一般高齢者向け基本運動・活動編

第2.0版

緒言

新型コロナウイルス感染症の流⾏もようやく収束しました.この間,外出⾃粛が唱えられ続けたことにより,不活発な⽣活が⽇常化し,⾼齢者の⼼⾝機能が低下したことが報告されています.コロナ禍において外出が控えられるような状況においても,できるだけ健康な⽣活が送れるよう, 我々は 2020年5⽉, 「在宅活動ガイド NCGG-HEPOP®2020」を発刊しました.そして,この5年の間に様々な知⾒が得られたことに伴い,このたびver.2.0への改訂を⾏いました.このガイドの⽬的は,知らないうちに⼼⾝の機能が衰えないよう,個々の機能に応じて⾃宅で実践して頂ける運動や活動のメニューをわかりやすく紹介することです.同時に適切な栄養の摂り⽅についても紹介しています.是⾮とも本ガイドをお役⽴て頂き,これからも健康な⽣活を続けて頂くことを願っています.

令和7年8月吉日

国立長寿医療研究センター 理事長 荒井秀典

  • どこでもHEPOP
  • 在宅活動ガイド 2020短縮版はこちら

1. フレイルの進行予防に努めましょう

普段、私たちは外出したり⼈と会ったりする中で⾃然と体や頭を動かしており、それが体や⼼の健康を保つことにつながっています。外出を控え、社会とのつながりが絶たれる状況が続くと「フレイル」の進⾏が懸念されます。フレイルは「加齢に伴う予備能⼒の低下のために、ストレスに対する回復⼒が低下した状態」のことをいい、放置すると簡単に介護が必要な状態に⾄ります。また、⻑期間の活動⾃粛や社会⽣活の制限は、フレイルの進⾏だけでなく、認知症や⽣活習慣病などを悪化させる可能性もあります(図1)。

図1:フレイルの概念

「フレイル」の状態では、⾃分の⼒で歩⾏ができなくなったり、転倒や⾻折を起こしたり、もの忘れが進⾏したり、元々持っていた病気が悪化したり、新たな病気やけがを発症したりする危険性が⾼くなります。このようなフレイルの進⾏によって、これまで維持してきた体や⼼の機能のドミノ倒し(図2)を少しでも避けるために、ご⾃宅でも、できる限りの運動や活動を⾏うことが⼤切です。

図2:フレイルドミノ

この「国立長寿医療研究センター 在宅活動ガイド NCGG-HEPOP® 一般高齢者向け基本運動・活動編」は、個々の機能に応じて⾃宅で実践できる運動や活動のメニューをわかりやすく紹介しています。また、適切な栄養の摂り⽅や安全な⾷べ⽅についても解説しています。「HEPOP®フローチャート」を⽤いれば、どのような運動・活動のメニューを⾏うことが、あなたの体や⼼の状態に、より適しているかを判別できます。本ガイドを利⽤いただくことで体と⼼の健康が維持され、これからも、安全な暮らしを⻑く続けるための⼀助となりましたら幸いです。

2. HEPOPフローチャート

まず、フローチャートの中の①〜③のすべての質問にお答えいただき、⽮印の流れに沿ってあなたに適した運動・活動パック(適正パック)を⾒つけましょう。①②③の全てが「はい」、①と③の両⽅が「はい」となるなど、複数の答えに該当し、複数の適正パックが選ばれる場合もあります。複数のパックに該当するときは、各パックの中⾝を確認し、できそうなメニューから開始してください。

HEPOPフローチャート

適正パックは⼼と体の状態によって変わる可能性があります。1か⽉に1回程度、または⼼⾝の状態が変化した時にフローチャート式質問に答えなおし、その時々で、より適している運動や活動を選んでください。

 

HEPOPフローチャートに進む

3. 運動や活動の際に

【感染拡大防止への対策】厚生労働省2025年8月5日閲覧このリンクは別ウィンドウで開きますより引⽤改変)

  • 「⼿洗い」や「3密(密閉、密集、密接)の回避」、「換気」「マスクの効果的な場⾯などでの着⽤」など、基本的な感染対策に取り組みましょう*
  • それぞれの⽴場でできる感染対策を⾏いましょう
  • 感染対策などについては、最新の情報を参照して下さい

*ただし、令和5年3⽉13⽇からマスク着⽤は個⼈の判断が基本になっています。個⼈の主体的な判断が尊重されるよう、ご配慮をお願いします。

【熱中症予防】

  • 屋内においても、エアコンなどにより、適度な室温を維持しましょう
  • 涼しい服装や日傘、帽子などで暑さを避けましょう
  • のどが渇いているように感じなくても、定期的に⽔分を補給しましょう
  • 暑さに備えた体力づくりと日頃からの体調管理(体温測定や健康チェック)を行いましょう

【運動・活動全般に関する注意点】

  • 運動や活動は無理のない範囲で行ってください
  • 手すりや安定した台を持ち、転倒しないように、周囲の環境に十分に注意してください
  • 運動時は息を止めず自然な呼吸を心がけてください
  • 発熱など体調の悪いときは無理をせず、運動をお休みしてください
  • なるべく毎日、頭や体を動かしましょう
  • 今までになかった痛みや動悸、息苦しさ、その他の症状がみられた場合には、運動や活動を速やかに中止し、かかりつけ医などに相談してください

【運動前の準備】

  • 血圧を測定しましょう 降圧薬を内服中の方:高い方の血圧が100未満、または160以上なら、
    降圧薬を内服していない方:高い方の血圧が80未満、または160以上なら、
    無理な運動は控えましょう
  • 脈拍(安静時心拍)を測定しましょう
  • 脈拍が40拍/分未満、または90拍/分以上なら無理な運動は控えましょう
  • 不整脈・高血圧などの循環器疾患で治療中の方や動悸がある方は、この脈拍の範囲であっても運動前に医師にご相談ください

以下の疾患や症状をお持ちの方は、ご自身の健康状態やお薬の内容などについてかかりつけ医とご相談いただいた上で、その指導のもと、この「国立長寿医療研究センター 在宅活動ガイド NCGG-HEPOP® 一般高齢者向け基本運動・活動編」を使用していただくか、別の運動や活動を実施するかをご判断ください。

【運動や活動に注意が必要な方】

  • 心不全や心臓の術後など循環器疾患をお持ちの方
  • 神経・筋疾患をお持ちの方
  • 手足のしびれや運動麻痺(動かしにくさ)のある方
  • じっとしている時でも身体のふるえが強い方
  • めまいやふらつきがある方
  • 息苦しさ、息切れなどの症状や気管支ぜんそくをお持ちの方
  • 股関節や膝関節など関節の手術を受けた方
  • リウマチなどで関節の変形の強い方
  • 手足や腰、肩などに痛みのある方
  • 安静時でも上の血圧が160mmHg以上,または下の血圧が100mmHg以上の方
  • 降圧薬を内服中で安静時の上の血圧が100mmHg未満の方
  • その他、医師から運動を制限されている方

4. 運動強度と身体活動量

運動や活動には実施時間や回数の⽬安がありますが、状態に合わせて「楽である〜ややきつい」の範囲内で⾏ってください。また下の表1の年齢別運動時⼼拍数も参考にして、これくらいの脈拍数をめどに運動しましょう。

表1:目標となる年齢別運動時心拍数

運動の強さはメッツで表します(表2)。安静時を「1」とした時に、数字が⼤きいほど強い運動ということになります。特別な運動や活動だけでなく、⽇常⽣活や家事などを⾏うことも運動につながります。次のページの表を参考に、⽇々の運動や活動の強さを振り返ってみて下さい。可能なかぎり、3メッツ以上の運動や⾝体活動に取り組み、⾝体活動量の維持・向上を⽬指したいですが、心身機能が弱っている時には横になったまま、座ったままでもできる運動や活動もあります。なるべく寝たきりや座りきりを避け、どんな運動や活動でも良いので、毎⽇継続して体を動かすことが⼤切です。

表2:活動と運動の強度(メッツ)表

5. おわりに

本ガイドでは、⼼⾝の状態に適した活動を安全に⾏えるよう、多様なメニューを紹介しました。なるべく活動的な⽣活を意識し、適切な睡眠、適切な栄養、適切な運動を通じて⼼⾝機能の回復⼒を⾼めましょう。また感染対策をしたうえで屋外での活動を⾏うことにより、陽の光に当たりビタミンDの活性化を促進すると共に、⼼⾝のリズムを整えることも⼤切です。本ガイドを活⽤しながら、⽇々の⽣活の中で可能な限り⼼と体の健康を維持し、すべての⽅が、今まで同様、社会で活躍し続けることを願っています。

6. お問い合わせ先

<国立長寿医療研究センター 在宅活動ガイド NCGG-HEPOP® 一般高齢者向け基本運動・活動編>に関するお問い合わせは、以下のメールアドレスにお願いします。

電話でのお問い合わせには対応できません。お問い合わせは以下のアドレス宛に電子メールでお願いいたします。ただ、全てのお問い合わせには対応できない可能性がありますとともに、お返事に時間がかかる場合がありますのでご了承下さい。

お問い合わせ先 E-mailアドレス:t-hepop@ncgg.go.jp
迷惑メール防止のため@を全角表示にしてあります。メール送信にあたっては、半角の@に直して送信してください。

 

NCGG-HEPOP作成委員会

 

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

⼤沢愛⼦(委員⻑)、前島伸⼀郎、伊藤直樹、川村皓⽣、加賀⾕⻫、佐⽵昭介、村上正治、尾﨑健⼀、⽊下かほり、川嶋修司、⾕本正智、植⽥郁恵、牧賢⼀郎、神⾕正樹、永坂元⾂、⽯野晶⼤、岩瀬拓、和⽥真⼸、島⽥裕之、近藤和泉、鷲⾒幸彦、荒井秀典