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病因遺伝子研究室

はじめに

 認知症を引き起こす代表的な神経変性疾患であるアルツハイマー病(AD)には
様々な発症リスクが存在することが知られていますが、なかでも最大のリスク因子は
老化です(下図)。では一体、なぜ老化はADの発症リスクを高めるのでしょうか?
そもそも、老化は私たちの脳にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
 AD患者の脳にはアミロイドβ(Aβ)という蛋白質が凝集してできた「老人斑」と、
異常にリン酸化したタウという蛋白質が重合して蓄積した「神経原線維変化」という
2つの特徴的な病変が病態の進行とともに形成されていきます。
 ADはヒト特異的(=人間だけに見られる)な神経変性疾患ですが、実はこの2つの
病変は、ヒト以外の動物の脳組織でも老化とともに形成されることが知られています。
とりわけ、ヒトに近縁な霊長類であるカニクイザルは寿命が30年以上に及ぶだけで
なく、老人斑と神経原線維変化の両方が確認されることから、脳の老化、そして老化
とADとの関係を研究するうえで非常に重要なモデル動物であると考えられます。
 一方、Presenilin-1という遺伝子に変異を有する家族性AD患者は、通常の孤発性
AD患者に比べて発症時期が早いことから、脳の老化を加速化させている可能性も
考えられます。
 そこで当研究室では、様々な年齢のカニクイザル脳組織から得られた事実を基に、
老化は脳にどのような変化をもたらすのか、そして脳の老化はどのようなメカニズム
でADの発症を促すのかを検索するとともに、家族性AD原因遺伝子であるPresenilin-1
と脳の老化との関係にも焦点を当て、新たなADの治療法・予防法を確立するための
研究活動を行っています。
 脳の老化メカニズムの解明、そしてADの克服に向けて一緒に研究をしてくださる
大学院生を募集しています。もちろん出身学部は問いませんので、私たちの研究に
興味を持って下さった方はメール等で気軽にご連絡ください。

    連絡先:kimura (at) ncgg.go.jp   ( (at)の部分を@に変えてください)

Figure: AD and risk factors

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研究内容

エンドサイトーシス障害に注目したアルツハイマー病の病態メカニズム解明

 様々な年齢のカニクイザル脳組織を用いた検索によって、脳内では老化に伴い
Dynein(ダイニン)という軸索輸送モーター蛋白質の機能が低下し、その結果として
エンドサイトーシスと呼ばれる一連の膜輸送機構が障害されることを発見しました。
 エンドサイトーシスは、神経伝達物質の放出・取り込みや神経栄養因子の輸送など、
神経細胞の生理学的機能を支える必要不可欠の機構ですが、ADの原因蛋白質と
考えられているアミロイドβ(Aβ)の産生とも密接に関係しており、エンドサイトーシスが
障害されるとAβが時間依存性に細胞内(小胞内)に蓄積することを明らかにしました。
 さらに、これら老化に伴うエンドサイトーシス障害は、ADの初期病変である老人斑の
形成よりも早期に生じているという事も明らかとなりました。
 これらの結果から、老化に伴うエンドサイトーシス障害はAD発症メカニズムの根幹に
関与している可能性が考えられることから、この病態仮説を「Traffic Jam仮説」と名付け、
治療薬の開発も視野に入れた研究活動を継続しています。
Figure: Traffic Jam Hypothesis

Presenilin-1の遺伝子変異が神経細胞にもたらす生物学的意義の解明

 家族性ADの大部分はPresenilin-1(PS1)という因子の家系性遺伝子変異が占めており、
PS1の遺伝子変異はAβの産生量や、より神経毒性の高いAβ42の産生比率を上昇させる
ことでAD発症の原因となると考えられてきました。しかし近年の研究成果では、必ずしも
PS1の遺伝子変異がAβの産生量を増加させるとは限らず、脳内にAβが大量に存在しても
認知症を発症していない臨床像も報告されていることから、PS1の遺伝子変異には未知の
認知症発症メカニズムが隠されている可能性が考えられます。
 そこで私たちの研究室では、PS1の生理学的機能を改めて詳細に検索することで、PS1の
遺伝子変異が神経細胞にもたらす生物学的意義を解明したいと考えています。とりわけ、
家族性ADもまた加齢を経て発症する疾患であるという事実に基づき、“老化とPS1”という
新たな観点からこのテーマに取り組んでいます。
 そして、これら変異遺伝子に注目した研究と、これまでの老年性病態に関する研究成果を
融合・発展させて包括的に認知症発症機序の根幹に迫り、老化や遺伝子変異等がもたらす
リスク因子をマネジメントして認知症の発症・進行を防ぐという戦略に基づいた治療薬開発
への足がかりを築いていきたいと考えています。


2型糖尿病によるアルツハイマー病発症促進メカニズムの解明

 2型糖尿病は現代を象徴する生活習慣病の1つですが、近年の疫学調査によって、
2型糖尿病の罹患者はADを発症するリスクが約1.5倍に高まることが明らかとなり、
世界的に大きな注目を浴びるようになりました。
 そこで、私たちも2型糖尿病を自然発症したカニクイザルの脳組織を検索したところ、
2型糖尿病を発症したカニクイザルの脳組織では老化に伴うエンドサイトーシス障害が
より進行しており、それに伴ってAβの凝集病変である老人斑の形成が加速化している
ということを発見しました(Okabayashi et al., PLoS ONE 2015)。
 この結果から、2型糖尿病は脳内におけるAβの代謝に影響を及ぼすということだけ
ではなく、脳の老化そのものを進行させている可能性が考えられます。そして何よりも
重要なことは、2型糖尿病は遺伝子変異によって発症する疾患ではなく、生活習慣と
いう環境因子によって引き起こされる疾患であるということです。つまり、環境因子を
うまく整えることで、脳の老化進行を緩やかにすることができるかもしれません。
 そこで私たちはまず、2型糖尿病がどのようなメカニズムでADの発症を促進する
のかを明らかにするため、2型糖尿病が神経細胞やグリア細胞の機能にどのような
変化をもたらすのかを研究しています。

 

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メンバー

Member photo

木村 展之:Nobuyuki Kimura, D.V.M., Ph.D. (室長;写真中央)
竹内 真吾:Shingo Takeuchi, Ph.D. (流動研究員;写真左)
土屋 由加子:Yukako Tsuchiya (研究補助員;写真右)

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論文業績

Kimura N, Yanagisawa K. (2017) Traffic Jam Hypothesis: The Relationship Between Endocytic Dysfunction and Alzheimer's Disease.​ Neurochem Int, S0197-0186 (17): 30249-8

Uchihara T, Endo K, Kondo H, Okabayashi S, Shimozawa N, Yasutomi Y, Adachi E, Kimura N. (2016) Tau pathology in aged cynomolgus monkeys is progressive supranuclear palsy/corticobasal degeneration- but not Alzheimer disease-like -Ultrastructural mapping of tau by EDX. Acta Neuropathol Comm,4(1): 118

Kimura N. (2016) Diabetes mellitus induces Alzheimer’s disease pathology: histopathological evidence in animal models. Int J Mol Sci,17(4): 503

Kimura N, Samura E, Suzuki K, Okabayashi S, Shimozawa N, Yasutomi Y. (2016) Dynein Dysfunction Reproduces Age-Dependent Retromer Deficiency: Concomitant Disruption of Retrograde Trafficking Is Required for Alteration in APP Metabolism. Am J Pathol, 186(7): 1952-1966

Ueda N, Tomita T, Yanagisawa K, Kimura N. (2016) Retromer and Rab2-dependent trafficking mediate PS1 degradation by proteasomes in endocytic disturbance. J Neurochem, 137(4): 647-658

Ishiguro A, Kimura N, Watanabe Y, Watanabe S, Ishihama A. (2016) TDP-43 recognizes RNA G-quadruplex structures, and controls neurite mRNA transport for local protein synthesis. Genes Cells, 21(5): 466-481

Okabayashi S, Shimozawa N, Yasutomi Y, Yanagisawa K, Kimura N. (2015) Diabetes mellitus accelerates Aβ pathology in brain accompanied by enhanced GAβ generation in nonhuman primates. PLoS ONE, 10(2): e0117362

Yuyama K, Sun H, Usuki S, Sakai S, Hanamatsu H, Mioka T, Kimura N, Okada M, Tahara H, Furukawa J, Fujitani N, Shinohara Y, Igarashi Y. (2015) A potential function for neuronal exosomes: sequestering intracerebral amyloid-β peptide. FEBS Lett, 589(1): 84-88

Kimura N, Okabayashi S, Ono F. (2014) Dynein dysfunction disrupts Aβ clearance in astrocytes via endocytic disturbances. Neuroreport, 25(7): 514-520.

Morihara T, Hayashi N, Yokokoji M, Akatsu H, Silvermana MA, Kimura N, Sato M, Saito Y, Suzuki T, Yanagida K, Kodama TS, Tanaka T, Okochi M, Tagami S, Kazui H, Kudo T, Hashimoto R, Itoh N, Nishitomi K, Kabata-Yamagichi Y, Tsunoda T, Takamura H, Katayama T, Kimura R, Kamino K, Hashizume Y, Takeda M. (2014) Transcriptome analysis of distinct mouse strains reveals kinesin light chain-1 splicing as an amyloid beta accumulation modifier. PNAS, 111(7): 2638-2643

Kimura N, Okabayashi S, Ono F. (2012) Dynein dysfunction disrupts intracellular vesicle trafficking bidirectionally and perturb synaptic vesicle docking via endocytic disturbances: a potential mechanism underlying age-dependent impairment of cognitive function. Am J Pathol, 180(2): 550-561

Uchida A, Sasaguri H, Kimura N, Ono F, Sakaue F, Hirai T, Tajiri M, Kanai K, Ohkubo T, Sano T, Shibuya K, Kobayashi M, Ueno T, Sunaga F, Ikeda S, Kubodera T, Tomori M, Sakaki K, Kusano K, Enomoto M, Yokota S, Hirai Y, Yasutomi Y, Uchihara T, Kuwabara S, Mizusawa H, Yokota T. (2012) Non-human primate model of ALS with cytoplasmic mislocalization of TDP-43. Brain, 135(3): 833-846

Matsushima T, Saito Y, Elliott JI, Iijima-Ando K, Nishimura M, Kimura N, Hata S, Yamamoto T, Nakaya T, Suzuki T. (2012) Membrane-microdomain localization of amyloid β-precursor protein (APP) C-terminal fragments is regulated by phosphorylation of the cytoplasmic Thr668 residue. J Biol Chem, 287(23): 19715-19724

Nishimura M, Nakamura S, Kimura N, Liu L, Suzuki T, Tooyama I. (2012) Age-related modulation of γ-secretase activity in non-human primate brains. J Neurochem, 123(1): 21-28

Okabayashi S, Kimura N. (2010) LGI3 interacts with flotillin-1 to mediate APP trafficking and exosome formation. Neuroreport, 21(9): 606-610

Oikawa N, Kimura N, Yanagisawa K. (2010) Alzheimer-type tau pathology in advanced aged nonhuman primate brains harboring substantial amyloid depositio. Brain Res, 1315: 137-149

Kimura N, Inoue M, Okabayashi S, Ono F, Negishi T. (2009) Dynein dysfunction induces endocytic pathology accompanied by an increase in Rab GTPases: a potential mechanism underlying age-dependent endocytic dysfunction. J Biol Chem, 284(45): 31291-31302

Okabayasi S, Kimura N. (2008) Leicine-rich glioma inactivated 3 is involved in amyloid β peptide uptake by astrocytes and endocytosis itself. Neuroreport, 19(12): 1175-1179

Kimura N, Yanagisawa K. (2007) Endosomal accumulation of GM1-ganglioside- bound amyloid β-protein in neurons of aged monkey brains. Neuroreport, 18(16): 1669-1673

Okabayashi S, Kimura N. (2007) Immunohistochemical and biochemical analyses of LGI3 in monkey brain: LGI3 accumulates in aged monkey brains. Cell Mol Neurobiol, 27(6): 819-830

Kimura N, Imamura O, Ono F, Terao K. (2007) Aging attenuates dynactin-dynein interaction: down-regulation of dynein causes accumulation of enodogenous tau and APP in human neuroblastoma cells. J Neurosci Res, 85(13): 2909-2916

Kimura N, Ishii Y, Suzaki S, Negishi T, Kyuwa S, Yoshikawa Y. (2007) Aβ upregulates and colocalizes with LGI3 in cultured rat astrocytes. Cell Mol Neurobiol, 27(3): 335-350

Kimura N, Takahashi M, Tashiro T, Terao K. (2006) Amyloid β up-regulates brain-derived neurotrophic factor production from astrocytes: rescue from amyloid β-related neuritic degeneration. J Neurosci Res, 84(4): 782-789

Kimura N, Yanagisawa K, Terao K, Ono F, Sakakibara I, Ishii Y, Kyuwa S, Yoshikawa Y. (2005) Age-related changes of intracellular Abeta in cynomolgus monkey brains. Neuropathol Appl Neurobiol, 31(2): 170-180

Kimura N, Negishi T, Ishii Y, Kyuwa S, Yoshikawa Y. (2004) Astroglial responses against Abeta initially occur in cerebral primary cortical cultures: species differences between rat and cynomolgus monkey. Neurosci Res, 9(3): 339-46

Hayashi H, Kimura N, Yamaguchi H, Hasegawa K, Yokoseki T, Shibata M, Yamamoto N, Michikawa M, Yoshikawa Y, Terao K, Matsuzaki K, Lemere CA, Selkoe DJ, Naiki H, Yanagisawa K. (2004) A seed for Alzheimer amyloid in the brain. J Neurosci, 4(20): 4894-902

Kimura N, Tanemura K, Nakamura S, Takashima A, Ono F, Sakakibara I, Ishii Y, Kyuwa S, Yoshikawa Y. (2003) Age-related changes of Alzheimer’s disease-associated proteins in cynomolgus monkey brains. Biochem Biophys Res Commun, 10(2): 303-11

Kimura N, Nakamura S, Honda T, Takashima A, Nakayama H, Ono F, Sakakibara I, Doi K, Kawamura S, Yoshikawa Y. (2001) Age-related changes in the localization of presenilin-1 in cynomolgus monkey brain. Brain Res, 922(1): 30-41

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