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創薬モデル動物開発室 (津田研究室)

はじめに

現在、4人に1人が65歳以上である超高齢社会を迎えている我が国では、高齢者の多くが罹患する認知症が問題になってきています。特に、認知症の約6割を占めるアルツハイマー病(AD)に対する治療薬開発等の対策が求められていますが、いまだに有効な治療薬の開発には成功していません。この要因としては、アルツハイマー病を短時間で定量的に判定できるモデル系が不足していることが挙げられます。当研究室は「旧創薬モデル動物開発研究プロジェクトチーム」の研究を継続しており、創薬研究に資するモデルとして、ショウジョウバエとマウスそれぞれで新規ADモデルの確立に成功しています。これらを用いて、さまざまなアプローチで研究を進めています。特に、化学生物学(ケミカルバイオロジー)による手法を用いた「個体レベルでのアルツハイマー病治療薬の開発」は、これまでにないユニークなアプローチであることから、開発が難航している治療薬研究に対するブレークスルーが期待されています。

研究に用いている生物

創薬モデル動物開発室のホームページにようこそ!

What's new?

  • 現在、研究員の募集を行っています(詳細は案内ページをご覧ください)。
  • 集合写真をUPしました。
  • 共同研究で行っていた仕事が論文になりました(Acta Neuropathol Commun, 4(1): 109, 2016)。
  • 新規ADモデルマウスの論文が掲載雑誌の表紙に採択されました(Aging, 8: 427-440, 2016)。

研究概要

当研究室では、ショウジョウバエやマウスといったモデル動物を用いてアルツハイマー病(AD)の研究を行っています。モデル動物を用いたヒト疾患の研究では、モデルのどこまでがヒトで生じている現象を反映しているのかを常に念頭において進めることが大切です。この点、神経細胞は進化的に保存された部分も多く、ショウジョウバエにもマウスやヒトといった哺乳動物に共通した機能調節が多く見つかっています。このことから、ショウジョウバエやマウスを用いた研究結果の多くはヒトへ外挿できるのではないかと考えています。これまでの研究から、アルツハイマー病の発症に伴った神経機能低下や神経変性を反映したモデルをショウジョウバエやマウスで確立することに成功しています。これらを用いて、以下のように研究を進めています(さらに詳しく知りたい方は、研究内容を見てください)。

  1. ショウジョウバエを用いたADの定量的解析系の確立
  2. ADに伴う神経変性誘導のメカニズム解析
  3. 創薬研究に資する新規ADモデルマウスの確立
  4. 個体レベルでのAD治療薬の開発

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研究内容

(1) ショウジョウバエを用いたADの定量的解析系の確立

ショウジョウバエを用いてアルツハイマー病(AD)の発症メカニズムの解明、および治療薬を開発するためには、創薬開発に資するモデル系が必要です。具体的には、神経機能低下を短時間で、同期的かつ定量的に判定できるシステムの確立が必須だと思われます。そこで、創薬モデルという視点から、従来のショウジョウバエADモデルを再検討してみた結果、これまでのショウジョウバエADモデルは発症に時間がかかり(2週間以上)、個体間で発症のばらつきも大きい等、創薬モデルとしてはあまり適していないことが判明しました。そこで私たちは、Aβ42に様々な変異を導入した変異型Aβ42を多数確立して、毒性効果をin vivoで比較することにより、強い行動異常誘発効果を示す点突然変異を選別しました(Omata et al., 2014)。次に、同期的に行動異常を誘発させるため、成虫期の神経細胞だけで変異型Aβ42を発現誘導できるシステムを開発しました。この系では飼育温度を上げるだけで、神経細胞特異的に変異型Aβ42の発現を誘導でき、飼育温度の上昇から僅か1週間で歩行速度の減少等、行動異常が同期的に観察できることが確かめられました。このシステムでは電気生理学的な解析から、特定のシナプス機能が経時的に減少していることが確かめられていることから、ADに伴う神経機能低下を効果的に判定できる系として期待されています(論文投稿準備中)。

(2) ADに伴う神経変性誘導のメカニズム解析

アルツハイマー病(AD)の特徴として、脳内で多くの神経細胞が変性することにより脳萎縮(Atrophy)が生じています。この原因に関しては、いまだに多くの論争がありますが、ADの原因因子であるアミロイドβおよびTauが関わっていることが予想されています。私の研究室ではADに伴う神経変性を研究するため、ショウジョウバエモデルを作製しました。具体的にはAβのN末端がピログルタミル化(pE化)された、pE化Aβを発現する系統を作製しました。解析の結果、pE化Aβの発現により神経細胞が進行性にアポトーシスを誘導して変性することを見いだしました。詳しい解析から、pE化Aβによるアポトーシスの誘導には小胞体ストレス(ERストレス)が関わっていることを見いだしています(論文投稿中)。

(3) 創薬研究に資する新規ADモデルマウス

新規ADモデルの測定結果

図1新規マウスADモデルにおける聴力異常

ショウジョウバエを用いた薬剤スクリーニングにより、同定されてきた複数の化合物候補の中から、ヒトにも効果を示す候補薬剤を見いだすためには、マウスを用いた薬剤検定が必須です。しかし、これまで創薬開発に用いられている既存ADモデルマウスは、発症に時間がかかり(約1年)、Aβによる神経毒性効果を経時的かつ定量的に評価することが難しい等、複数の薬剤検定には向いていません。そこで私の研究室では、ADの発症を定量的にとらえることができる、新規ADモデルマウスを独自に確立することにしました。これまでの報告で、ADの進行に伴って嗅覚を始めとした感覚機能の低下が観察されていることに着目し、感覚細胞である内耳有毛細胞の機能を利用した検出システムを考案しました(特許第5876664号)。具体的には、家族性ADの変異(E22G)を有するAβ42(Aβ42E22G)を内耳有毛細胞で発現するTgマウス([Math1E-Aβ42E22G])を確立しました(特願2016-009644)。この[Math1E-Aβ42E22G]の聴力を聴性脳幹反応(ABR)と呼ばれる電気生理学的手法でモニターしたところ、生後4ヶ月から聴力の低下が確認されました(図1)。おもしろいことに、この聴力低下は超高音刺激(>32kHz)に特異的に現れ、16kHz以下の周波数に対する刺激応答には変化がありませんでした。超高音域に対する聴力低下は老化したマウス(生後1年以上)でも観察されることから、このシステムは老化現象と何らかの関係があることが予想されています。この[Math1E-Aβ42E22G]における内耳有毛細胞では、生後8ヶ月くらいから変性が確認され、ADの原因因子の一つであるヒトTauとの相乗効果も観察されています。以上の結果から、このシステムはAD病態の少なくとも一部は反映している可能性が支持され、掲載された科学誌の表紙にも採択されています (Aging, 8: 427-440, 2016)。

 

当システムは、Aβの発現による神経機能低下を電気生理学的に直接観察することができる点で、記憶・学習の行動試験を指標とする従来の方法とは異なり、(1)Aβによる毒性効果を経時的かつ定量的に判定でき、(2)Aβによる細胞変性の誘導が観察でき、(3)AβとTauとの相互作用がモニターできる、といった特徴を有し、AD治療薬開発に資する画期的システムだと思われます。

(4) 個体レベルでのAD治療薬の開発

これまでのAD治療薬の開発は、主に疾患関連因子の生化学的な作用モデルを指標として行われてきました。しかし、今のところ疾患の進行そのものを有効に抑制する「疾患修飾薬」の開発には成功していません。そこで、われわれは生化学的な作用モデルに依存しない「個体レベル」でのAD治療薬の開発を試みることにしました。

a) ショウジョウバエに対する薬剤投与法の確立

ショウジョウバエを用いたAD治療薬探索研究を開始する前に、化学生物学(ケミカルバイオロジー)による研究手法の導入を進めました。薬剤投与法を含めた基本的な手法を確立する目的で、ショウジョウバエに対して寿命延長活性を有する化合物の検索を行った結果、20種類のポリフェノール性化合物の中から平均寿命を約20%延長する活性を有する、テトラヒドロクルクミン(THC)の同定に成功しました(Xiang et al., 2011)。遺伝学的な解析の結果、THCはdFoxo1 (ショウジョウバエFOXO3ホモログ)やdSir2 (ショウジョウバエSirtuin1ホモログ)の変異体バックグラウンドでは効力を失うことから、THCによる寿命延長効果は単なる抗酸化作用によるものではなく、寿命制御における特異的な作用効果である可能性を示すことができました。このように、ケミカルバイオロジーによる研究手法が個体レベルでの生命現象の理解に有用であることが示されたことから、これらの手法をAD治療薬研究に適用することにしました。

さらに、ADの発症原因因子の一つであるヒトTau(MAPT)を神経細胞で過剰発現した系統を作製し、数種類の候補化合物を検討した結果、食品添加される色素化合物にTauの安定性を低下させると同時に、ショウジョウバエ記憶・学習能力の低下に対する抑制活性を有することを共同研究により明らかにしました (Mohideen et al., 2015)。これらの研究から、ショウジョウバエを用いたケミカルバイオロジーによる研究アプローチはAD治療薬の開発にも極めて有用な手法であることを示すことができました。

b)ショウジョウバエとマウスを用いたAD治療薬探索研究

これまで当研究室では、ショウジョウバエとマウスの両方で創薬開発に資するAD解析モデルの確立に成功しています。そこで、これら2つの研究手法を組み合わせて、個体レベルでのAD治療薬探索研究を進めています。薬剤スクリーニングを行うにあたって、私たちは機能性食品由来の化合物に着目しました。これまで、認知症と食生活との間には密接なつながりがあることが示唆され、認知症に対する予防効果が期待される多くの機能性食品(認知症改善機能性食品)が報告されています。さらに、食品由来の化合物は安全性が担保され、長期投与にも耐えられることが期待されることから、ADにおける「早期診断に続く先制治療」という観点からも有利だと思われます。実際には、製薬企業から入手した認知症改善機能性食品由来の100種類の化合物を用いて、ショウジョウバエのADモデルで1次スクリーニングを行い、得られた候補化合物を新規ADモデルマウスで検定することにしました。

ショウジョウバエADモデルを用いて化合物を一つずつ調べた結果、変異Aβ42による行動異常の発現を抑制することができる5種類の化合物の同定に成功しました。さらに、これら5種類の化合物とAβとの直接の相互作用について、表面プラズモン共鳴を利用した分子間相互作用解析装置(ProteOn)で検討した結果、4種類がAβ42に直接結合することが確かめられました。現在、これらを新規マウスモデルにショウジョウバエによる探索研究から同定されてきた薬剤候補を2ヶ月間投与することにより、聴力低下に対する効果の判定を行っています。ここで効果が確認された化合物に関しては、最終的には既存のADモデルマウスに投与することにより、記憶・学習障害に対する効果を検定する予定です。

本研究のような、ショウジョウバエとマウスの解析系を組み合わせた個体レベルでの薬剤探索研究はこれまでに例が無く、開発が困難だったAD治療薬開発のブレークスルーになる可能性が期待されています。

ショウジョウバエとマウスによる薬剤探索

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メンバー

室長

津田玲生(Leo Tsuda)

研究歴

  • 金沢大学大学院自然科学研究科修了(愛知県がんセンター研究所 西田育巧部長に師事)
  • 日本学術振興会特別研究員 (名古屋大学大学院理学研究科 西田育巧 研究室)
  • ヒューマンフロンティア サイエンスプログラム長期フェローシップ
  • 米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) ハワードヒューズ医学研究所 ポストドクトラルフェロー(S. Lawrence Zipursky 研究室)
  • 理化学研究所CDB 研究員(林 茂生 研究室)
  • 国立長寿医療センター研究所、老化機構研究部 生体機能研究室 室長 
  • 国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター、 創薬モデル動物開発研究プロジェクトチーム・プロジェクトリーダー 等を歴任

現在

  • 国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター、 創薬モデル動物開発室 室長

連絡先: ltsuda[at]ncgg.go.jp ([at]を@に変換してください)

研究生

林   永美 (Young-Mi Lim )

研究技術員

山崎泰豊 (Yasutoyo Yamasaki )

実験補助員

市原沙織 (Saori Ichihara)

東 貴美 (Takami Azuma )

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原著論文

Publications(5年間)

2016

・ Sofola-Adesakin, O., Khericha, M., Snoeren, I., Tsuda, L., Partridge, L. pGluAβ increases accumulation of Aβ in vivo and exacerbates its toxicity. Acta Neuropathologica Communications, 4(1): 109 (2016)

・ Omata, Y., Tharasegaran, S., Lim, YM., Yamasaki, Y., Ishigaki, Y., Tatsuno, T., Maruyama, M., and *Tsuda, L. Expression of amyloid-b in mouse cochlear hair cells caused early-onset auditory defect against high frequency sound stimulation. Aging, 8: 427-440 (2016)(表紙に採択)

・ Lim, YM., *Tsuda, L. Ebi, a Drosophila homologue of TBL1, regulates the balance between cellular defense responses and neuronal survival. American Journal of Neurodegenerative Diseases, 5: 62-68 (2016)

2015

・ Seik Mohideen, S., Yamasaki, Y., Omata, Y., Tsuda, L., *Yoshiike, Y.  Nontoxic singlet oxygen generator as a therapeutic candidate for trating tauopathies. Scientific Reports, 5: 10821 (2015)

・ Lim, YM., Yagi, Y., *Tsuda, L. Cellular Defense and Sensory Cells Survival Require Distinct Functions of ebi in Drosophila. PLOS ONE, 10: e0141457 (2015)

2014

・ Tsuda, L. and Lim, Y. The regulatory system for the G1-arrest during neuronal development in Drosophila. Dev Growth Diff, 56, 358-367 (2014)

・ Amcheslavsky A, Nie Y, Li Q, Tsuda L, Markstein M, and *Tony IP, Y. Gene expression profiling identifies the zinc-finger protein Charlatan as a regulator of intestinal stem cells in Drosophila. Development, 141, 2621-2632 (2014)

・ Omata, Y., Lim, YM., Akao, Y., and *Tsuda, L. Age-induced reduction of autophagy-related gene expression is associated with onset of Alzheimer’s disease. American Journal of Neurodegenerative Diseases, 3: 134-142 (2014)

2013

・ Lim, YM., Yamasaki, Y., and *Tsuda, L. Ebi alleviates excessive growth signaling through multiple epigenetic functions in Drosophila. Genes to Cells, 18, 909-920 (2013)

・ Yagi, Y., Lim, YM., Tsuda, L., and *Nishida, Y. fat facets induces polyubiquitination of Imd and inhibits the innate immune response in Drosophila. Genes to Cells, 18, 934-945 (2013).

2012

・ Lim, YM., Hayashi, S., and *Tsuda, L. Ebi/AP-1 suppresses pro-apoptotic gene expression and permits long-term survival of Drosophila sensory neurons. PLOS ONE, 7: e37028 (2012)

Pickup Papers

(1) Tsuda, L., Kaido, M., Lim,Y.M., Kato, K., Aigaki, T., and Hayashi, S. An NRSF/REST-like repressor under negative control of Su(H)/SMRTER/Ebi repressor complex regulates eye development in DrosophilaEMBO J, 25, 3191-3202 (2006)

(2) Tsuda, L., Nagaraj, R., Zipursky, S.L., and Banerjee, U. An EGFR/Ebi/Sno pathway promotes Delta expression by interacting Su(H)/SMRTER repression during inductive Notch signaling. Cell, 110, 625-637 (2002)

(3) Dong, X., Tsuda, L (Co-first author), Zavitz, KH., Lin, M., Li, S., Carthew, RW., and Zipursky, SL. ebi regulates epidermal growth factor receptor signalig pathways in DrosophilaGenes Dev, 13, 954-964 (1999)

(4) Tsuda, L., Inoue, YH., Yoo, MA., Mizuno, M., Hata, M., Lim, YM., Adachi-Yamada, T., Ryo, H., Masamune, Y., Nishida, Y. A protein kinase similar to MAP kinase activator acts downstream of the raf kinase in DrosophilaCell, 72, 407-414 (1993)

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案内

※現在、当研究室では以下のように研究員を募集しています。

※国立長寿医療研究センターは近隣の大学(名古屋大学、名古屋市立大学、名城大学等)と連携大学院になっております。大学院の学生も受け入れておりますので、興味のある方はメールでお問い合わせください。
ltsuda[at]ncgg.go.jp ([at]を@に変換してください)

研究員募集

【応募資格】

博士号取得者。
分子生物学や生化学もしくはマウス等モデル生物を使った研究経験のある方を歓迎します。

【待遇】

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターの規定に従う。

【着任時期】

採用決定後,できるだけ早い時期。

【研究期間】

1年ごとに更新(最長3年)。​

【応募書類】

  1. 履歴書(写真貼付,様式自由。連絡先にメールアドレスあるいは携帯電話番号を記載すること)
  2. 研究業績一覧
  3. 志望理由

【応募書類提出先】

E-mailでの提出が望ましい。
E-mail(津田玲生): ltsuda[at]ncgg.go.jp ([at]を@に変換してください)
※郵送の場合の宛先
〒474-8511 愛知県大府市森岡町7丁目430番地
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
認知症先進医療開発センター
創薬モデル動物開発室 津田 玲生宛
なお,応募書類は返却致しませんのでご了承ください。

【選考内容】

書類選考後面接。
選考結果については,応募者に個別に連絡致します。

【連絡先】

〒474-8511 愛知県大府市森岡町7丁目430番地
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
認知症先進医療開発センター 創薬モデル動物開発室
津田 玲生
E-mail: ltsuda[at]ncgg.go.jp ([at]を@に変換してください)

問い合わせは、できるだけメールでお願い致します。

 

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