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口腔疾患研究部

研究部紹介

未来歯科医療の創生に向けたあゆみ

2005年3月から研究活動をスタートした当研究部も、間もなく4年が経過しようとしています。当初3名であった研究員も現在では12名になり、今後ますます増員となる見込みです。当研究部では、「健全な栄養状態の保持に不可欠な咀嚼機能を司る口腔とその疾患を生物学的に研究し、口腔・歯科疾患の治療と予防に役立てる」ことをミッションに掲げ、研究活動とともに教育活動、さらには国民への啓蒙活動を行ってきました。教育活動においては、愛知学院大学、九州大学、広島大学、北海道大学、東北大学、北海道医療大学の各大学院と連携し、学部学生と大学院生の教育を担当するとともに、大学院生を積極的に受け入れて研究指導を行っています。2009年3月には、当部で研究指導を受けた大学院生2名が学位を取得する予定です。また、研究シーズの実用化のために東北大学歯学部および北海道医療大学歯学部において連携講座等を開設し、さらに綿密な協力関係を構築しつつあります。

当研究部では、高齢者における歯の喪失の問題を血管生物学的、細菌学的、および免疫学的なアプローチにより総合的見地に立って解決することを目標に掲げ研究を行ない、多くの成果を挙げています(その詳細は、本ホームページの業績欄をご覧ください)。

2009年1月
口腔疾患研究部
部長 松下 健二

 

口腔疾患研究部は、平成16年3月に国立長寿医療センター研究所が整備拡充されるのに伴って新設されました。口腔感染制御研究室と口腔機能再生研究室の二室から構成され、平成17年3月から本格的な研究活動を開始いたしました。

当研究部では、“老化の制御、老年病の克服と高齢者の自立の促進”をはかるため、健全な栄養状態の保持に不可欠な咀嚼機能を司る口腔とその疾患を生物学的に研究し、口腔・歯科疾患の治療と予防に役立てます。特に、歯周病とう蝕(虫歯)は歯の喪失をきたす主要な口腔疾患であり、高齢社会において克服されるべき重要課題であります。それらの克服は“自分の歯でおいしく食べる”といった高齢者の QOL を高めます。また、“自分の歯でよく噛んで食べる”ことは、高齢者の認知症予防や栄養維持、疾病回復および疾病予防にも大いに貢献します。さらに、歯周病は心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの発症とも密接に関係しているため、その克服は種々の生活習慣病の予防と改善に寄与します。したがって、有効な歯周病とう蝕治療法の確立は21 世紀の高齢化社会においては喫緊の要事であります。当研究部では高齢者における歯の喪失の問題を血管生物学的、細菌学的、免疫学的、そして再生歯学的アプローチにより総合的、統合的に解決したいと考えています。老年病と生活習慣病の側面を持つ 歯周病の病因論を根本から見直し、再構築するとともに、その新しい病因論に基づいた新規歯周病治療法の開発を目指します。さらに、安全、効率的で確実な歯の再生法の開発し、8020 運動(80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという運動)を強力に推進します。

2005年7月7日
松下 健二

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研究内容

心脳血管合併症のハイリスク疾患としての歯周病の発症と制御に関する研究

私たちの体内には数多くの細菌が生息しており、いわゆる細菌叢(そう)を形成しています。腸管に存在する細菌叢が生体に及ぼす影響に関してはよく研究が進んでおり、様々な生体内分子が腸内細菌の認識、免疫賦活、腸管の機能制御等に関していることが明らかになっています。また、腸内細菌の認識に関与する分子は腸内細菌の変動により起こる様々な病気の発症にも関与することも明らかになってきました。一方、口腔にも多種多様な細菌が存在しており、いわゆる口腔細菌叢を形成しています。口腔に存在する細菌が生体にどのような影響を及ぼしているのか注目が集まっています。

歯周病は大多数の成人が罹患する口腔疾患であり、これまでの研究から、特定の歯周病原細菌が歯周病の発症において重要な働きをしていることが報告されてきました。また糖尿病、高血圧、喫煙などは、歯周病を増悪する重要な因子であることも知られています。

私たちは歯周組織が口腔細菌などの歯周病関連因子をストレスとして感知する機構に注目しており、これらの解析によりいわゆる歯周病のリスクファクター(危険因子)の具体的な作用機序を分子レベルで解明していきたいと考えています。

また、"人は血管とともに老いる"とよく言われますが、加齢とともに動脈硬化は進行し、個体・臓器・組織の老化を促進します。種々の生活習慣病は動脈硬化を加速し、心筋梗塞や脳卒中といった全身性血管病のリスクを飛躍的に高めます。したがって、血管の健康を維持することは、健康寿命の延伸のために必須であります。一方、歯周病も生活習慣病としての側面を持ち、加齢がその発症と進行に関与している可能性があります。特に、動脈硬化は歯周組織の再生力を低下させるとともに、歯周病菌に対する抵抗力を減弱させます。糖尿病、高血圧などの生活習慣病は血管を強く障害します。さらに、歯周病細菌は 血管炎を惹起するとともに血栓傾向を高めます。歯周病は、まさに血管を病の座とする血管病であるといえます。

私たちは歯周病の成り立ちについて、血管生物学的、細菌学的、免疫学的観点から総合的に解明し、"よく老いる"ための口腔の健康のあり方について探求していきたいと考えています。

 

 

 

中高年の歯周病と老化について

老齢、老年、老人、高齢

老齢、老年、老人、他にも老練、老獪なんて言葉もありますが、もちろん少しずつ意味が違います。いずれにせよ歳をとると免疫力が低下し、肉体的、精神的、社会的に変化が生じることが多いため、65歳以上をこのように呼ぶことになっています。長寿医療センターの理念は、高齢者の心と体の自立の促進ですが、そのためには少し長期的視野に立ち、中高年の健康について考えることも大切かと思います。

老化と免疫

加齢に伴い免疫力が低下する理由は胸腺の縮小と考えられています。胸腺は、免疫の司令官T細胞を教育するところですが、老化するとこの胸腺が縮小することが分かっています。胸腺の大きさは、60代では1/4になり、さらに80代では痕跡を残すばかりとなります。

歯と口腔の健康、食事の楽しみ

歯と口腔という器官は、摂食し、咀嚼し、嚥下するときにもっとも大切な器官です。また、発音や会話、審美にとっても重要な器官です。このような口腔の機能は、幼少期、青年期、中年期を経て、老年期に至るまで、常に重要ですが、特に老年期になると、食事の楽しみや会話の楽しみが人生の楽しみの大きな部分を占めるようになります。
若いうちになるべく、むし歯(う蝕)や歯槽膿漏(歯周病)にならずに健康な歯をたくさん残し、もし、う蝕や歯周病に罹っても、有効な治療を受け、予防に努め、状態を悪化させないことが大切なのは1つにはこのためです。一方で、歯周病は、歯の周りに留まらず、身体全体における各種疾患の危険因子であることが分かってきたため、その観点で、歯周病を予防、治療することが推奨されています。疫学調査では、高齢になるほど歯周病に罹りやすくなることが分かっています。

歯周病と全身疾患

歯周病とは、歯周組織において歯周病菌の感染と生体免疫との間で発生する慢性炎症です。出血や痛みなどの症状が軽いために、治療を受けないまま進行することが多く、このため「沈黙の疾患」(Silent Disease)と言われています。歯周病の難点の一つは、知らず知らずのうちに歯を支える歯槽骨が溶け、結果として抜歯の時期を早める、つまり歯の寿命を縮めてしまうことにあります。また、口臭の原因となることもあります。
最近、大体2000年を過ぎてからですが、「歯周病と全身疾患の関係」についてのエビデンス(科学的医学的根拠)が増えてきました。全身疾患とは、一般的に、心・脳血管系疾患(動脈硬化、血栓症、脳梗塞、感染性心内膜炎)、糖尿病、肺炎などのことを言います。

歯周病と血管と動脈硬化

歯周病は歯周組織の慢性炎症ですが、そこで産生された炎症性サイトカインや細菌は、血液や血管を介して、他の臓器へと影響します。たとえば、歯周病による炎症は、血管の炎症を惹起し、動脈硬化を促進すると言われています。最近、動脈硬化巣で、歯周病原因菌であるPorphyromonas gingivalis (P.g.)が検出され、報告されました。P.g.は血管内皮細胞に侵入でき、さらには血小板の凝集を促進し、血栓形成を進めることも報告されています。

歯周病と認知症

岩手県で行われた調査では、歯周病の重症度と無症候性脳血管障害との間には正の相関があることが分かり、歯周病と血管性認知症の因果関係についての詳しい調査が進められています。

歯周病と血管機能

歯周病患者を対象としたRandomized Controlled Trial (RCT, ランダム化比較試験)がロンドンで行われ、2007年のNEJM誌に、その結果が掲載されました。集中的な歯周病治療は、一過性に全身の炎症を増大させるものの、6ヶ月後には血管機能の改善をもたらしました。具体的には、血管拡張による血流の改善、好中球レベルと血中可溶型Eセレクチン濃度の減少が見られました。

歯周病と感染性心内膜炎

感染性心内膜炎は、口の中の細菌が血液の中に入り、心臓の弁に付着して炎症を起こす病気です。歯周病に罹っている人は、罹っていない人に比べて、心臓の冠動脈疾患に罹っていることが多く、心筋梗塞の発作も多いことが報告されています。

歯周病とバージャー病

手足の血管が詰まり、悪化すると手足の切断に至る原因不明の難病、バージャー病 (Buerger's disease:ドイツ語読みではビュルガー病)は、日本では閉塞性血栓血管炎とも呼ばれています。日本にも一万人の患者がいると言われ、国の特定疾患にも指定されています。東アジアや南アジアにも多くの患者がいます。東京医科歯科大学の研究グループが調査したバージャー病患者全員に中程度から重度の歯周病が見つかり、しかも、手足の患部のほとんどから歯周病菌 Treponema denticola が検出されました。一方、正常血管の試料からは歯周病菌はまったく検出されませんでした。このことからバージャー病と歯周病には深い関係があると考えられています。
バージャー病は、末梢動脈に血栓ができ、末梢部の壊死が起こる病気です。喫煙は血管収縮を起こすため、バージャー病の主たる増悪因子とされ、バージャー病の治療には、温浴、マッサージ、運動などによる血流の改善が行われています。

誤嚥性肺炎と歯周病

高齢になると食べ物を飲み込むときの反射(嚥下反射)や気道にものが入りそうになったときの反射(咳反射)が低下し、誤嚥しやすくなり、このため誤嚥性肺炎の頻度が増えます。誤嚥性肺炎の肺でも数種の歯周病菌が検出されています。誤嚥性肺炎は、口腔内の清掃により、予防、改善できることが分かっています。

糖尿病と歯周病

以前から、糖尿病になると歯周病に罹りやすいことは分かっていましたが、最近、歯周病が糖尿病の危険因子であると言われるようになってきました。そのしくみとして考えられているのは、歯周病によって血中TNFα濃度が上昇し、このTNFαによって全身の細胞のインスリン抵抗性が高まるというものです。臨床疫学のデータでは、歯周病の治療によって、2型糖尿病患者の血糖値や血中TNFα濃度、HbA1c値が低下したとの報告があります。

生活習慣病としての歯周病

このように歯周病は、歯周組織という局所の慢性感染と慢性炎症に留まらず、血液や血管を介して、実にさまざまな全身の臓器へ影響を及ぼすことが分かってきました。特に、高齢者では、免疫力が低下するため、歯周の感染の影響が、様々な形で他の臓器に発現するようです。歯周病もまた、血栓や動脈硬化で悪化する病気で、他の生活習慣病や老年病と同様に、喫煙、ストレス、食生活、栄養状態などに強く左右されることが知られています。身体の中の慢性炎症は、細胞の老化を進め、生体の老化を促進すると言われており、この観点でも慢性炎症である歯周病の予防と治療は重要と考えられます。今後は、生活習慣病の一員、また老化促進因子として歯周病を捉え、予防、治療、そして研究を行っていく必要がありそうです。


 

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スタッフ

部長 松下 健二
口腔感染制御研究室長 四釜 洋介
流動研究員 王    静舒
流動研究員 黒澤 実愛
研究補助員 小暮 宏実
研究補助員 杉浦 優子
研究補助員 蒔田 千夏

客員研究員

渡邉 裕
外来研究員 須磨 紫乃
外来研究員 石田 直之
研究生 髙田 鮎子

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研究業績

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トピックス

 

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人材募集

当研究室では、下記の研究に参加してくださる仲間を募集しています。

[研究スタンス]

・生命の基本原理を理解する。
・社会への貢献や臨床応用までを想定した研究・開発を行う。

[募集対象]

・研究・実験補助員
・日本学術振興会 特別研究員 (5月が〆切です。ご相談ください。)

[特色]

・中高年の約90%が罹患する歯周病が、心・脳血管障害の危険因子であることについて、その病態理解を進め、それに   基づく新しい診断技術と治療技術の研究・開発を行っています。
・大学ではなく研究所です。
・セミナーへの参加(国内、所内、センター内)
・学会、研究会での発表(国内、海外)
・キャリアアップ・キャリアパス支援(学位取得、学振特別研究員、研究費取得など)
 

連絡先

口腔疾患研究部長:松下 健二
Tel:0562-46-2311 (内線5401)

口腔感染制御研究室長:四釜 洋介
Tel:0562-46-2311 (内線5552)

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