2025年11月14日
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下国立長寿医療研究センター)整形外科部の酒井義人部長らのグループは、高齢者の慢性的な腰痛がなかなか治らず長引く要因について、361名の腰痛患者を追跡調査することで明らかにしました。薬物治療やリハビリテーションを行っても改善しない慢性的な難治性腰痛にならないための予防にとって重要な研究結果で、臨床への応用が期待されます。
腰痛は厚生労働省の国民生活基礎調査(2022年)において病気やけがによる自覚症状のある者(有訴者)のなかでも、男女とも第一位であり、我が国の国民病といっても過言ではありません。そしてこの腰痛は高齢になる程頻度が高く、若年者と比べて治りにくく、日常生活への影響が大きいと言われています。その要因として骨粗鬆症やサルコペニアといった高齢者特有の病態が関係していることが推測されますが(図1)(参考文献1)、なぜ高齢者の腰痛が治りにくいのか、追跡調査による縦断的研究はなされておらず、高齢者の慢性的な腰痛に対する予防や治療は解決できていませんでした。

65歳以上の3ヶ月以上持続する慢性腰痛の患者361例(平均年齢78.4歳)を対象に、1年間腰痛の経過を観察し、二重エネルギー吸収法(DXA法)を用いた骨密度や骨格筋量、脂肪量などの体組成やMRIを用いた体幹の骨格筋の断面積、レントゲンを用いた姿勢の変化などの経時的変化を調査して、慢性腰痛の改善と難治性との関連を多変量解析により評価しました。腰痛の強さはvisual analogue scale(VAS)で評価し、平均6.2であったVASが3以下に改善していたのは42.1%でした。改善に至らなかった群との比較で行った腰痛の難治性を説明する解析であるロジスティック回帰分析(注1)において有意であった因子は、赤血球の大小不同を示すRDW(red blood cell distribution width;赤血球容積分布幅)と腰部体幹筋断面積でした。腰痛が難治性の高齢者では、腰部体幹筋である腰部多裂筋が経時的に減少していました。(図2)

RDWは加齢とともに赤血球が不均一になる病態のことで、体が酸化ストレスや慢性炎症を伴うと起こることから、ヒトの老化と関連があるとされています。この赤血球の大小不同は血管内皮を傷つけ動脈硬化を引き起こしますが、骨格筋にも影響がありサルコペニアとの関連も報告されており今後の研究成果が待たれています。
また腰部多裂筋は脊椎の分節安定性に寄与する重要な筋であり、いわゆるインナーマッスルとしての役割を果たしています。(参考文献2)骨格筋が減少することと加齢に伴う炎症は関連があり、慢性疼痛の発生にも影響します。(参考文献3)
このように、加齢によって血球に異常が起こることで、骨格筋の萎縮につながり、特に腰部の筋萎縮が腰痛改善の妨げになっておると考えられることからも、体幹筋の強化に取り組むことが腰痛を遷延化させない重要なポイントであると考えられました。
この研究成果は2025年10月9日、国際誌Physical Therapyに掲載されました。
本研究は国立長寿医療研究開発費の助成を受けて行われました。
(注1)ロジスティック回帰分析は、いくつかの要素が、ある結果にどのくらい関連しているかを調べる方法です。
Factors related to the prognosis of chronic low back pain in older adults
著者:酒井義人1渡邉剛1松井寛樹1長田直祥1足立維1竹市陽介1勝見章2渡邉研3
Physical Therapy
整形外科酒井義人
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