明らかとなった。
また、認知症ケアパス作成後の効果として、「認知症や社会資源について知るきっかけとなった」、「相談時にスムーズに対応できるようになった」といった回答が半数以上を占めた反面、課題として「他業務に時間をとられ、作成・アップデートの時間がない」、「認知症ケアパスに認知症の人の希望や意見を反映することが難しい」、「空白の期間にある認知症の人に、認知症ケアパスを届けることが難しい」、「認知症の人への周知が難しい」等が報告された。
また、全国調査実施時に認知症ケアパスの提出を依頼したところ、604件の自治体から提出があり、うち177件の自治体が認知症ケアパスコンテストに応募した。コンテストにおける評価項目についてはまだまだ議論の余地があるところであるが、デザインや見栄えではなく、認知症ケアパス作成の過程を評価することとし、1.当事者視点、2.地域で支える視点、3.社会資源の整理、4.内容の充実、5.利便性、6.活用・評価、7.わかりやすさ/デザイン、8.機能性の8つのポイントについて、主に全国調査への回答を転記・得点化するとともに、一次選考として「認知症の人や家族の意見を聞いているか」、「多職種で検討しているか」について確認し、両者が基準点以上であった自治体が二次選考に進み、上記8つのうち、6つ以上が基準点に達している自治体を「優秀賞」として選出した。また、全国調査において、他の自治体が「参考にした」と回答のあった3自治体(東京都町田市、京都市、仙台市)については、特別賞を授与した。
これらの結果を踏まえ、Q&A形式で「認知症ケアパス作成と活用の手引き」を作成し、参考資料として認知症ケアパスコンテストの優秀賞、特別賞の受賞自治体を紹介した。
全国調査を通じ、自治体における認知症ケアパスの作成・活用状況を把握する貴重なデータが集まった。認知症ケアパスは認知症の人が望む暮らしの道筋(個々の認知症ケアパス)をたてるためのものであるにも関わらず、作成の際に認知症の人の意見を聞いていなかったり、読者として想定されていないといった課題が浮き彫りとなった。さらに、認知症ケアパスを用いて地域にある社会資源の確認・整理が行われることが期待されているが、全国調査の結果では、その効果を感じている自治体は一部にとどまった。
認知症ケアパスの作成は認知症施策推進大綱のKPIに100%と記されているが、「作成すればよい」というものではない。今後、自治体を対象とした研修等の場を設けたり、ウェブサイトを通じて全国共通の情報を提供したり、小規模自治体における認知症ケアパス作成・活用の課題についてさらなる調査を行うとともに好事例を収集・紹介する、といった支援が必要であろう。
本事業の報告書ならびに手引きを参考に、認知症ケアパスが全国の自治体で作成・更新され、認知症の人の地域での生活を支えるツールの1つとして有効に活用されることを目指し、引き続き議論・検討が必要と考える。
認知症初期集中⽀援チームは、認知症が疑われる⼈や認知症の⼈及びその家族への初期の⽀援を包括的・集中的に⾏い、地域包括⽀援センターやかかりつけ医等の地域の関係者と連携を図りながら、⾃⽴⽣活のサポートを⾏う役割を担っている。それら先進的事例の横展開を図り、早期診断・早期対応に向けた体制づくりの推進を図ることは、適切な医療・介護サービス等に速やかにつなぐ取組の強化に資することが期待される。⼀⽅で、同チームは、市町村の設置⽅針や設置場所・機関の特性等の活動環境によって、⽀援対象者や具体的な活動内容に違いが認められ、市町村において担う役割や機能が異なってきている。今後、同チームの更なる機能発揮、チーム活動の 充実に向けては、それらの特徴的な差異に応じて適切に設置・運⽤されることがポイントとなる。
本年度は、上記を踏まえ、チームの設置場所・機関に着⽬した調査等を⾏い、それらの特徴を明らかにし、それぞれの機能の強みを活かしたチーム活動の実施に資するデータや事例の収集を⾏うことを⽬的とした。
事業⽬的に従い、1.市町村および認知症初期集中⽀援チームに対してチーム活動実態に関するアンケートを実施した。また、2.令和元年度の前⾝事業において実施したチーム活動の評価指標にかかる調査データについて、チームの設置場所・機関に着⽬した追加分析を⾏った。また、これまで継続的に整理してきた3.「活動実績報告⽤プログラム」を⽤いた、チーム活動実績のデータ集積・分析を⾏った。
設置場所別アンケート調査︓市町村調査票754票(回収率43.3%)
チーム調査票1,167チームから調査票を回収
実績報告⽤プログラムによるチーム活動実績:312チームからデータの提供があった。
集計は、下記の条件によって⽀援対象者ごとのデータの絞り込みを⾏い1,492⼈のデータ(うち、⽀援終了に⾄っている対象者は580⼈)を得た。
チームが地域包括⽀援センターに置かれるのか、医療機関に置かれるのかは⼈的な要因が強い。その地域にどのような⼈材がいるかによって、どのようなチームが作られるか、⾃ずから決まってくるように思われる。
『地域包括⽀援センターに設置されているチーム』は、⾏政・地域包括⽀援センターとの連携がスムーズで(情報が早く⼊る等)、介護サービスによる⽣活⽀援のニーズが⾼い対象者に、早期かつ効果的に介⼊している。地域包括⽀援センターの総合相談との親和性が⾼く、⽀援チームの⽀援が必要な対象者に関する情報を早期に把握できるとともに、地域包括⽀援センターとの連携の上、介護サービス等福祉的な⽀援ニーズの⾼い対象者への⽀援について有効に活動できる。早期発⾒・スクリーニング、経過観察(⾒守り⽀援)、⽇常⽣活の⽀援が多く、全体的にバランスの良い対応をしている。
『医療機関に設置されているチーム』は、認知症の鑑別診断、対応困難事例など、医療的⽀援のニーズが⾼い対象者に効果的に介⼊している。チームの所属する医療機関等との連携により、⾝体合併症症状増悪等の医療的ニーズへの対応がスムーズにいく。結果的に困難事例対応の⽐率が⾼くなっている。
今回の調査結果からは設置場所でのチームの特徴が明らかになった。市町村は地域の有するチームの特性を勘案し、地域包括⽀援センターや地域の医療機関との役割分担、⼈材の配置等地域の実情を踏まえ、チームの効果的な配置について検討していくことが望ましい。⾃治体として認知症初期集中⽀援チームを有効に活⽤するためのポイントをまとめた。
対象者の早期の把握の仕組みづくり
チームと関係機関の役割分担の明確化
チームによる適切なアセスメント(⽀援の⽅針決定)
迅速な医療・介護サービス等の社会資源への引継ぎに向けた関係づくり
引継ぎ後のモニタリング及びチーム活動の改善・⾒直しの継続的な検討
本調査研究事業では、要介護認定率に影響を与える要因について、先行研究レビューや有識者委員会を行った上で、大規模データを用いて分析を行いその要因を検証することを目的とする。
研究事業を実施するにあたり、有識者10名の委員会、委員6名のワーキング部会を設置した。また、他3名の研究者にも協力いただいた。
要介護状態を予防するための介護予防・健康づくりの推進や、持続可能な介護保険制度の構築の観点から制度を設計・検討するにあたっては、どの要因が要介護認定率にどの程度影響を与えうるものか検証するため、以下を実施した。
先行研究レビュー:公開されている論文、及びJAGES(日本老年学的評価研究)先行研究、の研究報告をレビューしまとめた。
要介護認定率に影響を与えている要因の検証:厚生労働省介護予防・日常生活圏域ニーズ調査データ(以下、ニーズ調査)とJAGES(日本老年学的評価研究)健康とくらしの調査データを用いて、関連要因の検証を行った。
検証された要因の「見える化」システムを開発:要介護認定率に関連する要因の指標を地域マネジメント支援システムに搭載し、見える化した。
先行研究レビューより、地域要因では、地域の医療・介護資源が多いことや地域全体の健康状態が悪いこと、地域に在住する高齢者数が多いこと等が要介護認定率高値に関連する可能性があることが明らかになった。また地域の財政状況が悪いことは要介護認定率低値に関連する可能性があることが明らかになった。個人要因では身体的要因、社会的要因、社会階層での関連のあることが明らかになった。
ニーズ調査を用いた地域の社会参加率と地域の要介護認定率との関連では、仮説として、要介護リスク者割合が高い保険者は要介護認定率が高く、社会関係が豊か(社会参加割合・社会的サポートあり割合・社会的ネットワークが高い)な保険者は要介護認定率が低いとして分析を進めた。結果として、当初の仮説とは異なる、社会参加割合が高い介護保険者は軽度認定率が高く、重度認定率が低いという関連が見られた。また、要介護度にかかわらず認定率を上昇させる共通の関連要因は、高齢化率であった。
一方、JAGES(日本老年学的評価研究)健康とくらしの調査データを用いた分析において、地域の社会参加率と個人の要介護認定発生との関連では、社会参加割合が高い地域で、個人の社会参加の有無に関わらず、重度要介護認定発生が低い傾向がみられた。
これらの要介護認定率に関連する要因の指標を含めて、見える化システムを開発のうえ搭載したことにより、要介護認定率と関連指標の探索や、関連要因の検証が介護保険者内で実施可能なシステムのモデルを構築した。データ搭載にあたっては、データの質の観点から健康とくらしの調査参加保険者データを搭載した。
令和元年6月にとりまとめられた「認知症施策推進大綱」においては、認知症になっても住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる「共生」を目指すなかで、「共生」と「予防」の2つがその両輪として謳われている。ここでいう「予防」とは、認知症の発症遅延や発症リスクの低減等を含んだもので、社会的な関心が極めて高く、市町村や民間企業等様々なセクターにおいて運動や社会交流等の取組が進められているところである。
これらの取組を効果的に推進するためには、本来その実際の成果を測定・評価することが必要であるが、認知症のように時間をかけて進行する複雑系への影響を図ることは元来極めて難しく、まだ標準化されたものも存在しない。まして各市町村の実務的能力の許容範囲内で行えることには限界もある。また、実際の取組の企画と効率的な推進に際しては、地域の様々なステークホルダーを取り込んだ枠組を構築していくこと、ならびにそれを円滑に継続・発展させていくことが求められるが、それは容易ではない。
そこで本事業では、全国の自治体における認知症予防の取組において、それらがどのようなプロセスを経て実施に至ったか、そのなかで各関係機関とどのように調整を行ってきたか、取組を継続していくための工夫にはどのようなものがあるか、そして何をもって成果とし、その評価指標としてどのようなものを想定しているか等について具体例を収集、実態を把握するとともに、今後認知症予防の取組を全国に広めていくための検討を行っていく上で有用な資料を作成することを目指した。
なお、検討に当たっては令和元年度の老人保健健康増進等事業(以下「老健事業」)で実施した「認知症予防に資する効果的な取組事業に関する調査研究事業」における成果を基盤として効率的に行った。
上記目的を達するために、本事業は、1.先行研究や令和元年度の老人保健健康増進等事業にて実施した全国調査の結果、ならびに介護保険法等における「予防」の概念の整理、2.全国の自治体のうち、特色ある取組を行っている自治体に対し、ウェブ会議システム、電話、訪問による聞き取り調査の実施、3.聞き取り調査を踏まえ、認知症予防の取組推進におけるポイントと進め方について整理を行うとともに、自治体の事例をまとめ、事例集を作成、の3点を行った。
まず、予防の概念の整理として、国は平成12年度に介護保険制度を導入し、平成18(2006)年からは「要介護状態になることを予防する」ことを目的に、市町村が実施する地域支援事業に「介護予防事業」が位置づけた。その際、「介護予防」の定義として、厚生労働省は「要介護状態の発生をできる限り防ぐ(遅らせる)こと、そして要介護状態にあってもその悪化をできる限り防ぐこと、さらには軽減を目指すこと」としている。この考えは令和元(2019)年に出された「認知施策推進大綱」にある「予防」の概念と同じであり、自治体が認知症予防の取組を推進するにあたっては、介護予防の取組との一体的な実施が重要である。
さらに、現在世界各国にて認知機能低下および認知症のリスク軽減に関する様々な研究が行われており、WHOが作成したガイドラインでは身体活動、禁煙、栄養、アルコール使用障害、認知的介入、社会活動、体重管理、高血圧、糖尿病、脂質異常症の管理、うつ病、難聴が挙げられている。認知症予防の取組を進めるにあたっては、最新の研究成果を踏まえつつ、実施することが期待される。
また、全国の自治体のうち、認知症施策の推進に力を入れている自治体に対し、聞き取り調査を行った。対象となった自治体は以下のとおりである。
北海道函館市、北海道名寄市、東京都足立区、石川県加賀市、富山県南砺市、岐阜県恵那市、京都府京都市、鳥取県、鳥取県伯耆町、大分県竹田市、大分県豊後高田市
その他、自治体の取組の連携先の例として、鳥取県作業療法士会、京都市域京都府地域リハビリテーション支援センター、株式会社SMIRINGに聞き取り調査を行った他、新型コロナウイルス感染症への対応として集合形式での取組が難しい場合に備え、オンライン通いの場アプリの紹介を行った。
聞き取り調査を通じ、認知症予防の取組を自治体で進めていくにあたり、重要と思われるポイントは以下の点であった。
これら聞き取り調査の結果を踏まえ、認知症予防の取組を自治体で推進していくためのポイントと事例をまとめた「事例集」を別冊で作成した。
介護予防・認知症予防の取組について、聞き取り調査の対象自治体は、「1.認知症の「予防」に焦点を当てたプログラム開発を積極的に行っているところ」と「2.既存事業の中で工夫しているところ」の2つに分かれた。1.は大学や民間企業との連携によって進めており、2.は住民との話し合いや地域の協力者と共に進めている傾向がみられる。ここで大切なのは、どちらの場合であっても「住民のニーズに即して行われているか」である。地域の人口動態や要介護認定率をはじめ、取組に参加している人の状態の変化等、自治体が持つ様々なデータを丁寧に見ながら、今後を見据えて取組内容を検討していくことが重要であろう。また、取組の多くはWHOガイドラインにある「運動」と「社会活動」が多く、その他はあまり取り上げていなかった。生活習慣病の管理が介護予防や認知症予防に資することを考えると、今後は生活習慣病予防を担当している部署との連携が必須であり、連携のプロセスやポイントについて、丁寧に洗い出す必要があると考える。
新型コロナウイルス感染拡大の状況を踏まえ、研修のあり方について検討を行い、オンライン研修を含めた新たな研修体制の構築を試み、試行を行い、実施可能性や有効性を検証する。