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研究内容
 
組織バンクの研究

 私たちの研究室、研究資源有効利用室では、脳の病気の研究、さらに組織(脳)バンクの運営もおこなっております。脳の病気の研究は認知症の原因となる疾患の中で、中枢神経に起こる神経変性疾患という病気を研究しています。神経変性疾患はヒトの脳に起こる病気で、症状が徐々に進行します。遺伝性の病気と遺伝ではないタイプと2種類あります。我々は主に神経変性疾患の中で、認知症や脊髄小脳変性症を中心に研究しています。ヒトの脳組織に関する研究、トランスジェニック動物に関する研究、培養細胞を使った研究、電気生理学的方法などさまざまな方法を使って研究を進めます。
 組織バンクとは、亡くなった患者さんの脳組織を保存して、神経変性疾患の研究目的に使用するものです。今日、ヒトの組織を用いた研究は倫理面や個人情報の管理の問題などさまざまな課題があり、困難な状況にあります。しかし、我々研究者にとってヒトの組織を直接研究する方法は、とても重要であると考えます。なぜならば、我々の研究は患者さんの治療を最終の目的にしているからです。疾患のモデル動物だけでは、患者さんの治療に応用できません。我々は真摯な態度で亡くなった患者さんと向き合い、ヒトの組織に関する研究を進めたいと考えています。


組織バンクから長寿バイオリソースへ

 
2010年、国立長寿医療センターは独立行政法人として新しいナショナルセンターに生まれ変わります。研究資源有効利用室は、2010年に向けて新しい研究を計画しています。研究所の研究と病院の診療から生じるヒト試料を、認知症などの疾病研究に役立てるために長寿バイオリソースとして保存します。長寿バイオリソースは血液や脳脊髄液などの生体試料に加えて、組織バンクの死体試料を含みます。研究資源有効利用室は病院と研究所が一体となる新しい臨床研究を実施し、長寿バイオリソースを一元的に管理し活用研究を推進します。今後の研究資源有効利用室にご期待下さい。

矢澤生


研究概要
疾患別
 多系統萎縮症
 ポリグルタミン病
機序別
 ヒトの脳神経細胞の変性に関する研究
 
神経細胞―オリゴデンドロサイト間の細胞間相互関連の研究
研究業績



研究概要
 今日神経変性疾患に関する研究は目覚ましい進歩を遂げ、一部の遺伝性神経変性疾患では既に治療の開発段階にある病気もあります。しかし、治療のための研究の対象は培養細胞やトランスジェニックマウス等の動物モデルが大部分で、ヒトの病気の治療に応用するという点では多くの問題が残されています。例えば、遺伝性神経変性疾患の一つポリグルタミン病では大部分の疾患の神経細胞は発病時には核内に異常な封入体が出現することが示されましたが、核内封入体が神経細胞死の直接の誘導機序かどうかは依然として議論のあるところで、これを治療の指標にすることはできないと考えます。また、遺伝性ではない神経変性疾患の発病メカニズムに関する研究は遅れています。
 研究資源有効利用室(LoRRe)の研究テーマは治療開発のための神経変性疾患の病態の解析で、神経変性疾患の中でも認知症や脊髄小脳変性症を中心にしています。脊髄小脳変性症は失調、歩行障害を主な臨床症状とする多くの疾患の総称です。病因により遺伝性脊髄小脳変性症と非遺伝性(孤発性)脊髄小脳変性症の2つに分類されます。今日、遺伝性脊髄小脳変性症の多くはポリグルタミン病であることが明らかになりました。ポリグルタミン病は、原因遺伝子のCAGリピートが異常伸長し、伸長ポリグルタミンを有する蛋白により発病する疾患群で、脊髄小脳変性症である歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)やMachado-Joseph病(MJD)等が含まれます。一方、非遺伝性脊髄小脳変性症は多系統萎縮症(MSA)の頻度が多いです。多系統萎縮症では脳脊髄の白質を中心にしてグリア細胞に異常な封入体(GCI; glial cytoplasmic inclusion)が出現します。GCIには主に α-synucleinが構成蛋白として含まれ、発病に大きく関与することが示されています。どのタイプの脊髄小脳変性症においても症状は緩徐に進行し、発病後10年以内に患者は長期臥床状態に至り亡くなるケースが大部分です。現在MSAの治療として症状を軽度に緩和する治療薬はありますが、神経変性に対する根本的な治療法はありません。LoRReではこれらの疾患の新しい治療の開発を目指して、いろいろな研究方法を用いて研究をする、若くて新しい研究室です。

疾患別
多系統萎縮症(MSA)
 
α-Synucleinはパーキンソン病のLewy小体に含まれるが、アルツハイマー病やMSAでも異常蓄積を起こします。多系統萎縮症では、異常封入体は主にオリゴデンドロサイトに出現するGCIです。Yazawaらはヒトα-synucleinをオリゴデンドロサイトに強制発現するトランスジェニック(TG)マウス(CNP-αsynTGマウス)を作成し、脳のオリゴデンドロサイトの変性と同時に、内因性マウスα-synucleinが前シナプスに封入体を形成し神経細胞及び軸索の変性を誘導することを報告しました(Yazawa et al, Neuron 2005)。この結果はオリゴデンドロサイトに起こった変性が、間接的にマウスα-synucleinにより神経細胞の変性をきたすことを示し、MSAの神経変性機序を考える上で重要であると考えます。さらに、オリゴデンドロサイトと神経細胞には密接なネットワークがあることを示しました。LoRReでは、この多系統萎縮症モデルマウスを使って多系統萎縮症に起こる神経変性のメカニズムを解析し、診断治療の開発をおこないます。



ポリグルタミン病
 
研究資源有効利用室(LoRRe)では、ポリグルタミン病の中で歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)という疾患を第一のターゲットの疾患とします。1990年台前半、多くのポリグルタミン病の原因遺伝子が明らかにされ、そのCAGリピートの異常伸長が報告されました1995年YazawaらはDRPLAの原因遺伝子産物(DRPLA蛋白)を同定し、患者脳組織で異常DRPLA蛋白を示し中枢神経系の分布を明らかにしました(Yazawa et al, Nat Genet 1995)。DRPLA蛋白はCAGリピートと電気泳動移動度とに相関関係を認め、DRPLA蛋白は伸長ポリグルタミンをもつ蛋白として翻訳され、発病に関与します。1997年英国でハンチントン病(HD)のTGマウスが作成され、神経細胞の核内に異常封入体が出現し、ポリグルタミンを含む遺伝子産物が異常な蛋白凝集を起こすことが報告され、HD患者脳組織でも核内封入体は確認されました。今後LoRReでは、このような封入体形成は神経変性に直接影響するのか、それとも神経維持保護の作用に働いているのかを明らかにしたいと考えます

機序別
ヒトの脳神経細胞の変性に関する研究(ヒトの脳組織の解析法に関する研究)
 研究資源有用利用室(LoRRe)の基本的戦略は、脊髄小脳変性症の分子病理のメカニズムを詳細に検討し、その過程で治療に応用可能な最も現実的な方法を開発することです。トランスジェニックマウスを詳細に検討するのと同時に、患者脳組織を解析します。ヒト脳組織の直接の解析は、ルネッサンス時代からの困難なテーマです。その理由の第一は、ヒトの脳は死後急速に蛋白や酵素が壊れます。第二に、神経変性疾患の患者脳組織では患者が亡くなる時期には、脳神経細胞はほぼ消失している場合が多く、初期の発病の変化を捉えるには、適した実験検体ではありませんでした。しかし、ヒト脳組織の直接の解析方法は神経変性メカニズムの総合的な理解には重要であり、特に今日の治療を前提とした神経変性メカニズムの解析には不可欠で、その意義も大きいと考えます。したがってLoRReでは、形態の観察による組織学的検討法やイムノブロットを中心とした生化学的方法などの従来の解析方法に加えて、新たなヒト脳組織の解析方法の開発が重要なテーマです。

神経細胞―オリゴデンドロサイトの細胞間関連の研究
 
今日多くの神経変性疾患における神経変性は、神経細胞変性が単独で起こると考えるより、他の細胞成分が神経細胞の変性に関わると考えることが重要です。具体的には神経細胞以外の脳構成細胞であるastrocyteやオリゴデンドロサイト、microgliaが、神経細胞の変性に深く関与する可能性が強いと考えます。最近Yazawaらは、ヒトα-synucleinをオリゴデンドロサイトに強制発現するTGマウス(CNP-αsynTGマウス)を作成し、マウスにおこる神経変性がMSAの神経病理に極めて類似することを示しました。MSA動物モデルであるCNP-αsynTGマウスではα-synucleinを介して、神経細胞の変性にはオリゴデンドロサイトが重要な役割を演じることを示しました。神経細胞とオリゴデンドロサイトの直接の相互関係を解析し、CNP-αsynTGマウスにおける神経変性のメカニズムを明らかにします

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