― 加齢に依存しない新たな発症メカニズムの可能性 ―
2026年7月1日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下国立長寿医療研究センター)整形外科部の酒井義人部長らのグループは、高齢者の腰部脊柱管狭窄症の病態について、1,266名の患者画像データを解析することで、原因の一つである黄色靱帯肥厚と加齢変性の関連を明らかにしました。その結果、黄色靱帯の肥厚は必ずしも加齢変性を経て生じるとは限らないことが示されました。本成果は、発症メカニズムの解明や予防・治療への応用につながることが期待されます。

図1. 腰部脊柱管狭窄症における黄色靱帯肥厚
腰部脊柱管狭窄症には黄色靱帯の肥厚を伴う場合と伴わない場合がある(赤矢印が黄色靱帯)
腰部脊柱管狭窄症は、高齢者に多い代表的な脊椎変性疾患で、腰痛や下肢の痛み・しびれ、歩行障害を引き起こします。日本では数百万人の患者がいると推定され、要介護の原因となる重要な疾患です。
本症の原因の一つとして、黄色靱帯の肥厚による神経圧迫が知られています。従来、黄色靱帯の肥厚は加齢や機械的ストレスによる変性の結果と考えられてきました。当センター整形外科では2012年より、黄色靱帯の肥厚に着目し、その発症メカニズムの解明と治療・予防への応用を目指して研究を進めてきました。まず、腰部脊柱管狭窄症の発症に関与する黄色靱帯肥厚の基準を設定し(図1)1)、その後、タンパク質解析による弾性線維の減少2)、RNA解析によるシグナル経路の活性化3)、さらにはインスリン抵抗性との関連4)などの分子機構を明らかにしてきました。これらの知見から、黄色靱帯肥厚は加齢変性だけでは説明できない可能性が示唆されていました。
本研究では、MRI画像データを用いて黄色靱帯肥厚と脊椎変性との関係を詳細に検討しました。
まず、各腰椎レベルにおける黄色靱帯肥厚の基準を設定するため、1,086名の若年健常者のMRI画像を解析し、基準値(若年者平均+2標準偏差)を算出しました。
次に、腰部脊柱管狭窄症患者1,266名と非狭窄症患者1,000名のMRI画像を解析し、各椎間(L1/2からL5/S1)における黄色靱帯面積と脊柱管面積の比(FCR)を用いて肥厚の程度を評価しました。また、椎間板変性についてはModic変化(注1)やPfirrmann分類(注2)を用いて評価しました。その結果、黄色靱帯肥厚は下位腰椎(L4/5、L5/S1)(注3)に多く認められましたが、脊椎変性との関係は部位によって異なることが明らかとなりました。また、下位腰椎では脊椎変性を伴う肥厚が多く認められた一方で、上位腰椎(L1/2)では脊椎変性をほとんど伴わない肥厚が認められ、特に腰部脊柱管狭窄症患者で顕著でした。(図2)これらの結果から、上位腰椎における黄色靱帯肥厚は、加齢変性とは異なるメカニズムで生じている可能性が考えられました。

図2. 腰部脊柱管狭窄症における黄色靱帯肥厚と脊椎変性の関連
終板変性を示すModic変化、椎間板変性を示すPfirrman分類
ともにL1/2椎間で他の椎間と比較して有意に割合が低く、
Cochran-Armitage傾向解析では下位腰椎ほど変性が多くなる
という、有意な傾向が示されました。FH:黄色靱帯肥厚
この研究成果は2026年6月22日、国際誌Clinical Spine Surgeryに掲載されました。
本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業の助成を受けて実施されました。
Differential Mechanisms of Ligamentum Flavum Hypertrophy: A Comparative MRI Analysis of Lumbar Spine Degeneration Patterns
酒井義人1 松井寛樹1 竹市陽介1 長田直祥1 足立維1 渡邉研2
Clin Spine Surg.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42317071/
国立長寿医療研究センター 整形外科部 酒井義人
※(at-mark)を「@」に置き換えてください)
国立長寿医療研究センター 総務部総務課 総務係長(広報担当)
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