病院レター第125号 2026年10月1日

臨床検査部長
糖尿病・内分泌内科医長
吉田守美子
骨粗鬆症は、骨強度の低下により骨折リスクが増大する骨格疾患です。骨強度には骨密度だけでなく「骨質」も関係するため、骨密度がそれほど低下していなくても骨折リスクの高い患者さんが存在します。
2025年、「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」が10年ぶりに改訂されました。新しいガイドラインでは、骨密度だけでなく、既存骨折やさまざまな臨床的危険因子を含めて骨折リスクを評価することの重要性が改めて示されています。骨粗鬆症は整形外科だけで診療する疾患ではありません。糖尿病、慢性腎臓病、COPDなどで通院中の患者さんにも骨折リスクの高い方が少なくありません。
2025年版ガイドラインを踏まえ、日常診療で骨粗鬆症を見逃さず、適切な治療につなげるためのポイントをご紹介します。
骨粗鬆症の診断には骨密度測定が重要です。しかし、骨粗鬆症診療の目的は骨密度の数値を改善することだけではなく、脆弱性骨折を予防することです。そのため、骨密度に加えて、既存の脆弱性骨折、年齢、低体重、薬剤、併存疾患、生活習慣、転倒リスクなどを総合的に評価する必要があります。FRAX®を用いれば、複数の臨床的危険因子から10年間の骨折確率を評価することもできます。特に注意したいのは、骨密度がそれほど低くないから骨折リスクも低いとは限らないことです。例えば2型糖尿病では、骨密度が比較的保たれていても骨折リスクが高くなることが知られています。糖尿病以外にも、慢性腎臓病(CKD)、COPD、関節リウマチ、内分泌疾患、ステロイド治療など、骨折リスクに影響するさまざまな病態や要因があります(表)。
骨密度だけで判断するのではなく、患者さんの背景を含めて「この方は骨折しやすいのではないか」という視点を持つことが大切です。
表 骨粗鬆症性骨折の主要な臨床的リスク要因
| 骨折リスクを高める主な要因 | 日常診療で確認したいポイント |
| 年齢・身体的要因 | 高齢、低体重・低BMI、低骨密度、低活動性 |
| 骨折歴 | 椎体・大腿骨近位部などの脆弱性骨折、複数骨折、最近の骨折 |
| 家族歴 | 骨粗鬆症性骨折の家族歴 |
| 併存疾患 | 2型糖尿病、CKD、COPD、関節リウマチ、脳卒中後、パーキンソン病など |
| 薬剤 | グルココルチコイド、抗てんかん薬、抗うつ薬、性ホルモン抑制療法など |
| 転倒リスク | 転倒歴、筋力・身体機能低下、転倒しやすい住環境 |
| 生活習慣・栄養 | 喫煙、過度の飲酒、カルシウム・ビタミンD・たんぱく質などの摂取不足 |
骨粗鬆症は骨折するまで自覚症状に乏しく、診断されていない患者さんも少なくありません。日常診療では、閉経後女性や高齢者に加えて、低体重、身長低下、脆弱性骨折の既往、ステロイド使用、骨粗鬆症を来しやすい疾患などがある患者さんでは、積極的に骨粗鬆症を疑うことが重要です。特に見逃したくないのが既存の椎体骨折です。椎体骨折は必ずしも強い痛みを伴うとは限らず、患者さん自身が骨折したと認識していない場合があります。「以前より身長が低くなった」「背中が丸くなった」といった変化も、椎体骨折を疑う手がかりになります。また、骨折を一度起こした患者さんは次の骨折を起こしやすく、特に骨折後早期には再骨折リスクが高まります。
このような骨折後早期の「差し迫った骨折リスク(imminentをfractureをrisk)」を意識し、既存骨折を見つけた時点から速やかに次の骨折予防につなげることが重要です。
骨粗鬆症治療には、作用機序の異なるさまざまな薬剤があります。代表的なものとして、ビスホスホネート薬、デノスマブ、SERM(selectiveをestrogenをreceptorをmodulator)などの骨吸収抑制薬や、テリパラチド、アバロパラチド、ロモソズマブなどの骨形成促進薬が挙げられます。治療薬は、骨折抑制効果、安全性、投与方法、腎機能、アドヒアランスなどを考慮して選択します。
一方、最近脆弱性骨折を起こした患者さん、複数の脆弱性骨折がある患者さん、著しい低骨密度を認める患者さんなど、骨折リスクが非常に高い場合には、より早期から強力に骨折リスクを低下させる治療戦略を検討する必要があります。このような患者さんでは、骨形成促進作用を有する薬剤を治療早期から選択することも考慮されます。
また、骨形成促進薬による治療終了後には、骨吸収抑制薬へつなぐなど、その後の治療まで見据えた逐次療法が重要です。骨粗鬆症治療は、「どの薬を使うか」だけでなく、「誰に、どの薬から始め、次に何につなぐか」まで考えることが重要になっています。
骨粗鬆症は、骨折して初めて治療を始める疾患ではありません。初発骨折を防ぐとともに、すでに骨折を経験した患者さんでは次の骨折を防ぐことが重要です。
このような患者さんはぜひご紹介ください
特に高齢の患者さんでは、骨だけでなく、転倒リスク、フレイル・サルコペニア、栄養状態、併存疾患、服薬状況なども骨折リスクに関わるため、患者さんを総合的に評価することが重要です。国立長寿医療研究センターでは、骨密度測定を含めた骨粗鬆症の評価を行い、骨折歴や併存疾患、身体機能などを踏まえ、複数の診療科および多職種が連携して、それぞれの患者さんに適した治療方針を検討しています。
長寿医療研究センター病院レター第125号をお届けいたします。
骨粗鬆症は、骨折するまで自覚症状に乏しい一方、一度骨折すると再骨折のリスクが高まる疾患です。そのため、骨密度だけでなく、既存骨折や併存疾患、服薬状況、転倒リスクなどを総合的に評価し、初発骨折・再骨折の予防に取り組むことが重要です。特に高齢の患者さんでは、フレイルやサルコペニア、栄養状態、身体機能なども踏まえた包括的な診療が求められます。

当センターでは、関連診療科や多職種が連携し、骨粗鬆症の評価から骨折リスクに応じた治療方針の検討まで取り組んでおります。骨粗鬆症が疑われる患者さんや、骨折リスクの高い患者さん、骨折後の再発予防や治療選択にお困りの患者さんがいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご紹介・ご相談ください。
病院長 松浦俊博