心脳血管合併症のハイリスク疾患としての歯周病の発症と制御に関する研究

私たちの体内には数多くの細菌が生息しており、いわゆる細菌叢(そう)を形成しています。腸管に存在する細菌叢が生体に及ぼす影響に関してはよく研究が進んでおり、様々な生体内分子が腸内細菌の認識、免疫賦活、腸管の機能制御等に関していることが明らかになっています。また、腸内細菌の認識に関与する分子は腸内細菌の変動により起こる様々な病気の発症にも関与することも明らかになってきました。一方、口腔にも多種多様な細菌が存在しており、いわゆる口腔細菌叢を形成しています。口腔に存在する細菌が生体にどのような影響を及ぼしているのか注目が集まっています。

歯周病は大多数の成人が罹患する口腔疾患であり、これまでの研究から、特定の歯周病原細菌が歯周病の発症において重要な働きをしていることが報告されてきました。また糖尿病、高血圧、喫煙などは、歯周病を増悪する重要な因子であることも知られています。

私たちは歯周組織が口腔細菌などの歯周病関連因子をストレスとして感知する機構に注目しており、これらの解析によりいわゆる歯周病のリスクファクター(危険因子)の具体的な作用機序を分子レベルで解明していきたいと考えています。

また、"人は血管とともに老いる"とよく言われますが、加齢とともに動脈硬化は進行し、個体・臓器・組織の老化を促進します。種々の生活習慣病は動脈硬化を加速し、心筋梗塞や脳卒中といった全身性血管病のリスクを飛躍的に高めます。したがって、血管の健康を維持することは、健康寿命の延伸のために必須であります。一方、歯周病も生活習慣病としての側面を持ち、加齢がその発症と進行に関与している可能性があります。特に、動脈硬化は歯周組織の再生力を低下させるとともに、歯周病菌に対する抵抗力を減弱させます。糖尿病、高血圧などの生活習慣病は血管を強く障害します。さらに、歯周病細菌は 血管炎を惹起するとともに血栓傾向を高めます。歯周病は、まさに血管を病の座とする血管病であるといえます。

私たちは歯周病の成り立ちについて、血管生物学的、細菌学的、免疫学的観点から総合的に解明し、"よく老いる"ための口腔の健康のあり方について探求していきたいと考えています。

加齢、生活習慣、歯周病